「さてこれから第二の人生を始めよう」。仕事はデキるが、幸か不幸かバツイチになり、金と時間を持て余してしまった40代の某パチンコホールオーナー木村哲司(仮名)は、今日も夜会を求めて街を彷徨う。実在する人物の実体験をベースにしたファクション新連載。(原案・木村哲司 文・PiDEA X編集部)
前妻との間にできた娘が「どうしても行きたい」と言うので、2月初旬に行われたテイラー・スウィフトのコンサートに行った。その日の夜、ある地方ホールの社長友だちから連絡が入り、「木村さん、今から六本木に来てください」と要件不明のお誘いを受けることになった。
「ここですここ」とLINEで急かされる。送られてきたURLをタップしてみると、店名は「ベネチアン東京」とある。行ったことはないが六本木でも有名な店だ。酒をほとんど飲まず、キャバクラにはあまり寄り付かない私でも知っている。
余談だが、つい先日「鮨よし田」の件で億バズをかましていたあのラウンジ嬢も、同じビルのお店に移籍したそうだ。今では大将と和解してなにより。
さて、そのホール社長に促されて店内に入ると、六本木でナンバーワンという女性がついてくれた。「今日は勉強する日」と心に決めてナンバーワンと話し込んでいく。
聞くと今キャバクラ嬢は皆インスタをやっていて、何万人ものフォロワーを抱えているらしい。そういえば以前、社会勉強のために行った北新地のキャバクラで出会ったナンバーワンにも数万人のフォロワーがついていると聞いた。彼女たちは毎日ストーリーを上げていて、もはやインフルエンサーそのものだった。
面白いのが、彼女たちはストーリーで高級シャンパンをボンボン開けていく動画を出していることだ。相手にしている太客はほとんど何かしらのビジネスに成功してお金を持っている強気な人たち。だからその動画を見て、「次に俺が行った時には、ストーリーで見たあの日より開けてやる」と競争心を掻き立てられるというのだ。
普段パパ活で素人の女性と遊ぶことを好んでいる木村哲治からすると、勉強になるという点では非常に興味深い。
LINEを交換してみるとよく分かるが、嬢としてのランクが上がれば上がるほど、まめな営業LINEが飛んでくる。自分が起きたタイミングですべての客に対して「おはよー」と送ってくるのだろう。その中で会話が生まれた客とやりとりを始めて次回の来店につなげていく。
キャバクラは一回来店してもらっただけでは疎遠になり来てくれなくなってしまうものだ。だから色恋を錯覚させるような細やかな気の回し、言葉のチョイスで来店動機を生み出している。ナンバーワンからのLINEを受けとって、「この辺はパチンコホールと通ずるものがあるか……」とも考えたが、「いや、ないな(笑)」と1人自問自答し吹いてしまった。
北新地の嬢からあまりにたくさんのLINEが飛んでくるものだから、一度ものは試しとデートをしてみた。まずはショッピングに行き、アクセサリーを買ってあげたら、いろいろなことを教えてくれた。その後にちゃんと2万円くらいするようなゴディバのチョコレートをお返してくれる。そういうバランス感覚はすごいなと思う。
歩きながら世間話をしていると、彼女は「確定申告しないと」と焦っているようだった。
ということは確定で2000万円以上収入があるんだなということが分かる。シャンパンを開けている回数もストーリーから窺えるので、推定収入は月200万以上は固い。マンションや車などの資産を含めればもっとあるのだろう。彼女たちが稼げる期間は短いので、例えば21歳で業界に入ったとしてもやれて5年6年くらい。短期決戦型だ。
店によっては色恋営業も辞さず、「好き」とは言わないが、売上を上げようと必死に努力しているんだなと分かる。やっぱり売れっ子はインフルエンサーであり、接客業とSNSの関係性はそこまで近づいてきているということを実感せざるを得ない。
昔の女の子は「歌手にないたい」とか「アイドルになりたい」とかで一攫千金を夢見ていたかもしれないが、最近の若い子はキャバクラでも十分手っ取り早くお金を稼ぐことができる。繁華街が有名なエリアで働けば、ちょっとアルバイトした感覚でも半月でば50万くらいは稼げるので金銭感覚もバグるだろう。
事実、六本木や北新地の女の子は、ロレックスをはめてたり、カルティエの宝石を身につけていたり、エルメスのピコタンというバッグを持っていたりする。お客さんに買ってもらった子もいるだろう。
「でもお客さんに買ってもらったものを身につけていて、他のお客さんがおじけずいたりしないの?」と聞くと、「お金持ちのお客さんは競争心が強い人が多いので、『じゃあ俺がもっといいもの買ってやるわ』となるから逆に高価なを持っていてもいい」という。
弱者男性であればそれをみて「敵わねぇ」と撤退するが、その界隈では「もっと」と真逆なことが起こるのだ。
私も繁盛しているホールオーナーである。お金がないわけではないが、「そういう世界もあるんだな」というのが率直な感想だ。いくらお金を注ぎ込んだところで心が満たされることはないだろう。結局、キャバクラでポンポンシャンパンを開けている人の中にはまっとうなことで稼いでないあぶく銭で遊んでるやつも多く、堅実な経営者である私としては、そういう競争には参加しない方がよっぽどコスパはいいし、そもそも「草野球で楽しんでいたヤツがいきなりプロ野球の球打てねえよ……」と思う次第なのである。
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