空きスペースが輝くホールのサイドビジネス戦略
2025.10.21 / ホール隙あらば、パチンコホールの空きスペースでサイドビジネスを!
近年、エンターテインメントの世界は急速にデジタル化が進んでいる。スマートフォンゲーム、動画配信といった、端末が1台手元にあればいつでもどこでもコンテンツを楽しめるような環境が私たちの生活を取り囲んでいる。パチンコ業界を見てみると、パチンコ・パチスロはどうしてもホールに足を運んで遊技する必要があるので、どちらかといえば“アナログ”的な楽しみ方をせざるを得ない。この点だけで見ると時代に逆行しているように思えてしまうのは仕方のないことだ。
そんな中、パチンコ業界の外に目を向けてみると、アナログな形式であるにもかかわらず、このデジタル時代に売り上げを伸ばしている領域が存在する。それがカプセルトイ(ガチャガチャ)やクレーンゲームだ。ここ数年で驚異的な成長を遂げている領域である。
これらは、いわば「箱物」ビジネス。実際の機械と景品、そしてリアルな体験がなければ成立しない、言ってしまえば極めて古典的な営業のスタイルである。にもかかわらず、2024年にはカプセルトイ市場が過去最大の売上を記録。クレーンゲームはアミューズメント施設全体の売上をけん引する存在となっている。
これらの売上が上昇した背景には、商品のクオリティーがアップしたことが挙げられる。オリジナリティーなども含めて工夫を凝らした商品が非常に多い印象だ。カプセルトイに至っては、クオリティーを追求した結果1つあたり1000円を超える金額で販売している商品もある。
カプセルトイやクレーンゲームの営業を行うメリットはいくつか考えられるが、中でもデッドスペースを埋める形でビジネスを始められることは非常に大きなメリットだろう。
では、なぜパチンコホールには、これらの筐体がほとんど置かれていないのだろうか。
当然、設置面積的な都合もあるかもしれないが、ホールによっては検討の余地があるかもしれない。本稿ではまず、カプセルトイ・クレーンゲーム市場全体の規模感について言及した上で、それらをホールに設置するにあたっての法的課題、そしてホールに対するメリットまで考察していく。

1つ1,500円という価格設定のカプセルトイ(写真右)。一昔前であれば、カプセルトイを購入するのに500円玉を用意するのは考えられなかっただろう。
まずは「ガチャガチャ」の愛称で知られるカプセルトイに関して市場を見ていく。


