サマータイム営業はいかが?
2025.09.23 / ホール2025年の夏、日本列島は過去に例を見ない酷暑に見舞われた。連日の猛暑日は遊技を楽しむユーザーにとって大きな負担であり、開店前から長時間並ぶことは、体調を崩すリスクと隣り合わせだといっても過言ではない。もちろん、それはユーザーだけでなく、パチンコホールで働くスタッフも同じだ。つまり端的に言ってしまえば、朝の並びはユーザーとホールスタッフ双方にとって大きなリスクとなりうるのだ。そんな状況下でもしものことが起きる前に、サマータイムという観点から問題の解決を提唱したい。
過去最高に暑い夏 人間が耐えられる領域を超えた酷暑
まず、本題に移る前に筆者の経験をひとつ聞いていただきたい。
休みの日にパチスロを打ちに行くのは、いかなる場合でも少なからずテンションが上がってしまうものだ。しかしなんとかホールまでたどり着いたはいいものの、夏場は朝の抽選開始まで炎天下で待機するだけでも一苦労。抽選を終えたら車に戻って一休みができるが、再整列の開始から入場まではまた灼熱の屋外で待機せねばならない。手元のアプリの情報によると、気温はすでに35度に迫ろうとしている。止まらない汗、屋外での待機間にして合計で15分ほどで済むのだが、それだけでもかなり体力は消耗してしまう。公共交通機関でホールに赴いた場合は、車という待機場所がないので開店までの時間はさらに過酷なものとなる。抽選番号によっては、再整列の場所が偶然日陰になるかもしれないので、早い番号を引くよりも涼しい場所で待機できる番号を祈ってしまうほどだ。
ユーザーとしてこのように思ってしまうのだから、当然朝の並びの対応をするホールのスタッフも同様のことを思うのは想像に難くない。ましてやユーザー側はいくらでも暑さ対策をした上で朝の並びに臨むことができるが、ホールスタッフは制服の問題などもあり場合によっては十分な暑さ対策をできないまま対応をしている例もあるだろう。
夏場の平均気温について、具体的に数字で見てみよう。気象庁が取りまとめている、各月の日平均気温を見てみると、2025年は6月が24.7度、7月が28.4度、8月が29.6度を記録している(図参照)。この数値は1日を通しての平均気温であるため、比較的気温の低い夜間帯も含めた数値なのだが、8月に関しては平均気温が30度に届きそうという状態にまでなっている。1875年に観測が始まって以来、2025年の6月の日平均気温は、観測史上最高値となった。さらに7月は観測史上5番目に高い数値、8月も観測史上最高値タイの数値を叩き出しているのである。
直近5年間という短いスパンで数値を見てみると、2021年は6月から8月の平均気温が2025年と比べて明らかに低いことがうかがえる。かつどの月も年を重ねるごとに少しずつ平均気温が上がっている状況が見て取れるので、「ここ数年で暑くなった」と感じるのは紛れもない事実だ。
ここまでパチンコホールに限定して話を進めてきたが、暑さ対策は当然すべての業種に関わる問題である。屋外で激しく体を動かす場合は、常に健康被害のリスクがつきまとう。こうした状況下で、パチンコ業界内に限らず大規模な暑さ対策を講じられている例が散見される。以下は現在まさに行われている暑さ対策の事例だ。


しかし、現場での取り組みだけでは限界がある。暑さそのものが健康を害する現代において、我々の手ですぐに気温を下げられる術はない。健康被害のリスクを最小限に抑えるためには、そもそも気温が比較的高くない時間帯に活動をすることが求められる。その具体的な解決策として、小誌は「サマータイム制」の導入(営業開始時間を前倒しする取り組み)を提唱したい。
パチンコホールの営業時間を変える(前倒しする)ことは、つまるところ条例を変えることにもつながる話だ。次ページでは主な都道府県の条例の条文を参考に、各都道府県の営業時間の違いについてまとめた。その上で実際に条例改正による営業時間の前倒しは可能なのかどうかについて考察を進めていく。

