「当たらなくても打つ!」ユーザー心理 「e牙狼12」高稼働のワケ
2025.10.18 / 機種その遊技スタイルは「神頼み」か「運試し」なのか!?
導入前には「大当りが重すぎる」「ラッキートリガー突入が遠い」と懸念されていた「e牙狼12 黄金騎士極限」。しかしフタを開ければ、導入から2カ月が経過した今も堅調稼働を続けており、「e東京喰種」とともにパチンコの稼働を牽引する存在となっている。LT突入まで打ち続けるヘビーユーザーだけでなく、仕事帰りのサラリーマンも気軽に「運試し」的な遊技に興じる姿も散見される。果たして「牙狼12」が高稼働している要因はどこにあるのか導入ホールの声を聞いた。
ホール関係者もユーザーも予想外!? 高稼働を続ける「e牙狼12」
牙狼シリーズ最新作「e牙狼12 黄金騎士極限」(以下、牙狼12)は、登場前から大きな話題を呼び、期待感とともに多くのホール関係者、ユーザーから懸念の声も集めていた。
その理由はご存知の通り、スペックだ。図柄ぞろい大当り確率1/437.49。さらに50%でLTチャレンジ、そこから再度50%を突破してようやくラッキートリガー(LT)に突入するという、実質LT突入確率1/1777.5の極端な仕様で、「一般ユーザーは打てないだろう」と断じられても不思議ではないハードルの高さだった。
SNS上でも、「こんな重い台は打てない」「1回はLTに入れてみたいけど無理そう」といった声が多く、導入前の市場評価は決して明るいものだけではなかったのだ。
しかし、いざ導入されるとその予想は大きく裏切られる。導入から2カ月が経った今でも全国平均で平日約2万アウト、休日になると2万5000アウトを記録し、ホールの主力機種になっている「e東京喰種」と肩を並べる存在となった。中古機価格も一時期は100万円を超えるほどの金額となり、懸念されていた大当りの重さ、LT突入のハードルの高さは、意外にもパチンコユーザーに受け入れられている感はある。

こうした牙狼12のヒットを理解するには、ユーザーの心理の変化を掘り下げる必要がある。
SNSや掲示板を見渡すと、「LTを追えば財布が持たない」という冷静な意見がある一方で、「今日は1万円だけ挑戦」「給料日前だから2万円勝負」といった投稿、書き込みが散見される。また、某有名演者は自身の動画内で「(牙狼12は)スクラッチくじみたいな台」と表現している。
LTに入れば、初期出玉9000個、即落ちしても1万発超えが保証される。こうした「外れても納得」「当たれば大勝ち」という明確な線引きが、宝くじのような瞬発的高揚感を産み、稼働を支えている側面もあると見られる。
大当りさせることが醍醐味と言われるパチンコの中で「運試し」的に勝負することをコンセプトとした遊技機は過去にもあったが、牙狼12はそのどの機種も凌駕する人気となっている。
今回はパチンコが強いホール店長に話を聞き、牙狼12の高稼働の要因、当たらなくても勝負しようとするユーザーの割合、客層、その心理などを探ってみた。
台数が多いからこそ生きるのが牙狼「アミューズ浅草店」の状況は!?
全国ホールランキングでも上位常連でグランドオープン以来、常に人気を維持し続けているのが「アミューズ浅草店」だ。

特日ともなれば1000人並ぶのは当たり前と言われる同店だが、パチスロだけではなく、パチンコも都内屈指の稼働を誇っている。
まずは同店の芦田大吉店長に「牙狼12」の稼働状況、客層を聞いてみた。
「牙狼の稼働はおかげさまで好調ですね。全国平均よりも倍近い数値で推移していると思います。また客層は中高年層が中心です。『eブルーロック』や『e東京喰種』よりも平均年齢は高めだと思います。やはり『初代牙狼』などシリーズ初期からの成功体験を持つ世代が遊技しているからではないでしょうか」
同店の牙狼12が高稼働を続けているのは営業努力の面も大きいが、台数規模も重要だと芦田店長は続ける。
「18台という台数で営業しているのが強みになっていると思います。常にどこかで大当りが出ている光景を生み出し、島全体が盛り上がっている雰囲気になり、それがまたお客さまを呼び込む要因になっているんです。イメージとしては『宝くじ売り場』に近いですね。『当売り場から当たりが出ました』という掲示がたくさんある売り場に人が集まるのと同じで、こちらでも万発クラスの出玉やコンプリート台が一日に何度も確認されることで、『自分も当てられるかもしれない』と遊技意欲を持って挑戦してくださる方が増えていくという好循環が生まれています」
高稼働を続けている同店において、本企画の主旨である、いわゆる「運試し」的に予算を決めて遊技するユーザーはどれくらいいるのだろうか。
「当店の場合、日中は近隣にお住まいの比較的高齢な年配ユーザーが多いです。そういったお客さまはLT入るまではという勢いで遊技される方が多いですね。ご高齢で比較的遊技予算に余裕のある方が多い印象です。一方で夜になると1万円〜3万円くらいと予算を区切って座るサラリーマン層のお客さまが増えてきます。もちろん明確に分かれているわけではありませんが、日中はじっくり打ち込む方がメイン。夜は予算を決めて遊技される方が多くなってくる感じです」
芦田店長は、牙狼のユーザー層には従来型の「当たるまで粘るヘビーユーザー」だけでなく、限られた金額で運試しをするライト層が一定数いると分析しているが、この心理は、LT突入時の見返りが大きいからこそ成立する。「一度でもLTに突入すれば1万発級の見返りがある」という安心感が、限られた投資でも挑戦してみようと思わせる。逆に当たらなくても「予算を決めた上での結果だから仕方ない」という状況だ。

