編:入社してからのキャリアや成し遂げてきた功績について詳しく教えてください。
佐野:最初は直営店のホールに入るつもりで帰ってきたのですが、なぜか開発に配属になり、スペック担当を5年ほどやりました。その後5年間はディレクターやプロデューサー的な仕事をしました。
編:5年間で何機種プロデュースできましたか?
佐野:非液晶を合わせると10機種以上は携わったと思います。私はアニメやゲームにはあまり慣れ親しんでおりませんので、版権モノはそれに詳しい人が担当した方が良いと思っていましたし、旧モデル筐体を上手く使って機種開発することに興味がありました。なので、主に自社IPタイトルや新規オリジナルタイトルです。特に新規オリジナルの開発は楽しかったですね。
編:1から立ち上げたコンテンツもあるのでしょうか?
佐野:時間をかけて本当に1から作ったのは「豪炎高校應援團」です。自社IPを5号機でアレンジしたものなどはたくさんありますが、「リノ」や「サイバードラゴン2」「夢花月」とか。スペック担当だったので、作り上げたとは言っても、出玉重視のプロデューサーでしたね。それ以外はディレクターや担当者にサポートしてもらいながらでした。
編:「リノ」なんかはある意味革命的でした。
佐野:5号機リノは、あのスペックが現場から上がってくる数年前からちょっとした液晶演出なども加えながら開発はしていました。ただ、もともとスペック重視のタイトルと認識していて、作ってみても版権モノと差別化できるレベルまではいかずに、作っては辞めを繰り返していました。そんな中で現場からスペックが上がってきたときに、「これのスペックならリノにマッチするんじゃなか」とチーム内の声が上がり、ちょうど素材がそろっていたのですぐに開発しました。結果、ゲームシステムにも制限があるスペックでしたので、非液晶機として世に出すことができました。
編:当時の山佐といえば、時代を牽引するヒットメーカーでした。それに比べると現在は苦戦されているかと思います。
佐野:そうですね。山佐という会社は常に何か新しいモノを生み出すことを期待されていると認識していますし、その社風文化はいまでもあります。ただ、時代時代で新しいスペックを生み出すことが山佐のスタイルでしたが、6号機になっていくにつれて、できる範囲が限られてしまって、それを売りにしていた山佐の特色を生かすことが難しくなってきていると感じています。
編:この現状に満足されていますか。
佐野:まったく満足していないし、メーカーである以上、ホール様やプレイヤー様に「こんな台を作ってもらえてありがとう」と言ってもらえるものを作りたいと思っています。現状では全然満足していただけておりませんし、このままではダメだと常に感じています。現状をどう改善してくかを日々現場と話しています。
編:言える範囲でどんな話をされているのか教えてください。
佐野:そうですね。まずは山佐の弱いところから目をそらさずしっかりと自覚しようと話しています。自社を分析すると「どこか尖っていたらいいんじゃないか」とか、山佐の得意なところばかり意識がいっていて、弱い部分はおろそかになっていると感じています。かなり抽象的な表現になりますが、結局は全体バランスがしっかりとしていないと安定した商品提供はできないと思っています。非液晶がメインの時代はそれでも良かったと思いますが、今はスペックも大事です。液晶演出や筐体演出、サウンド、タイトルのすべてでバランスをとって、個々の完成度が高くないとお客様に満足してもらえない時代になっています。尖っている部分もありつつ、他の要素の完成度も高いと言われる機種づくりを目指しています。当然、パチスロは、スマスロ化など、規制や緩和が常にありますので、旬なスペックを早く市場に提供することも大事ですが、これはメーカーとして当たり前の話で、それを実現しつつ、完成度の高い機械をいかに作れるかが重要です。例えば、8月に出した「スマスロキン肉マン」も当初はメダル機で適合は取れていたのですが、想定していた以上にスマスロの勢いが強く変わるなら今しかないと思い、上半期に販売タイトルが不足してでも、他の機種もスマスロに変更しました。スマスロの優位性を生かすためには、スペックやゲーム性の大幅な変更が必要です。当然メダル機として尖っていた部分も、スマスロでやり直しとなりましたが、他の部分の完成度も上げていたので、急な変更でも総合的に満足できる機械に仕上げることができました。2023年は、「キン肉マン」「転生したらスライムだった件」「モンキーターン」をスマスロで投入しますが、この3機種は山佐が変わるためにやり方も変えて作った勝負の機種です。
編:たしかに「スマスロキン肉マン」は非常に尖っていました。
佐野:まずは尖っている部分があると感じていただけたのは嬉しいです。ただ、尖っている部分があるだけだと稼働は長く持ちません。我々が改善しなくちゃないけないと自覚し、それを克服するぞいう信念に近いものが、これからどのくらい受け入れられるのかは、まずはこの3機種で判断していただきたいと思います。山佐ネクストが会社として成長していくためには、ちゃんと結果を出していくことでしか実現できないので、絶対に稼働させたいです。
編:元開発、しかも出玉設計部分を担当していた方が社長を務めている組織というのは、モノ作りに対して情熱が注がれそうですね。
佐野:パチスロに限らず、エンタメを作っている現場の人たちは絶対に最高のものを作ろうとやってますし、エンタメが好きでやっている人しかいません。特にこの業界は好きじゃないと長く続けられないですよね。パチスロが嫌いで仕事のためだけに作っている人なんていないと思いますし、一番重要なのは「パチスロが好きであること」だと思うんですよね。そういう面では、山佐ネクストが他社さんと比べて劣っていることはないと思いますし、トップランナーになれる可能性もあると確信しています。