ここ数年、カプセルトイ市場は急拡大を続けており、日本カプセルトイ協会の推計によれば、2024年度の市場規模は約1410億円に達し(図1)、過去最高を更新したという。この数値は同団体が、カプセルトイを販売するメーカーへヒアリングを行って集計した数値であり、2022年よりこのヒアリング方式を採用して集計しているため、直近3年間の数値が市場の実態に非常に近しいとのことだ。
直近3年間の数値だけ見ても、2022年から2024年にかけて市場規模は2倍近くにまで成長している。2023年から2024年にかけての成長幅は、前年と比較するとやや小さくなっているが、次年以降も成長が見込めそうな推移である。
カプセルトイメーカー各社もカプセルトイ事業に関する内容を決算で報告しており、株式会社バンダイナムコホールディングスの2026年3月期の決算短信では「『ガシャポンのデパート』のようなグループの商品・サービスと提携したバンダイナムコならではの施設、アクティビティ施設などが好調に推移しました」と述べられている。株式会社カプコンにおいても、2026年3月の決算短信で「キャラクターグッズ専門店とカプセルトイ専門店を併設した店舗を出店したことが一因で、前年同期比増の売上高を記録した」旨の説明をしている。
コロナ禍を超え、さらなる成長の見込みあり
カプセルトイ市場と同様に、クレーンゲーム市場も勢いを増している。
日本アミューズメント産業協会の発表によると、2023年度のアミューズメント施設全体の売上は、コロナウイルスが蔓延した2020年の直前である2019年とほぼ同水準ほどに回復したとされている。図2のグラフの「オペレーション売上高」の金額が、全国のアミューズメント施設全体の売り上げ金額となるが、直近で見ると2020年以降の売上高は毎年増加傾向にあり、この動きが2024年以降も続いていると仮定するならば、今がまさにアミューズメント施設の売上が最も大きい瞬間だと考えても差し支えないだろう。
2023年度に限って見ると、アーケードゲーム全体での売り上げ合計が約5384億円(図2)。そのうちクレーンゲームの売上が占めるのが3329億円(図3)。全体の約61.8%がクレーンゲームの売上ということになり、いかにゲームセンターの売上げを、クレーンゲームが支えているのかが分かるだろう。
株式会社バンダイナムコホールディングスや株式会社セガといった大手メーカーも、決算説明会で「クレーンゲーム機関連の収益が想定以上に好調」と述べており、今後も安定的な拡大が見込まれる。
日本アミューズメント産業協会によると、ここまでクレーンゲーム市場の規模が大きくなった要因として、コロナ禍の完全脱却と、急速に復調したインバウンド需要だと分析している。また、キャッシュレス対応設備の導入が進み、ファミリー層や若年層の取り込みにも成功したとのことだ。
このように、カプセルトイ市場・クレーンゲーム市場ともに継続的な拡大を見せている。今後も市場規模が大きくなることが予想され、サイドビジネスを展開する領域としては申し分ない領域だ。
では実際にパチンコホールがサイドビジネスの一環としてこれらの筐体を設置し営業を始めるにはどのような障壁が存在するのか。法的な側面から検討を進めていく。
法的課題 風適法の壁は存在するか
ここまで市場規模について言及してきたが、そもそもパチンコホールにカプセルトイ・クレーンゲームの筐体を設置しても良いのか、という問題が発生する。ここでポイントとなるのが風適法の第二条だ。この条文では「風俗営業」に該当する営業についてまとめている。一号から五号までで構成されており、今回議論したいのは四号と五号についてである。

四号営業はパチンコ・パチスロなどを扱う営業で、パチンコホールがこれにあたる。五号営業はクレーンゲームやビデオゲームを扱う営業で、ゲームセンターなどの遊技機営業がこれにあたる。カプセルトイについては、法的な位置付けは飲み物などの自動販売機と同様になるので、今回のテーマで法的な問題となりうるのはクレーンゲームのみとなる。
法律上、四号営業と五号営業を同一の敷地内で行うことは基本的に認められていない。理由としては、各号で定める営業の内容の特徴が異なるからだ。
四号で定めるのは「射倖心をそそるおそれのある遊技をさせる営業」である。客が「思いがけない利益を得たい」と期待して遊技することであり、シンプルに言えば景品の提供をするような営業のことを指す。
五号で定めるのは景品の提供をしない営業である。一見クレーンゲームは景品を提供するので五号の範囲を逸脱するように見えるが、警察庁が公表している解釈運用基準(通達)では、小売価格がおおむね1000円以下のものを提供する場合には、風適法第二十三条2項に定める景品の提供には該当しないとされている。
これ以上踏み込んでしまうと本題から逸脱するのでここまでにするが、四号と五号では定める対象が異なるという点は押さえておきたいところだ。
「10%ルール」による解釈
四号営業と五号営業は基本的にひとつのフロアで併存できないが、ここで注目したいのは警察庁の通達である「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律等の解釈運用基準について」に記載されている、通称「10%ルール」である。
これは、五号営業に当てはまる遊技設備を設置する場合に関連する内容で、「風俗営業の許可無しで営業を行ってもいい」と明確にされた基準だ。内容としては、五号営業の遊技設備を設置した場所を含む店舗のフロアのうち、客が使用する部分の床面積に対して、遊技設備の床面積の占める割合が10%を超えない場合は、風俗営業の許可を要しない扱いとするとされている。ただし全面的に認められているわけではなく、「当面問題を生じないかどうかの推移を見守ること」が前提となる。
具体的な例を挙げると、レストランの出入り口に1台だけクレーンゲームの筐体を設置して営業する場合がこれに当てはまる。たとえ出入り口に1台だけクレーンゲームが設置されていたとしても、フロアの大部分はレストランとして機能しているため客観的に見て当該建物はゲームセンターではなくレストランとして存在していることになる。この場合で、客観的にレストランがレストランたり得る基準が、五号営業を床面積の10%未満に抑えることとなるのだ。
パチンコホールへの導入
前ページの「10%ルール」では、あくまで五号営業の筐体の設置は「当面問題を生じないかどうかの推移を見守ること」が前提なるので、その営業内容次第では何かしらの指摘が入るかもしれない。また、エリアによっては過去の事例などの絡みによって、解釈基準が厳しいものとなっている可能性も考えられる。もしクレーンゲームをパチンコホール内に設置するということで動き始めるのであれば、事前にホールを管轄する警察署へ確認をするのが無難だろう。
その上でどのように運用していくかについては、カプセルトイ・クレーンゲームの筐体を設置できるほどのスペースがあればどこでも構わないので、各店舗ごとに非常に柔軟な運用が可能となる。
例えば、景品カウンター横のスペースに設置するのはひとつの策だろう。もし何か筐体にイレギュラーが発生して、スタッフの対応が必要となったとしてもすぐに対応が可能となる。クレーンゲームであれば、カプセルトイよりも広いスペースが必要となるので、現実的には店舗入り口付近の設置となるかもしれない。