また、先ほどの多台数を抱えていることのメリットも予算を決めて遊技するユーザーが増える要因につながっていると芦田店長は感じているという。
「やはり、常に当たっている状況が生まれる。もしくはコンプリートした台がいくつかあるという状況に触発されて遊技する方もいらっしゃると思うんです。『7500』という出玉表示画面を見れば『自分も当てたい』と思うわけです。とはいえ、夜から遊技されるわけですから、時間は限られている。だからこそ、無理のない範囲で予算を決めて遊技しようとする方が多いのではないでしょうか」
導入前の「初当たりが重い」とか「LTまでが遠い」という懸念点は確かに事実としてあるが、それはLTを射止めるまで打ち続ける、終日打ち続けるという話。限られた時間、予算で遊技する層にとって「牙狼12」はまさに宝くじ的な夢を感じさせる台なのかもしれない。
最後に「牙狼12」のような機種の必要性について店長に聞いてみた。
「業界の風潮からすると『牙狼12』のようなスペックは、尖っているのであまり好ましくないのかもしれません。ただ、事実として運試しみたいな気持ちで遊技する方が一定数いるのも事実です。なので、牙狼12のような機種ばっかりになってはいけないと思いますが、ゼロでもよくない。要はバランスだと思います。『海物語』のように年配ユーザーが長時間まったりと遊技するような機種も必要ですし、少ない予算で長く遊びたいと1パチを好む方もいらっしゃいます。今は甘デジでもLT搭載で尖ったスペックが多くなってきていますので、本当に遊びやすい機種も増えてほしいですし、「牙狼12」のような機種も一定数はそろえておくべきだと感じています」
同店は甘海を1パチで多台数そろえるなど、低投資で遊びたいというニーズも捉えている。パチンコの高稼働はこうしたニーズを的確にとらえている結果といえるだろう。
総設置台数1550台のメガホール「マルハン上小田井駅前店」のケース
続いて話を聞いたのは、総設置台数1500台以上の大型旗艦店として人気を集めている「マルハン上小田井駅前店」だ。駅からほぼ直結という立地により、平日でも仕事帰りのサラリーマンでにぎわいを見せる。そんな同店における牙狼12の状況について長井孝介店長に話を聞いた。

「稼働はかなり好調です。平日でも2万アウトを超え、繁忙期には4万近い数値を記録することもあります。店内でも『東京喰種』や『海物語』に並ぶ看板機種のひとつとして定着しています」
客層について尋ねると、長井店長はこう分析する。
「会員履歴から見ても、40代〜60代の男性比率が非常に高いです。初代牙狼が好んでいた世代が遊技しているのかなと思います。一方で、駅前という立地もあってサラリーマン層の比率も高い。昼はシニア層が腰を据えて打ち、夜になると会社帰りの30〜50代が増えて満席に近づきます」
同店の場合はベッドタウンの駅前店ということもあり、平日は夜の稼働が非常に高くなるのが特徴。そんな状況で牙狼を遊技するのはやはり予算を決めた打ち方をするユーザーたちだという。
「サラリーマン層は『今日は2万円まで』とか『1時間だけ』と予算や時間を区切って遊技する方が多いですね。私自身も打つときは2万円までと決めています。当たれば最低でも1500個、LTチャレンジまでいけば3000個。そしてLTに突入すれば万発が見えてくる。その分かりやすさが挑戦意欲につながっていると思います」