✅北海道
参照条文……第四条の二 ぱちんこ営業者は、午前0時から午前1時まで、午前6時から午前9時まで、および午後11時から翌日の午前0時の時間においてその営業を営んではならない。
✅青森
参照条文……第五条二項 ぱちんこ営業者は、条文で規定する地域以外の地域において、午前6時後から午前8時30分までの時間においては、その営業を営んではならない。
✅宮城
参照条文……第六条 ぱちんこ営業者は、住居地域等においては午前6時から10時まで、および午後11時から翌日の午前0時の営業を、近隣商業地域においては午前6から午前10時までの営業を営んではならない。
✅東京
参照条文……第五条 ぱちんこ営業者は、東京都内全域において午後11時から翌日の午前10時まで営業を営んではならない。
✅大阪
参照条文……第六条 ぱちんこ営業者は、府の区域では、午前6時から午前10時まで、および午後11時から翌日の午前0時までの時間においては、その営業を営んではならない。
✅愛媛
条例による営業時間の制限はなし。
✅福岡
参照条文……第六条 福岡の全地域について、午前6時から午前10時以前の時間、および午後11時以降翌日の午前0時前の時間においては、営業を営んではならない。
✅沖縄
条例による営業時間の制限はなし。
地域別パチンコ店の営業時間事情
大まかに言えば、北海道や東北、中部、中国・四国などでは9時〜23時(14時間営業)が多く、関東や近畿、九州では10時〜23時(13時間営業)が一般的である。 パチンコ店の営業時間は、都道府県の条例で定められているケースが多いが、明文化されていない県もいくつか存在する。そうした県では風営法に基づき、「午前0時から午前6時の間は営業できない」とされている。つまり、午前6時を過ぎてから午前0時になる前までは営業が可能。
その代表的な例が宮城県だ。同県では、住居地域および近隣商業地域を除き、営業時間が条例で定められておらず、午前6時過ぎから開店し、午前0時前まで営業可能である。実際には、午前8時〜午前0時前までの営業が多く、それより早い開店時間は地域の事情に応じた「特別な日」に限られる傾向がある。
ちなみに昨年、宮城県遊技業協同組合(県遊協)は「県内全域で朝9時開店に統一してほしい」との請願を県議会に提出し、採択された。しかし、条例改正に必要な要件を十分に満たしておらず、さらにホール事業者側の反対もあり、現在も棚上げとなっている。
同様に、愛媛県にも営業時間を定める条例は存在しない。こちらは県遊協の申し合わせにより、「午前9時から午後11時30分前後まで」としている。午前9時開店とした理由は「児童や学生などの通学が終わる時間帯に合わせた」ためである。 沖縄県も同様の理由で午前9時開店を基本としているが、「学校が休みの土・日曜は午前8時から」としている点は興味深い。
一方で青森県は午前8時30分開店とされており、理由については「本県では昔から条例で8時30分と定められている。個人的な見解だが、農家が多いことが背景ではないか(朝早くに一仕事を終えてからパチンコ店に行く)」とのことであった。 (※「」内は各県遊協の専務理事または事務局長の意見です)
また、こうした通常の開店時間に加え、特別な地域事情や期間に応じて、午前0時以降の営業が許容される条例もある。その代表例が、三重県の「オールナイト営業」である。
次に、サマータイム営業の導入を提唱するための条例改正のロードマップについて考えてみたい。
実現可能性はアリ
地域住民の理解を得ることは必須
条例改正の手続きは、時間を要するが決して不可能ではない。通常、条例の改正フローは各都道府県ごとに異なるが、大まかには右図の通りの流れを経ることとなる。このフローを考えるとまずは改正案を作成して議会で議論を始める必要があるのだが、条例の改正を提案できるのは主に三者に限られている。地方公共団体の首長、議会に所属する議員、そして当該地方公共団体の住民だ。そのため、パチンコホールの営業時間に関する条例を変えるとなると、パチンコ業界団体からの動きが必須となるわけだが、業界団体は条例改正を提案する権利を有していないため、首長や議会へ陳情を行う必要がある。
もし陳情が通り、条例の改正案が形になったとしても、実際にパチンコホールの存在する地域住民の理解を得る必要がある。そこでパブリックコメント制度(意見公募手続)を活用し、地域住民から寄せられた意見を考慮して議論の参考とすることで、より透明性・公正性を担保した上で議会での議論を進めることができる。ただでさえ何かと槍玉に挙げられてしまう業界だ。この辺りのヒアリングは徹底して行うべきだろう。
地域住民の理解を得た上で、議会での議論が進み、仮に議会で可決された場合は晴れて条例改正となる。新たな条例の公布日と施行日を決定して、施行日を迎えたら実運用が可能となるのだ。

令和の時代に即していない条例
もはや”化石”といっても過言ではない
一連の流れを考えてみると、どうしても条例改正までのハードルはいくつもあるように思える。しかし、初めの部分である陳情の段階で、業界団体が明確なロジックを持って理由付けすることができれば大きな問題はないのではないか。
各都道府県の条例が定められたのは基本的に昭和の話。直近で改正されたのも平成の時代であり、ぱちんこ屋の営業時間が定められた条例は昭和の頃から手付かずという事例も珍しくはないだろう。条例が制定された当時はまだ夏場の平均気温も今と比べてだいぶ低かった時代。暑さによる健康被害のリスクも今より低かったため、時代背景を考えると、暑さ対策のための条例改正というのは十分筋が通るのではないだろうか。
当然10年、20年先を考えた時、今よりも平均気温が上昇すると言われている。”朝の並びで熱中症”—そんな事故が起こる前に対策を講じてみてはいかがだろう。