顔は広告になる! パチンコ業界の次なる広告戦略2026
2026.05.08 / その他稼ぎたければ顔を出せ
「人は知らないものにお金を使わない」― 院長の顔を大きく打ち出したインパクトのある看板で絶大な認知度を誇る「きぬた歯科」。日本一顔が割れた歯科医として有名な院長のきぬた泰和氏は、自身の著書『異端であれ!』にて、マーケティングの本質を極めてシンプルにこう言い表している。
きぬた歯科がインプラントに特化した歯科医院として安定的に業績を伸ばしていた2012年の初め頃、NHKの報道番組が歯科インプラントのトラブルについて取り上げた特集を放送した。その放送をきっかけに、インプラントへのマイナスイメージが全国的に広がり、きぬた歯科もその煽りを大きく受けたという。
そんな危機的状況から、なんとか経営を立て直そうと、きぬた泰和院長が力を入れたのが、かの有名な「顔出し看板」戦略だったという。実際、その効果は抜群で、今では誰もが知っている日本一有名な歯科医院へと急成長を遂げた。
日本一顔が知られている歯科医師と言っても過言ではない、きぬた泰和氏の著書。人目を気にせず、必死になって働き続けた自身の生き方を〝異端〟を定義付け、その人生をまっとうする哲学を解いた一冊。
顔を出すことは「記憶を取りにいく行為」である。
きぬた氏の著書『異端であれ!』の中では、ビジネスにおいて最も重要なのは、「知ってもらうこと=認知」であると記されている。
いくら院長の顔を大きく打ち出した看板を出そうと、その看板を見た人がその場ですぐに来院を決めることはほとんどない。にもかかわらず、なぜあそこまで徹底して顔を出すのか。理由は明確だ。今すぐ来院させるためではなく、頭の中に入り込むためである。
消費者はいつ、どのタイミングで行動するか分からない。歯が痛くなったとき、引っ越しをしたとき、家族が医院を探しているとき。その瞬間までニーズは顕在化しない。そしてその行動は企業側からコントロールできない。だからこそ重要なのは、「その瞬間に思い出される存在であるかどうか」だ。
顔出しの看板は、そのための装置である。日常的に視界に入り続けることで、無意識のうちに記憶に刷り込まれる。たとえ100人中99人が来院しなかったとしても、1人が来院すれば成立する。さらに言えば、来院しなくても歯医者を探している知人がいた時に、その名前が出てくるという形で、間接的に機会を生む可能性もある。
つまり顔出しとは、短期的な反応を取るための施策ではない。記憶を支配するための長期戦略なのだという。
一方で、顔出しには当然デメリットも存在する。目立つことで、批判や揶揄の対象になる可能性はある。個人として認識される以上、発言や振る舞いにも責任が伴う。企業の看板を背負う立場として、リスクを感じるのは当然だろう。
しかしきぬた氏は、そのリスクを過大評価すべきではないと指摘する。なぜなら、多くの人はそもそも他人にそれほど関心を持っていないからだ。多少目立ったところで、継続的に批判されるケースは限定的であり、それ以上に「覚えられるメリット」の方が大きい。むしろ本当に恐れるべきは、無風状態である。誰にも知られず、誰の記憶にも残らず、選択肢にも入らない。それは存在していないのと同じだ。
パチンコホールという業態は、サービスの差別化が難しい。その中で埋もれないためには、「情報」ではなく「記憶」を取りにいく必要がある。その最もシンプルで強力な方法が、顔を出すことだ。
顔を出すという行為は、自分自身をメディア化することでもある。店の情報を発信するだけでなく、「この人がいる店」という認識を生み出す。それはやがて、「この人の店に行きたい」という指名につながる。きぬた氏が示す「顔を出せ」というメッセージは、単なる自己開示の話ではない。認知を取り、記憶に残り、選択肢に入り込むための戦略である。
顔を出したからといって、すぐに来店につながるわけではない。フォロワーが急増するとも限らない。しかしそれは失敗ではない。ユーザーが「今日はどこに行こうか」と考えたとき、あるいは「パチンコ行きたいな」と思ったとき、その選択肢の中に入れるかどうか。そのための布石が、日々の発信であり、顔出しなのである。
他業界でも今や当たり前となった顔出し
パチンコ業界の戦略は?