稼働の状況はアミューズ浅草店とも良く似ている。また、やはり「予算」や「時間」を決めて遊技するユーザーが多いという。そんな「牙狼12」の人気の理由を長井店長は次のように語る。
「短時間で夢を買えるというか、2時間もあればコンプリートまで見えてしまう。だからこそ、21時からでもサラリーマンの方が現金投資で座る姿が多いんです。普通なら閉店まで2時間しかない時間帯に遊技しないと思うでしょうが、牙狼は違う。21時からでもコンプリートが現実的に狙えてしまう。これが大きな魅力です」
閉店2時間前でも遊技するユーザーがいるという「牙狼12」。パチンコのみならず、パチスロであっても初当たりの重い機種は遅い時間からの遊技は敬遠されがちだが、牙狼はそんな気配はないという。その理由について、長井店長は「LT突入の意味合い」に触れる。
「多くの機種はLT突入がスタートラインじゃないですか。そこからどれだけ伸ばせるか、という勝負になる。でも牙狼の場合は突入した瞬間に9000個が獲得できている。だからスタートでありながらゴールでもあると思うんです。LT突入した時点である種の達成感、満足感が得られるのが牙狼の強みじゃないでしょうか」
旧くは「一発台」、直近でも「うまい棒」や「天龍」など、大当りでまとまった出玉を得られる機種は存在し、「運試し」的に勝負するユーザーも一定数いたのは事実。「牙狼12」はそのまとまった出玉が得られて、かつその先にコンプリートのような夢も拡がっているからユーザーから支持されているのかもしれない。
最後に、「牙狼12」のような尖った機械の存在意義について尋ねると、長井店長はこう答えた。
「業界の未来を考えれば、牙狼のようなスペックばかりが増えるのは望ましくないと思います。ただ、一定数この運試しを好むお客さまがいるのは事実です。だからこそ、牙狼のような機械も必要ですし、ゼロではよくないと思います。もちろん海物語のような機種や、「エヴァ15」のようなバランスの取れた機種も同じくらい重要です。ニーズを捉えた機種構成にしていく。その1つとして「牙狼12」も求められている機種なんだと思います」
長井店長もアミューズ浅草店の芦田店長と同様に、望むユーザーいる以上はラインナップとして加えておくべきという共通認識を示した。
当たらなくても打ちたい 新たな遊技意欲を持たせた牙狼12
「e牙狼12黄金騎士極限」の登場は、パチンコ業界に新たな論点を突きつけた。近年、業界全体として声高に叫ばれてきたのは「高射幸性の抑制」と「遊びやすさ」の追求であり、ライトミドルや甘デジといった安価で大当りを体感できる機種が必要だという論調であった。
非ユーザーやスリープ層を呼び込むためにも、「まずは当てる楽しみ」を低投資で味わえることが大衆娯楽として欠かせないとされてきた。もちろんその必要性は揺るがないが、一方で「牙狼12」はその真逆に位置するスペックでありながら、決められた予算内で短時間勝負をするというスタイルを生み出した点で、業界が目指す方向性と意外にも接点を持っている。過度な投資を抑えつつ遊ぶという発想は、タイパを重視する現代的な消費スタイルとも重なってくる。
実際、アミューズ浅草店やマルハン上小田井駅前店の取材から浮かび上がったのは、「当たらなくても打つ」というユーザーが一定数いる事実である。先ほども触れたが、過去にも「うまい棒」や「天龍」といった、一撃でまとまった出玉を得られる機種は存在したが、「牙狼12」はそれをさらに研ぎ澄ませた究極形とも言える。LT突入時にまとまった出玉を保証しつつ、そこからさらに夢が広がるスペックは、ユーザーに強烈な挑戦意欲を抱かせるものとなっている。
実際、現状の主力機種はLT突入は約1/2程度だが、初当りの出玉が300個〜450個程度というタイプも少なくない。「牙狼12」よりもLTという土俵には立ちやすいが、駆け抜けた時の落胆をイメージしてしまうと、LT挑戦のハードルは高くても「牙狼12」に挑戦したいという気持ちもわからなくはないだろう。
今回取材した芦田店長、長井店長はそれぞれ、「牙狼12」を宝くじやロト6みたいな機種と見立てた。言い得て妙だと思うし、「牙狼12」の短時間・限られた予算の中で遊技する現状を的確に表しているだろう。
短時間でどれだけ夢を見させられるかどうか―この期待感こそが、従来の指標にはなかった新しい価値である。
牙狼はシリーズの特性上、支持層の中心は40代後半以降の年配ユーザーであった。しかし、もし「ブルーロック」や「東京喰種」といった若年層に支持のあるコンテンツで、牙狼のような「夢を感じさせるスペック」が実現すればどうだろうか。予算を区切って短時間で勝負するスタイルは、タイパを重視する若いサラリーマン層にも強く刺さる可能性は十分に考えられる。
一定数はそろえておきたい 「運試し」要素を持つ機種

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これまで遊技機選定においては「コンテンツ」「スペック」さらに「平均投資額」や「どれくらい出玉が得られるのか」といった定量的な要素ばかりが注目されてきたが今後の機種選定においては、「短時間で、決められた予算で、打ってみたいと思えるかどうか」という新しい視点も加える必要があるだろう。
「牙狼12」は、「遊びやすさ」の考え方に一石を投じるもので、パチンコという娯楽の裾野を広げるヒントを感じさせる。自店の中で「夢を求める層」がどれくらいいるのかを把握して、新たな導入指針を立ててみてはいかがだろうか。