大手中古車販売会社の不正で 一層強まる企業コンプライアンスの重要性(2)

連載

コンプラ軽視で問題続出
前副社長のパワハラが発端?

早稲田大学を卒業後、海外の大学でMBAを取得したという前副社長の兼重宏一は2018年ごろから父親の後を継いで経営を主導していった。前述したような執拗なLINEによる口撃だけでなく、学歴自慢やMBA取得をかさにかけ、理詰めで社員を追い込んでいったといわれている。店舗の様子を抜き打ちで視察する「環境整備」の時には黒塗りの車が見えた時点で全力ダッシュでお迎えをしないと「0点」と言い出し「店長降格」の憂き目にあわせるという暴挙も常態化していた。

事業を引き継いだ者として実績を積みたいという気持ちもあったのかもしれないが、息子の行為はあきらかにやり過ぎ。忖度して咎めなかった周りの幹部たちも同罪と捉える人はいるだろう。前述したBM社の現役社員は「社長と副社長がいなくなっても、副社長に追随していた幹部は皆残っているし、体制は結局変わらないのではないか」と不安な胸の内を語っているという。

謝罪会見で新社長になった和泉氏は「(社長や副社長の)強烈なリーダーシップに頼るあまり大事なお客さまではなく、会社を向かせて仕事させてしまっていた」と涙ながらに語っていたが、歪な企業風土が改善されるのであろうか。

新社長は涙の謝罪だが一方の元副社長は雲隠れ

新社長が会見で話した「強すぎるリーダーシップ」発言は、忖度した自分の不甲斐なさか、それとも恐怖の涙なのか。問題を引き起こした当事者である息子(前副社長)は表には出てこないで雲隠れしている。

 板金部門の保険金水増し請求に関しては国交省の立ち入り調査が行われているし、損害保険会社からの訴訟の可能性もある。また、街路樹の除草剤問題に関しては各店舗所在地の自治体が警察に被害届を出し始めているという。そんな中で懸念される最大の問題は「顧客離れ」だ。意図的に傷をつける会社に修理を出すわけもなく、これだけの悪評が連日のようにニュースやワイドショーで取り上げられている会社で、はたして車を買おうとするだろうか。

過去の企業不祥事を見てみると、2002年に当時の農林水産省がBSE(牛海綿状脳症)対策として実施した、全頭検査前の国産牛肉買い取り事業を悪用し輸入牛肉を国産牛肉と偽装して買取費用を不正請求した雪印食品や牛肉コロッケとうたいながら偽って豚肉をまぜていたミートホープ社などの偽装事件が思い浮かぶ。両社のケースも内部(関連会社含む)告発を受けて明るみになった事件で、今回のBM社も元社員や現役社員の密告で露見したという点から見ても非常に似ているケースといえるだろう。雪印食品もミートホープも倒産、消滅となったが、BM社は存続できるだろうか。 

今回のケースは内部告発で露見した過去の偽装事件に酷似している

目先の利益を追うことで、結果として最悪の事態に陥った偽装事件。パワハラをきっかけに、数々の問題が明るみとなったBIGMOTORは「顧客離れ」を克服して立ち直ることができるだろうか。

 企業が成長すればするほど、社員は増えていき現場に目が届きにくくなる。だからこそ、不平不満を抱えた社員からの告発も出てくるわけだ。そういう観点でいえば、謝罪会見で意図的に車体に傷をつけて「不正請求したとは知らなかった」という前社長の言葉は本当なのかもしれない。しかし、息子である副社長による強烈なパワハラに耐えかねて、社員が不正請求をしたとするならば、事実を知らなかったとしても責任の所在はあきらかだろう。

親の七光で入社した息子が強権を振りかざし、現場を混乱させることはパチンコ業界でもよくある話かもしれないが、BM社のケースでは、売上・利益至上主義を掲げるあまり、コンプライアンスやモラルの観点がすっぽりと抜け落ちてしまった典型例だ。

パチンコホールにとっては対岸の火事とは言い切れない。日々扱っている金額も大きいし、設定情報漏洩など不正につながりやすい機密も多い。そんな中で現場を知らない2代目経営者が無茶なノルマを課してくるようなことがあれば、パチンコ業界版のBM社のような不正事件に結びついてしまう可能性も十分に考えられる。事件が明るみになって「顧客離れ」が起こってしまっては立ち直ることは難しい。問題が起こらないように企業コンプライアンスを重視した堅実な経営を行うことが生き残りの最善策といえるはずだ。

 

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