業界の未来を担う〝第三の柱〟「BT10」が始動!
2025.07.09 / メーカーパチスロ市場の大きな転換点となり得る「BT機(ボーナストリガー機)」が市場に投入されて約1カ月が経過しようとしている。今年6月の総会で、日電協はBT機の普及を最重要課題に据え、2年後までに市場シェア10%の達成を目標とする「BT10」構想を掲げた。BT機の意義とは何か。直面する課題とは。そして普及に向けた戦略とは—。
日電協の小林友也理事長をはじめとする組合幹部へのインタビューから、その未来像と業界の展望を探る。
BT機に込める小林理事長の思いと決意
「BT機の導入は、単なるスペックの刷新ではなく、パチスロ業界の未来に対する本質的な挑戦です」—インタビュー冒頭、小林理事長はそう語った。
AT機は高射幸性を持つ一方で複雑さが障壁となり、ノーマルタイプはシンプルだが出玉感に乏しい。この両極化した市場の隙間を埋め、より広範なユーザー層の支持を得るために生まれたのがBT機である。
理事長は、自身2期目の最重要テーマとして「BT10」を掲げ、BT機を〝業界の第三の柱〟に育てる意欲を示した。市場全体の10%(約14万台)という数値目標の設定は、日電協として初の試みであり、メーカー横断の協力体制と情報共有の強化を促すものだ。
「この明確な目標があることで、開発陣も営業陣も方向性を一致させ、前向きな取り組みが可能になる」と小林理事長は語る。さらに、BT機は現状のパチスロに満足できず離れたユーザーや、新規ユーザーの受け皿にもなり得るとし、その未来像に大きな期待を寄せた。
日電協では、6月2日に導入されたBT機第1弾5機種の稼働状況を踏まえ、BT10実現に向けた課題を次の4項目に整理している。
1.ホールへのBT機の訴求不足
2.ホールにおけるBT機の適切なオペレーション
3.BT機のコーナー化推進
4.BT機の継続的なリリース体制の構築
これらを解決するためには多面的な戦略が必要だが、特に「ホールやユーザーとの信頼関係を再構築し、市場を共に育てる」という姿勢が重要だとした。
「BT機の普及はホール任せではなく、メーカーが主体的に動くことで初めて実現する。現場との対話を重ね、ユーザーにとって本当に価値ある機種を育てていく意識が不可欠です」と語る理事長の言葉に、強い覚悟がにじむ。
業界再編の起点となるBT機。その普及を阻む障壁とは
BT機は、AT機とノーマルタイプの中間に位置する新ジャンルである。高射幸性一辺倒のAT機と、出玉感に乏しいノーマルタイプという二極化の課題を克服することが期待されている。
BT機は、適度な連チャン性と出玉の波、そしてコントロール可能な投資環境を備え、「遊びやすさ」と「楽しさ」を両立させた機種を目指す。また、機械構造や演出設計にも新たな試みが求められ、原点回帰の発想で「打ち込みたくなるゲーム性」や「リールの操作感」などが重視されている。
この設計思想は、離脱した中高年層の呼び戻しや新規ユーザー獲得にも効果的であると考えられる。ホール全体のユーザー層の多様化に対応する上でも、BT機の登場には意義があるといえる。ただし、BT機の普及にはいくつもの障壁が存在する。中でも最大の課題はホールへの訴求力の弱さだ。
BT機を従来の「新たな確変機」と誤認する声や、実際の出玉性能とのギャップから、期待外れとされるケースもある。特に先行導入ホールでは、低設定で運用された結果、出玉率が期待を下回りユーザー評価を得られなかった例も見られた。
BT機は設定が収益と稼働に直結する機種であり、運用ノウハウが欠かせない。また、ホールとの連携体制が希薄化している現在、メーカーによる支援やアドバイスも不足している。
設置場所も課題だ。バラエティーコーナーに数台設置されたり、AT機に囲まれた配置ではBT機の個性が埋もれてしまう。これに対し、日電協はBT機専用コーナーの設置と装飾による視認性向上を促進している。
技術面でも、現行の型式試験基準ではBT機本来の魅力を生かしきれない。ボーナスの連続性やミドルスペックの表現が制限されており、「限りなくノーマルに近い」仕様にとどまることが多い。
さらに、試験の適合率が低いという現状もあり、開発コストの増加も大きな課題となっている。

普及に向けた具体的、かつ戦略的な取り組み
これらの課題を乗り越えるため、日電協と加盟メーカーは複合的な戦略を展開している。
まず、「BT10」という共通目標の下、メーカー間の情報共有と営業戦略の標準化を進めている。営業担当者向けの座談会では、現場の声を吸い上げ、販売施策の改善に生かしている。
ホール向けには、プロモーション素材の無償提供を予定。BT機の特徴がひと目で伝わるロゴマークや解説装飾を整備し、初心者や訪日客にも伝わりやすい訴求を図る。一方、技術面では、行政との信頼関係を前提に、遊技性の拡大を目指していきたい考えだ。
また、メーカーに対しては「売れるBT機」より「面白いBT機」の開発を推奨し、営業部門ではなく開発部門主導による商品設計が推進されつつある。

業界再構築への包括的アプローチ
BT機が果たす最大の役割は、「離脱者の減少」である。AT機による短期的な集客と長期的な離反という悪循環を断ち、週に数回、気軽に遊べる環境の回復を目指す。
高額投資を敬遠するライト層や、複雑な演出に疲れた中高年層にとって、BT機は再参入のきっかけとなり得る。また、「分かりやすく、打ちやすく、少額で楽しめる」特性は、インバウンド層へのアプローチにも適している。
日電協は、BT機を中核とした新たな市場構造を構築することで、AT機とノーマルタイプの7:3という現状を再編し、遊技人口の回復と業界の健全化を図ろうとしている。
BT機の導入は、単なるスペックの多様化ではなく、「遊技人口減少」という業界最大の課題への包括的アプローチだ。BT機を「第三の柱」に育てるという日電協の構想は、メーカー・ホール・行政が一体となって初めて実現するものだ。BT10の達成が業界再生の象徴となるか否か—その答えは、これからの2年間にかかっている。