パチンコ業界発のブームを生む可能性
実際にカプセルトイ・クレーンゲームの営業を開始するために、必要な要素が2つある。販売筐体そのものの入手と、商品の仕入れだ。これらの準備をすべてこなしてやっと営業が始められる。
筐体は購入かレンタルかという選択肢を取ることができる。もし本格的に営業を継続するとなった場合は、思い切って購入することも視野に入れて良いだろう。市場に流通している例を見る限り、新品の筐体でも1台当たり数万円で購入できる。
一番ネックになるのは商品の仕入れとなるだろう。常にトレンドを把握しておく必要があり、かつ本格的に利益を上げるほどに売れるようであれば、頻繁に商品を入荷することに迫られる。
逆に商品が売れ残るようなことがあればホールでストックを抱えてしまうことになる。しかしストックの保存という観点から見れば、あくまで手元で保管しなくてはならない商品は、カプセルトイやクレーンゲームの筐体に収まる範囲なので高が知れている。

カプセルトイは基本的に、カプセルに収まる商品であれば販売可能。価格も商品相応の金額になるようある程度調整ができる。

クレーンのサイズの小さい筐体であれば、中に設置するプライズのサイズも小さく、安価なもので済む。入荷時のプライズ1個あたりの単価を抑えることもでき、プレイヤーが景品を獲得しやすい調整にしやすくもできる。
実現するか パチンコ業界発の一大ブーム
カプセルトイ・クレーンゲームの筐体に入れる品物は、それぞれのルールに則った物であれば比較的自由に決められる。ここで夢のある話をひとつするのであれば、極端な話パチンコホールがオリジナルの商品やプライズを制作して設置することも可能なのだ。
分かりやすい例としては、各法人に存在するマスコットキャラクターを商品にしてしまうことだ。いままではホールの景品カウンターで、ぬいぐるみなどが交換できたかもしれないが、マスコットキャラクターのIPを活用・応用して新たなグッズを展開する機会となりうるかもしれない。
カプセルトイ・クレーンゲームで副次的な利益を確保しつつ、ブームの火種を市場に提供しうる。もしかしたらカプセルトイの購入を目的としてホールに足を運ぶユーザーも現れるかもしれない。これらに比較的低リスクで挑戦できるのも魅力のひとつではないだろうか。