今日もどこかで誰かが炎上中 それでも止まらないのはなぜなのか?

2023.01.13 / 連載

誰もがTwitterやYouTubeなどのSNSを活用する時代で、企業もそれらをプロモーションで使うことはなんら珍しいことではなくなっている。
誰でも簡単に使えるからこそ、企業が使う場合はコンプライアンスを徹底した上でリスクを考えて活用すべきであると再三お伝えしてきたが、2022年も業界内外で炎上する案件が多数見受けられた。今回は新年号ということもあり、初心に立ち返ってSNSにまつわる炎上ネタを反面教師としてピックアップした。改めて新年こそは安全で効果的なSNSの活用方法を模索していただきたい。


2022年に燃え続けた
吉野家の不祥事

2022年に一番炎上した企業を想像してください。あなたの頭に浮かんだのは、大手牛丼チェーンの吉野家ではないでしょうか。これがメンタリズムです……、という冗談はさておき、今回炎上企業の代表として吉野屋を取り上げたのは理由がある。その説明は後でするので、今は読み進めていただきたい。

まず、吉野家の炎上事例の1つ目は「名前入りオリジナル丼」プレゼントキャンペーンだ。『週刊少年ジャンプ』で連載していた人気漫画『魁!!男塾』とのコラボ企画で、対象期間中に来店して300円以上の支払いをすれば米札(マイル)が貯まり、最大220米札を貯めると「名前入りオリジナル丼ぶり」がもらえとあって吉野家愛好家や原作ファンだけでなく多くの人がキャンペーンに参加した。
ところが、それまで丼に入れられる名前に条件や制約などはつけていなかったにもかかわらず、申し込みをするタイミングで「名前を本名に限定する」という条件がつけ加えられた。
吉野家からすると、著名人や特定キャラクターの名前をつけるのはいろいろ問題が発生する可能性があり、そのリスクを回避しようとしての判断だったのだろうが、後出しルール変更は不満が続出。埼玉県でトランポリン場を営んでいる男性が施設名の一部を丼に入れたいと吉野家に申し出たが、これに対して「どう考えても実名であるとは考えられない」→「(この発言が)差別行為に当たるというなら法務局に相談されては?」→「訴訟をされるなら弊社弁護士が真摯に対応させていただきます」などと、いささか攻撃的な文面のやり取りが、ネット上にさらされ炎上となった。コンプラを意識した結果の悲しい結末だ。

そして炎上2つ目が、「生娘シャブ浸け戦略」発言。こちらは1つめの事例に比べて知っている人も多いのではないだろうか。早稲田大学の社会人向け講座「デジタル時代のマーケティング総合講座」で講義を担当した吉野家の伊東正明常務取締役企画本部長(当時)の失言だ。「田舎から出てきた右も左も分からない若い女の子を無垢、生娘のうちに牛丼中毒にする。男に高い飯を奢ってもらえるようになれば、絶対に(牛丼を)食べない」という主旨の発言。また、若い女性をターゲットにしたマーケティング戦略を「生娘をシャブ漬け戦略」と表現するなど、とてもまともな企業の役員とは思えない発言だとして大炎上した。

3つ目は父親が外国籍、母親が日本籍の大学4年の女子学生が名前がカタカナだったということを理由に「外国籍の方の就労ビザの取得が大変難しく、ご縁があり内定となりました場合も、ご入社できない可能性がございます」という書面を受け取り、会社説明会の予約をキャンセルするようにと一方的に通達されたというもの。
女子学生は日本籍であり、これまでいくつもの会社説明会に参加できていたにも関わらず、吉野家だけは断られたという。その後、同じように差別を受ける人がいるかもしれないと考え、問題提起の意味も込めて、Twitterで吉野家から受け取った書面を投稿。ツイートはバズり、吉野家は当該女子学生に謝罪メールを送ることとなった。

「傲慢」「2度と食べない」など、辛辣な意見が多数寄せられ、企業イメージを損なった吉野家。いずれの騒動も自社SNSがきっかけではなく、各事件の被害者や第三者のSNS投稿がきっかけで露見、拡散していったのである。これまで、企業の電話対応や書面でのやりとりなど、簡単には露見しないと考えていたことが、SNSを通じて簡単に拡散されてしまうのである。

昨年ネットでもっともお騒がせしたのが牛丼チェーン大手の吉野家。いずれの事件も被害者や第三者によってSNSを通じて情報が拡散して炎上している。

 

SNSきっかけで広まる
不適切な企業姿勢

同様の話でいうと、老舗和菓子店「船橋屋」の元社長が起こした自動車事故映像の流出も話題となった。
本件は元社長である渡辺雄司氏が乗用車を運転中に赤信号に気づかず直進、右折してきた車に衝突した。事故は和解・示談が成立していたにも関わらず、1カ月ほどして、その当時のドライブレコーダーの映像がインターネット上に拡散され、渡辺元社長の暴言や暴力の様子が広まった。これにより、氏は社長の座を退任することとなったのである。

示談が成立していたにも関わらず、動画は「暴露系」のインフルエンサーの手に渡り、拡散。船橋屋の元社長にも多少の同情の声もあったが、火がついてからではもう後の祭りだ。事態を収集するために社長退任となったが、すでに解決していると高をくくっていると炎上を狙う暴露系インフルエンサーが過去の騒動を掘り起こして
拡散するリスクもある。炎上を防ぐにはSNSだけをチェックすればいいわけではないことがよく分かる。経営体制、経営者の思想、常日頃からの一挙手一投足にも細心の注意を払う必要があるだろう。

別の事例ではあるが、ナメクジ騒動で炎上した「大阪王将仙台中田店」は、社員のリークが発端となり、後に大阪王将からFC契約を解除され閉店となった。あまりにもずさんな管理体制が最大の問題であったのは疑いようのない事実だが、自社の社員であろうとSNSに蓋はできないということだ。SNSの管理をする前に、自社のコンプライアンスやガバナンスを見直すことが一番の特効薬なのである。 

老舗和菓子店の元社長の暴言や暴力がドライブレコーダーに映っており、和菓子屋は事実を認めて謝罪。社長更迭という人事で事態の収束を図った。

 

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