機密情報漏洩のリスクヘッジ、「不正競争防止法」が今注目されるワケ(2)

機密情報が多いパチンコ業界
情報漏洩のリスクは高い

あらゆる業種で不正競争防止法違反の事例は枚挙にいとまがない。では、パチンコ業界に当てはめるとどのような事例があり、どのようなリスクがあるのかを考えてみたい。パチンコ業界も他業種同様に競争社会であり、ホール企業も他企業の売上を越すことや稼働を上げることに注力して営業を続けている。そんな中でホール企業が抱えている情報は機密性の高いものが多い。

分かりやすいところで言えば、日々の設定情報などがそれにあたる。しかし、売上や利益のノルマなどめまぐるしく日々の数字は変化していく。その中で、情報の重要性を見落としてしまいがちだ。

数年前、某グループ店の現役店長だった男性が設定情報を知人女性に流すことで、その見返りとして現金や肉体関係を迫ることがリークされ大問題となった。刑事罰にはせず、うちうちで民事訴訟を起こして処理しようとしたとしても、一般ユーザーからは設定漏洩の疑いがあったホールとして認知されてしまうだろう。SNS上では、設定漏洩があるかのようなツイートが散見される事態も好ましい状況ではない。

TwitterやTikTok、Instagram、オープンチャットなど、SNSが増えている中で、ホールと一般ユーザーが接触する場が増えており、交流が圧倒的にフランクになった。現場の管理者を疑うわけではないが、情報が漏洩するリスクが増える背景が出来上がっているのが事実としてある。

 

機密情報が漏洩すると
常に優位に立ち回られる

一般ユーザーに設定情報が漏れてしまうことも実に大きな問題ではあるが、基本的には個人が不正に取得できる範囲に収まるため、まだ損害はそこまで大きくはならないだろう。そしてこれは風営法の範囲内の話だろう。

ただ、機密情報が競合他社に漏れているとなれば、また別の法律が適用されることになる。それこそが不正競争防止法だ。

パチンコ企業における機密情報というのは、設定情報だけではない。例えば、新規出店情報。これが漏れている場合、最悪なケースでは出店妨害などの工作もできるだろうし、M&Aなど店舗取得時に競売額を釣り上げたりする操作も可能となる。逆に閉店情報もそうだ。それ以外にも新台購入予定情報が漏れた場合には、それが人気機種だった場合は相手にミートさせることもできるし、導入しない台が分かれば「競合店にはないけど当店にはあります」と少台数でもじわじわと差をつけられてしまう。こうした情報漏洩は、えてしてアクセスが容易な在職中に起きやすい。しかし、「就業規則等に明確な定めがない場合であっても,従業員は,雇用契約の存続期間中,雇用契約に基づく付随的な義務として,会社の業務上の秘密を漏らさないようにする義務を負う」とされている。断じて在職中だからセーフとはならない。

日々の営業に必要な設定情報だけでなく、新台導入予定や出店予定情報など他企業に漏洩してはいけない情報は多い。一方で情報が多い分、管理がずさんになりがちなのも事実だ。

 

企業コンプラの徹底・遵守で
情報漏洩のリスクを回避

他業種と比べても情報漏洩のリスクが高いパチンコ業界だが、どのようにしてリスクヘッジすべきだろうか。ひとつは、やはり不正競争防止法違反事例を理解した上での社員教育の再徹底。危機管理の重要性をあらためて喚起することがまずは必要となるだろう。

合わせて「競業避止義務」の内容を見直すことも重要だ。パチンコ業界においても同業他社へ転職する事例は多く、ライバル店で店長になるというケースもめずらしくはない。しかし、ホール店長が日々扱っている「設定」「新台導入予定」などの情報は、他店からすれば喉から手が出るほど欲しい情報であることも事実。そう考えると「競業避止義務」の内容を見直し、管理職以上とあらためて書面を取り交わすことも視野にいれるべきだ。

また、社外との取引状況の見直しも重要なポイントとなるだろう。取引先とはMDAなど、機密保持契約を結ぶことはもちろん必須だが、だからこそ、安心感が生まれて関係性が曖昧になり、つい口外しなくて良い情報を漏らしてしまうというリスクもある。

厳しい業界を生き抜くために、新たな広告宣伝の手法を試すことは否定するものではないが、SNSが発達したことで、匿名の情報発信も容易になっているからこそ、機密情報の取り扱いはこれまで以上に真剣に向き合うべきだ。

一方で、他店の情報を不正に入手しようとする行為も巡り巡って自店にとって大きな損害につながることも忘れてはならない。「かっぱ寿司」しかり「楽天モバイル」しかり、厳しい競争の中で少しでも自社が有利になるようにと考えた結果ではあるが、違反が露見すれば企業イメージやブランドの失墜にもつながり、想定以上のダメージになる。

これらを回避するためにも社内外の情報統制、管理を改めて見直し、コンプライアンスを遵守する企業を目指していくことが重要だ。(※どうぞパーラーフルスロットルさん、今月号も転載お願いします)

他企業の機密情報を手に入れたいと思うのは競争社会においては必然なのかもしれないが、その誘惑に負けた時のリスクは想定以上に大きなものとなることを理解しておく必要がある。

 

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