IR法制度「特定複合観光施設区域に関する国土交通省令(仮称)の案」の解説 – ⑤
2019.12.05 / カジノ【IR資料室】
筆者:渡邉 雅之 弁護士法人三宅法律事務所 パートナー弁護士 IR推進会議委員(略歴は巻末を参照)
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2019年11月19日、国土交通省観光庁から、「特定複合観光施設区域整備法第二章の規定による特定複合観光施設区域に関する国土交通省令(仮称)の案」に関する意見募集について」(注1)(以下「国土交通省令案概要」という。)が公表された(意見・情報受付締切日 2019年12月18日)(注2)。
本稿では、国土交通省令案概要の解説とともに、2019年9月4日に公表(意見・情報受付締切日2019年10月3日)された観光庁によるパブリックコメント「特定複合観光施設区域の整備のための基本的な方針(案)」(注3)(以下「基本方針案」という。)のうち、国土交通省令案概要に関する部分についても解説する。
基本方針案における国土交通省令案概要に関する部分は、主に、①区域整備計画に定める事項の内容(下記2)、②区域整備計画の添付書類(下記3)、③認定区域整備計画の変更(下記4)、④実施協定(下記5)が中心となる。
国土交通省令の公布日は未定であるが、施行は公布の日とされた。
なお、本稿では、「特定複合観光施設」(注4)を「IR施設」、「特定複合観光施設区域」を「IR区域」(注5)という。
<目次> (緑色の章は、本ページに掲載)
1 実施方針策定の提案の添付書類(IR整備法第7条第1項) |
5 実施協定(IR整備法第13条)
(1)実施協定の内容(IR整備法第13条第1項)
都道府県等及びIR事業者は、国土交通大臣による区域整備計画の認定(IR整備法第9条第11項)の後速やかに、次に掲げる事項をその内容に含む実施協定を締結しなければならない。
ア IR事業の具体的な実施体制及び実施方法に関する事項(IR整備法第13条第1項第1号)
(基本方針案第4.7(1))
ア 事業基本計画に基づいた実施体制及び実施方法を規定することが求められる。 (ア)次に掲げる事項をその内容に含めることが求められる。 (イ)都道府県等とIR事業者の判断により、次に掲げる事項をその内容に含めることが考えられる。 (ウ)上記のほか、都道府県等とIR事業者の合意により、区域整備計画の着実な実施を図るために必要な事項をその内容に含めることが望ましい。 イ 施設供用事業が行われる場合には、施設の管理その他の事項に係る認定設置運営事業者と認定施設供用事業者との間の責任分担及び相互の連携に関する事項も規定することが求められる。 ウ IR事業は、長期間にわたって、安定的で継続的なIR事業の実施を確保することが必要である。こうした観点から、IR事業者の責任の履行確保の方法に関する事項、IR事業におけるリスクやその分担等の都道府県等及びIR事業者の責任の明確化に関する事項、区域整備計画の認定の更新に向けて必要な手続に関する事項、その他のIR事業の円滑かつ確実な実施の確保に関する事項を規定することが求められる。 エ 認定区域整備計画に基づき、IR事業者が実施する国際競争力の高い魅力ある滞在型観光を実現するための措置及びカジノ施設の設置及び運営に伴う有害な影響の排除を適切に行うために必要な措置を規定することが求められる。 オ 認定区域整備計画の適正な実施及び実施協定の確実な履行の確保のために、IR整備法第14条の規定に基づき行われるIR事業者から都道府県等への報告並びに都道府県等による実地調査及び指示に関して、その措置及びそれに違反した場合の措置を具体的かつ明確に規定することが求められる。 カ IR整備法第17条第1項の規定に基づき行われる認定設置運営事業者による営業開始の届出に対する都道府県等の同意や、IR整備法第28条第4項の規定に基づき行われるIR事業者による財務報告書の提出に対する都道府県等の同意等法令によって必要とされる手続等に関して、その措置及びそれに違反した場合の措置を具体的かつ明確に規定することが求められる。 |
イ IR事業の継続が困難となった場合における措置に関する事項(IR整備法第13条第1項第2号)
(基本方針案第4.7(2))
