大手中古車販売会社の不正で 一層強まる企業コンプライアンスの重要性

2023.08.22 / 連載

現場に〝責任なすりつけ辞任〟
コンプラ軽視と売上重視の顛末
大手中古車販売会社「BIGMOTOR」による意図的な車両損壊で保険金を不正需給した問題が世間を賑わせている。元社長は「経営陣は知らなかった」とうそぶいたが、知らないで済む問題ではない。


ちまたを騒がせた不正請求
BIGMOTORの問題点とは?

 4月末に修理のために持ち込まれた車にわざと傷をつけて、損害保険会社3社に対して自動車保険の保険金を不正に水増し請求している企業があると週刊誌がスッパ抜いた。ご存じ、全国に300店舗以上を抱えている大手中古車販売会社の「BIGMOTOR(以下略BM社)」である。

中古車買取や販売に加えて、車検や修理対応、自動車損害保険の代理店業務を請け負っていた同社。修理に対応する板金部門では顧客から預かった車にゴルフボールでへこみをつけたり、サンドペーパーで車体の傷を広げたりしていたという。愛車を傷つけられることも許せないが、修理代を水増しして請求していたのだからもっとタチが悪い。 

著名俳優を起用したCMで認知度も高かった中古車販売会社に起こった不祥事。預かった車を意図的に壊したり、店舗前の街路樹を枯らすなど、大企業らしからぬお粗末な問題が噴出した。

 この問題が表面化し始めたのは2021年の秋ごろから。損保の業界団体に対し、「上長の指示で過剰な自動車の修理をし、その費用を保険会社に請求している」という旨の内部通報があったことがきっかけで、BM社と取引のある「損害保険ジャパン」「東京海上日動火災保険」「三井住友海上火災保険」の3社は2022年2月以降、修理費の請求書類を各社それぞれ数百件抽出してサンプル調査を実施。結果、全国に33あるBM社の整備工場のうち25の工場で、水増し請求が疑われる案件が合計80件以上見つかったという。

この発覚をもって、保険会社3社は内部調査を依頼したが、BM社の返答は「工場と見積作成部署との連携不足や、作業員のミスなどによるもの」「意図的なものでないことを確認している」などとして、組織的な関与ではないと結論づけた。
 それを受けて三井住友海上や東京海上日動などは「追加調査を」とねばったが、「損保ジャパン」が調査を早々に切り上げたこともあり、調査は暗礁に乗り上げた。

しかし、悪事を働く会社の中にも、その行為が許せない人たちはいる。BM社の元社員や現役社員の訴えが続き、前述のようなゴルフボールやサンドペーパーで傷をつけたことが明るみとなり、ついに言い逃れはできなくなった。

問題が露見した当初、同社は7月18日付で「兼重宏行(元)社長の報酬全額を1年間返上し、当時の副社長や専務らも報酬の10~50%を3カ月返上」すると発表。しかし、事態は収束せずに謝罪会見を開くことになったのだ。 責任をなすりつけて辞任した無責任謝罪会見の中身

7月25日に行われた兼重宏行元社長の謝罪会見は「企業のトップとは思えない」と批判が集中した内容となった。  会見の冒頭、兼重氏は「この度、損害保険会社様に対する保険金請求に際して、当社板金部門が不正な請求を行ってきたことが明らかになりました。(中略)当社を信頼いただいたお客様、損害保険会社様、お取引様をはじめとするステイクホルダーの皆様に多大なるご迷惑とご心配をおかけし、深くお詫び申し上げます。まことに申し訳ございませんでした。(後略)」と謝罪。

外部弁護士で構成された調査委員会の報告書で、今回の問題の原因として「不合理な目標設定」「コーポレートガバナンスの機能不全とコンプライアンス意識の鈍麻」「経営陣に盲従し忖度する歪な企業風土」「現場の声を拾い上げようとする意識の欠如」「人材の育成不足」が挙げられたことを明かしつつ、自身は代表取締役社長を辞任すること、また息子である長男も副社長を退くこと、新たな経営陣でこのような問題が起こらないように改革していくと発表した。
 前社長が(不正があったという)報告書を見たのは今年の6月26日。その内容に「愕然とした」と語り、自身を含む旧経営陣の関与を一切否定した。

当初、(謝罪)会見をしなかった理由に関しては「問題を甘く見ていた。報酬返上という対応で良いと思った」と認識の甘さを露呈している。

また、ゴルフボールで(車体に)傷をつけたことに対して「ゴルフを愛する人に対する冒涜です。刑事告訴を含む厳正な対処をしたい」とトンチンカンな回答しており、報道を見て思わず「そこ!?」とツッコミを入れた人も少なくないだろう。会見の終盤で、(社員の)刑事告訴は見送る意思を表明したのが唯一の救いだ。 

知らぬ存ぜぬで辞任を発表した前社長だが、非上場の会社で自身が持つ資産管理会社が株式を100%保有しているため「辞めても実効支配可能」と形ばかりの辞任は批判されている。

 潔く社長を辞任したように見えるが、同社は非上場企業のため、兼重氏の資産管理会社である「ビッグアセット」が100%の株式を保有するため社長を退いても体制は変わらないという指摘も出ている。

「現場に責任をなすりつけて社長は逃げるんですね」と後ろ指をさされてもしかたのない会見だった。正義感だけではなく、恨みつらみも含められたことでリークが相次いだのではないだろうか。

謝罪会見はあくまでも「保険金の不正請求」に対するものとして行われたが、同社に関する問題点は「不正請求」にとどまらない。ワイドショーを賑わせているのが店頭前の街路樹が枯れる「除草剤散布問題」。

新社長に就任する和泉伸二元専務は「雑草に撒いた除草剤が影響を与えてしまったというのはある」と責任を認める発言をしたが、これはBM社の群馬や埼玉、大阪、神奈川などの店舗前の街路樹だけ不自然に枯れてしまったという話で、SNSを中心に多数の投稿があり、店舗関係者が店頭前の街路樹に何かを散布しているような画像も出回っている。

自治体が植えた木を勝手に枯らすということ事態が異常なことだが、これは同社が行ってきた「環境整備点検」によるものである。現役従業員たちは「副社長(前)の視察で0点がつけば店長解任となるので、除草剤をまくことに対して罪悪感を持つことはなかった」という。別の元従業員は「社長、副社長の(意見は)絶対だと経営計画書に記載があった。社長よりも副社長の方が影響力があった」と語り、息子である元副社長の行き過ぎたパワハラが問題を引き起こした要因だと見る向きが大勢を占める。

また一部報道では前副社長は「死刑死刑死刑死刑……」と部下に対して異様な文字がならぶLINEを送ったという話も出ている。これはノルマを達成していないことへの叱責ということだが、明らかに度を越した内容だ。営業サイドでは、売上を達成するために「ローン審査の年収笠増し」や「勤続年数の偽り」「残債ローン額の書き換え」などを行ってきたという〝余罪〟も出てきている。まだ詳細は明らかになっていないが、実際に起こっていたとするならば、行き過ぎたノルマの圧がそうさせたとしか考えられない。不正請求しかり、除草剤しかり、ローンの虚偽申請しかり前副社長の咎は非常に大きいだろう。

 

 

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