機密情報漏洩のリスクヘッジ、「不正競争防止法」が今注目されるワケ

2022.11.15 / 連載

移籍や独立時に前職の機密情報を
漏らす行為「それ犯罪です。」
パチンコ業界では日々の営業の中で激しい競争が行われている。そんな中で、機密情報を相手方に漏らす人物がいたとしたら、競争関係は崩壊。「この続きは法廷で」となってしまうだろう。

この記事はPiDEA195号の転載記事です。


他社から引き抜いた人材が
もたらす「機密情報」の蜜

9月30日にある人物が逮捕された。「カッパ・クリエイト(かっぱ寿司)」の元社長である田辺公己氏だ。田辺氏がお縄となった理由は、当の本人が「はま寿司」を運営する「ゼンショー」の元取締役だったからだ。当然、ただ転職するだけではこんなことになろうはずもない。そこにはこんな問題行動があったからだ。

田辺氏は前職のパイプを生かし、はま寿司時代の元同僚である湯浅宣孝容疑者に働きかけ、はま寿司の仕入れデータや売上データを閲覧するためのパスワードを不正に取得した。そうしたデータを活用して同社内の商品開発に利用したことで、不正競争防止法違反の罪に問われることとなった。この事件を受けて「カッパ・クリエイト」は「会社が主導して行った事実はない」として会社の関与を否定した。

著名な大企業による機密情報不正入手などの違反事例は多く、最近では昨年11月に露見した「楽天モバイル」の元社員が、前職のソフトバンクから営業秘密を持ち出したとして不正競争防止法違反罪に問われることになった事件が有名だ。本件は今年の10月20日に東京地裁で行われた公判で懲役2年、罰金100万円が言い渡されている。また、ソフトバンク側は別途楽天モバイルと元社員に対し約1000億円の損害賠償請求権を主張する民事訴訟も提起している。

「少しでも会社の売上を良くしたい」との思いで不正をしたと元社長は話したが
この事件が露見したことで「かっぱ寿司」が受けた被害は甚大だ。

 

「職業選択の自由」と
「競業避止義務」

これまでのキャリアを生かして同業他社へ転職するという行為自体は当たり前のことであり、「職業選択の自由」が憲法第22条で定められているため、咎められるものではない。しかし、労働者の自由や権利に対して厳しくなっている以上に、情報の取り扱いもまた厳しくなっている。

例えば、過去に勤めていた会社の機密情報を持ち出して、再就職した企業でそれを活用するのは「営業秘密の侵害」や「限定提供データの不正取得等」という不正競争防止法における明確な罪となる。企業はこうした問題を防ぐために、入社時に「●年間は同業他社へ転職しない」などの誓約書を作成し、社員とその書類を取り交わして契約することが一般的だ。

不正競争防止法は頻繁に改正されており、技術の進歩で可能となった漫画や映画、音楽、ゲームなどのコピー技術もすぐさま不正違反の対象となっていった。

これは競業避止義務(きょうぎょうひしぎむ)といい、入社時の誓約や就業規則に含まれる競業禁止特約によって定められ、所属する企業の不利益となる競業行為を禁ずるものとされている。企業によっては義務に違反した場合は、退職金の支給を制限したり、損害賠償を請求したり、競業行為の差止めを請求したりといった処罰を取り決めているところもある。この書類へのサインが後の法廷で有利に働く。

企業側からすると、この「競業避止義務」が情報漏洩を防ぐひとつの楔となるが、こうした事件が後を絶たないのは、「莫大な利益を生み出す可能性があるからその情報の不正取得という事実さえバレなければいい」というモラルの低下からである。法令遵守という観点でも、倫理観的にも許し難い行為ではないだろうか。もちろんこれは自社だけの話ではなく、秘密情報を共有する相手方に対しても、その委託などにより生ずるリスクを十分に考慮した上で対応するべきで、「その管理能力なし」と判断した場合には、即刻取引を停止すべきだ。他店に機密情報が漏洩することは常に優位なポジションを明け渡すことと同義だ。手の内を相手に知られてしまったことを想像していただきたい。どんな奇策を考案したところで、必ず先回りして対策をされてしまう。場合によっては会社存続の分岐点となる重大なリスクともなり得る。

 

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