【通報・確認システム】21世紀会の覚悟と権限 ②決議に基づくルールは適法、問題は組合の権限とプロセス

2020.11.11 / 組合・行政

「凱旋」撤去は期日内に完遂できるか?

通報・確認システム
21世紀会の覚悟と権限

10月19日、21世紀会の決議違反(高射幸性遊技機をはじめとする旧規則機の撤去期限を定めた自主規制を守っていないホール)の通報システムを整備し、情報を一元化する仕組みがスタートした。
初日から数十件の通報が集まり、その違反内容も多岐にわたっているという。

情報精査後、違反ホールに是正を促すことができるのか、さらには顧客でもあるホールに対し不都合なペナルティーを課すことができるのか。
旧規則機の撤去をめぐる喫緊の課題を整理した。

  1. 試される業界団体の本気度
    自主規制は「法律」と「悪しき慣習」を乗り越えられるか?
  2. 【インタビュー/池田毅弁護士】
    決議に基づくルールは適法 問題は組合の権限とプロセス
  3. 不法投棄は業界の未来を阻む
    330万台強の撤去に向け、早期排出と保管場所の確保を

【インタビュー/池田毅弁護士】
決議に基づくルールは適法 問題は組合の権限とプロセス

通報・確認システムにより21世紀会決議に反していることが明らかになったホールにはペナルティーが課される。

21世紀会が運営するシステムによって組合員にペナルティーを課すことに、ひいてはシステム自体に法的な問題はないのか。独占禁止法のスペシャリスト・池田毅弁護士に話を聞いた。

 


業界団体が決めたルールに合理性があるか否か

まずパチンコ・パチスロの業界団体が一律の自主規制(=ルール)をパチンコホールに課していいのかどうかという問題があります。それについては、そのルールがどれだけ合理的かに尽きると思います。

例えば、以前ゲームメーカーがガチャの課金問題とレアキャラの出現率について自主規制をしたように、規制に合理的理由があれば何ら問題はありません。
一方、本件は「特定のタイプの台を使うな、ホールの財産を外せ」という話です。しかも「射幸性の低い台で商売をしなさい」という営業方法にまで介入してくるわけですから、そこに合理性があるか、つまり射幸性の高い台の撤去を早めることを、法律が望んでいるか否かがポイントになります。
そこで警察庁の考え方なのですが、21世紀会におけるあいさつで同庁が「今回の規則改正はいわば業界による旧規則機の撤去の取り組みに対する信頼をベースに行ったものである」と言明していることが報じられたと聞きました。

話は少し横道にそれるのですが、1995年に大阪バス事件という審判がありました。過当競争の中で貸切バス業者の運賃がどんどん下がっていって、バス協会のメンバーによってみんなで値上げをしましょうという話になったんです。
競争者間で談合して価格をつり上げるのは価格カルテルになるのですが、法律上、バスの安全性を保つために幅運賃(下限と上限)があって、下限を下回ったところから下限へ戻すカルテルは法律の範囲内だから適法ですという審決が出たのです。

それを踏まえて、本件に話を戻せば、改正規則(経過措置期限の延長)がコロナの影響による特例措置であり、高射幸性機を外すことが大前提であれば、ガチャやバスの運賃の件と同じように「ルールとしては問題ない」と言えます。
 

警察庁の真意が絡む公取委としては難しい案件

ただし、問題があと2つあります。
まずルールの目的は正当であっても手段として合理的か否かという議論です。ルールの目的(高射幸性機は従来の期限どおりに撤去する)は正当ですが、それを執行する手段が合理的でないとダメです。その典型例は差別的に適用されるケースです。
例えばアウトサイダーを排除する仕組みとして適用されていれば問題です。

もう1つは、差別はしていなくても程度の問題があります。
例えば中古機の証紙が出ないとホールの営業に大きな支障をきたすとして、そのペナルティーの重さがルールとして守らなければいけない目的と釣り合っているのかということです。とは言っても、重要なのはこのルール自体が正当か否かということです。

高射幸性機は外すべきという警察庁の真意があり、業界としても望ましくないということであれば、規則上は1年延期されてもその前に外すという合意をしたことで、それが独禁法違反になることはないと思います。

さらに言えば、これを独禁法違反と指摘しても、それでどうするのかという話もあります。
これを事件化しても警察庁にとって喜ばしい話ではありませんし、仮に違法の疑いがあるとしても公取委としては扱いにくい案件だと思います。訴えがあって、公取が動くなら警察に照会をかけると思います。そこで「コロナ禍で陳情され止むを得ず期限を伸ばしたんです」という返答があると、それでも公取委が問題視して摘発に動くかというと難しいでしょうね。
 

財産を奪う権限があるか、ルールの手続きは正当か

ただ本件のルールについて気になるのは、独禁法の問題以前としてそれぞれのホールが所有している財産を奪う権限が組合団体にあるのかということです。そもそもそんなルールを作る権限は組合団体にはないというのが争点になるかもしれません。

決議に従う意志を示す誓約書を99.5%のホールが出したということですが、誓約書を出して従わないホールにペナルティーが課されるのは仕方がないとして、誓約書を出していないホールに対して、ペナルティーを課す権限は組合団体にはなく、もしペナルティーを課すなら損害賠償を起こすと言われてしまう可能性はあります。
組合団体だから何でも決めていいというわけではなく、そこは個別に規約を確認してみないと何とも言えません。

しかし、本件のルールはみんなが足並みをそろえることに意味があり、抜け駆けが許されるなら正直者がバカをみることになります。
法律の世界ではLRAの基準(当該目的を達成するためにより制限的でない他の選びうる手段が存在するかどうかを基準とする)がありますが、当該機種を外すということ以外、他の手段がないのだとすれば外すというルールもやむなしだと思います。

そして、残る問題点は本件のルールがきちんとした手続きで決められたのかということです。実際にルールを適用するとなると、ホールの組合で本件について決議し、組合員によって可決されないといけません。それがきちんと行われたか否か。
組合員の賛同を得ずに上層部だけで進め、平場で組合員がきちんと論議していれば、反対していたとなると独禁法上問題になる可能性もあります。

今回、コロナ禍で急を要していた中でルール決めのプロセスに正当性を持たせられるか。そこを各組合団体の規定に当てはめて検証する必要はあると思います。


池田 毅(いけだ つよし)

1978年大阪府生まれ、2002年京都大学法学部卒業。

公正取引委員会に勤務して、20件近い立入検査や知財・ITタスクフォースにおける事件審査、課徴金減免(リニエンシー)制度の施行準備、当時公取委が所管していた景品表示法違反事件の審判担当などを担当し、実務の最前線の知見を有している。

独占禁止法・景品表示法・下請法・贈賄規制法等で難度の高い事件を多数経験しており、国際法曹協会(IBA)独占禁止法委員会では日本人唯一の委員(Officer)を務め、Who’s Who Legal等の国際的な弁護士評価において日本を代表する独禁法弁護士の1人に選定されている。


試される業界団体の本気度
自主規制は「法律」と「悪しき慣習」を乗り越えられるか?


不法投棄は業界の未来を阻む
330万台強の撤去に向け、早期排出と保管場所の確保を

 

21世紀会決議, 21世紀会, パチンコ・パチスロ産業21世紀会, 誓約確認機関, 21世紀会誓約確認機関, 通報・確認システム, 独占禁止法, 池田毅, 弁護士