当たり前のことだが、パチンコ業界は装置産業だ。あくまで接客のメインは機械であり、それを補佐するスタッフはどこまでいっても脇役である。古くからパチンコ店の経営に携わっている店長にとってはそれが普通の感覚かもしれないが、最近その「当たり前」は過去のものになっている。SNSや動画配信サイトの台頭以来「人」にフォーカスした企業ブランディングが急速に一般化しているからだ。
パチンコ店の店長自らが顔出しで動画配信を行い人気になった初期の例は今は無き名店「グリンピース池袋店」だろう。もとより尖った機種ラインナップが特徴の店舗だったが、動画内では店長やスタッフがその珍しい機種たちを面白おかしく紹介。これが人気を博し一時はファンミーティング等も定期的に行われるなどしていた。
やがて時代が進み生配信や動画制作の敷居が下がると顔出しで店舗PRを行うスタッフや店長が増加。現在休業中の「幸手チャレンジャー」を経営する「ひげ紳士」氏などは細かい数字を含めた店舗経営の裏側をつぶさに披露するスタイルで大きな話題になった。
また、コロナ禍の前後には店舗の女性スタッフがSNSなどを通じて店舗のPRを行う「アイドル店員」ブームが起きたのも記憶に新しい。さらにこの時期になると大手チェーンなどでもスタッフや店長にSNSアカウントを活用した顔出しでのブランディングを推奨する例も多数出てきた。業界のトップランナー「マルハン」はまさにその好例であり、現在では数万を越えるフォロワー数を誇る店長・スタッフも珍しくなくなっている。
このように本来「裏方」であるはずのスタッフが顔を出してPRを行うというのは、ゲームセンターやカラオケなどの他の装置産業では類を見ないことである。何故パチンコでは顔出しでのPRが盛んに行われるのか。考察するに、答えはとても単純だ。相性が良いのである。
業界を問わず、責任者の顔を出してPRすることにはブランディング面でいくつかの加点要素がある。その中でも最も大きいのが「顧客からの信頼を得られる」ことだろう。
例えば「誰がどこで育てた野菜なのか」を顔写真付きで明記する「顔が見える野菜」は2000年初頭にイトーヨーカドーとその契約農家が共同で開始したサービスだ。そもそもは当時大きな問題となっていたBSE(牛海綿状脳症)とそれに起因する「食肉偽装問題」に対応するために生まれたものだが、食の安全に不安を感じていた当時の消費者のニーズにピタリとハマったそれは瞬く間に大ヒット商品となった。これなどは責任の所在を明確にすることで消費者の信頼感を得、さらに生産者たちの親しみやすい笑顔で商品の魅力を底上げした「ブランディングの成功例」に他ならない。
さらにもう一点、「高須クリニック」の高須克弥院長の話もある。90年代当時、まだ美容医療があまり一般的ではなく「興味はあるけど怖い」が先にたっていた時代において、克弥院長自らが顔を出して出演したコミカルなCMは、そのイメージを親しみやすいものにし、日本に美容整形を広めるきっかけとなった。もちろん施術自体の良さもあるのだろうが、それ以前に顔にメスを入れることに恐怖を覚える施術希望者のためにまず自分の顔を晒し、最初の一歩を踏み出す勇気につなげたのである。かの広告はその後のクリニックの躍進と決して無関係ではなく、当該病院が美容クリニック界のリーディングカンパニーとして確固たる地位を築く原動力になった。
食の不安や整形への不安。構造的に消費者やユーザーが「不安」を覚えやすい業界において責任者による「顔出しPR」は特に効果的であると考えられ、これは我々パチンコ業界との相性も良い。いくら遊技だといっても、お客さまからするとお金が掛かった勝負ごとであり負ければ腹が立つし不正を疑いたくなる。特に遊技歴が浅い方やご高齢のユーザーに多いが、いわゆるオカルト的な意味で「店長が台を操作している」という勘違いは古来より陰謀論のごとく囁かれがちであり、本気で信じているお客さまも一定数いる。また確率のイタズラで信じられないような負け方をしたときには、慣れた打ち手でさえも腑に落ちない気分になることもある。
パチンコが、ホール対ユーザーのゼロサムゲームである以上このような不安はどうしても出てくるし、また、これを治す特効薬こそが「信頼感」なのである。「責任者による顔出しのPR」は、責任の所在を明確化することで顧客の胸中から不安を取り除き、安心感を与える。それで「この店長は信頼できる」と思っていただければまずは目標達成だが、これがゴールではない。
上述の例たちのように、信頼をさらに「親しみ」まで育てることができれば、どこまでいっても裏方であるはずのスタッフが、ホールの主役になることができるのである。「この店長の店だから行く」あるいは「この人に会いに行く」となればまさに店長冥利に尽きる話だが、その信頼づくりのためにはまず「わたしはこういう人間です」と腹を見せて自らを紹介する必要があり、顔出しはまずはその第一歩として機能するのである。
もう一点、「信頼」を「親しみ」まで育てるのには、同じ場所を共有するのが近道である。なのでネットを介した顔出しポストより、本来はお客さま一人ひとりに直接会って自己紹介するのが望ましい。だが、これをやろうと思っても物理的にリソースが足りず、実行するのはまず無理だろう。
そこでベストではないが注目すべき「ベター」な例となるのが、「きぬた歯科」の沿道看板である。八王子にお住まいの店長は見たことがあるかもしれないが、当該歯科の近辺には至る所に歯科医師の顔がドンと描かれた沿道看板や、ビルボードや、外壁広告などが冗談のように設置されまくっている。これは商圏内の潜在顧客となりえる人全員への、歯科医からの「自己紹介」に近く、ある程度限定された場所の中で一足飛びに親近感を持ってもらうための大胆な策である。ちなみに「歯科医院」こそ人々に恐れられる場所としてはかなり上位の場所であり、このような形で不安を取り除くのは飲食や美容医療系よりもさらに効果的なPRになると考えられている。
もちろんこの方法論は我々パチンコ業界にもある程度は応用が効くはず。まったく同じというわけにはゆかずとも、近隣の潜在顧客に対して店長が顔を出し、不安を取り除いて導線を引くというのは、一考の価値があるアイデアなのかもしれない。「自身の顔」という誰もが持っている武器は、効果的に運用すれば、これまでになかった別の鉱脈を発見できる可能性を十分に秘めているといえる。
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