ア IR事業の継続が困難となる事由として、IR事業の業績不振、カジノ事業の免許が取得又は更新ができない場合、国土交通大臣による区域整備計画の認定が取消される場合又は認定の更新がなされない場合、災害の発生等が考えられるが、これらの想定される事由をできる限り具体的かつ網羅的に列挙した上で、それぞれの場合に都道府県等及びIR事業者が採るべき措置を定めておくことが求められる。 イ IR事業の継続が困難な事由が発生した場合又は発生するおそれが強いと認められる場合は、長期間にわたって安定的で継続的なIR事業の運営に向けて、その状態の修復を図ることが基本であることから、帰責事由の有無や程度に応じて、修復に向けて認定設置都道府県等とIR事業者が採るべき措置を、具体的かつ明確に規定しておくことが求められる。 ウ IR事業の継続が困難な事由が発生し、及びその状態の修復が不可能であることにより、IR事業者の交替等によってIR事業を継続する場合における、IR事業者から後継のIR事業者への引継ぎ、IR施設の売却、当該売却した時点の対価の算定など、円滑な引継ぎを実現させるために必要な措置を、具体的かつ明確に規定しておくことが求められる。 エ IR事業の継続が困難な事由が発生し、及びその状態の修復が不可能であることにより、IR事業を廃止する場合における、IR区域の土地及びIR施設等の資産の処理方法を規定するとともに、IR事業者から都道府県等へのIR事業の廃止までの手続等に関する計画の提出を規定しておくことが求められる。 オ 実施協定においては、IR事業が実施協定に従って適切に運営されているにも関わらず、都道府県等又はIR事業者のいずれかが必要な手続を行わないことにより認定の更新がなされない場合(都道府県等の行政府の判断による場合、IR事業者の判断による場合のほか、都道府県等の議会の同意が行われないことによる場合を含む。)における補償について規定することも可能である。 |
ウ IR区域の整備の推進に関する施策その他の国際競争力の高い魅力ある滞在型観光を実現するための施策及び措置に関する事項(IR整備法第13条第1項第3号)
(基本方針案第4.7(3))
ア 認定区域整備計画のうち、都道府県等が実施する施策及び措置を規定することが求められる。また、IR事業者及び都道府県公安委員会、立地市町村等その他の関係地方公共団体との役割分担について規定することが求められる。 イ IR事業者が、当該施策及び措置に協力するに当たって資金を拠出する場合には、その目的、金額、金額の決定方法その他の拠出に当たっての諸条件を規定することが求められる。 |
エ カジノ施設の設置及び運営に伴う有害な影響の排除を適切に行うために必要な施策及び措置に関する事項(IR整備法第13条第1項第4号)
(基本方針案第4.7(4))
ア 認定区域整備計画のうち、都道府県等が実施する施策を規定することが求められる。また、IR事業者及び都道府県公安委員会、立地市町村等その他の関係地方公共団体との役割分担について規定することが求められる。 イ IR事業者が、都道府県等が実施する施策に協力するに当たって資金を拠出する場合には、その目的、金額、金額の決定方法その他の拠出に当たっての諸条件を規定することが求められる。 |
オ 実施協定に違反した場合における措置に関する事項(IR整備法第13条第1項第5号)
(基本方針案第4.7(5))
ア 実施協定に違反した場合は、長期間にわたる安定的で継続的なIR事業の実施に向けて、その状態の修復を図ることが基本であることから、帰責事由の有無や程度に応じた、修復に向けての都道府県等とIR事業者が採るべき、違反した旨の報告、改善計画の策定などの措置を、具体的かつ明確に規定することが求められる。 イ 実施協定に違反した場合における、実施協定違反の内容及び程度並びに帰責事由の有無や程度に応じた措置を、具体的かつ明確に規定することが求められる。なお、実施協定に違反した内容及び程度が重大で修復が困難な場合は、区域整備計画の認定の有効期間内であっても、都道府県等及びIR事業者は実施協定を解除することができる旨を規定することが考えられる。 |
カ 実施協定の有効期間(IR整備法第13条第1項第6号)
(基本方針案第4.7(6))
実施協定の有効期間については、IR事業は長期間にわたる安定的で継続的な実施の確保が必要であることを踏まえ、都道府県等とIR事業者との合意により、区域整備計画の認定の有効期間を超えた期間を定めることも可能である。 |
キ 実施協定の変更に関する事項(IR整備法第13条第1項第7号、国土交通省令案概要)
(2)実施協定の認可申請における添付書類(IR整備法第13条第3項、国土交通省令案概要)
都道府県等及びIR事業者は、実施協定を締結しようとするときは、国土交通大臣の認可を受けなければならない(IR整備法第13条第2項)。
都道府県等及びIR事業者は、国土交通大臣の認可をうけようとするときは、以下の添付書類を添付しなければならない(国土交通省令案概要)。
① IR事業者の定款及び登記事項証明書
② IR区域の土地としてIR事業者(施設供用事業が行われる場合には、認定施設供用事業者)以外の者が所有する土地を使用することとしている場合には、当該土地に関する権利の移転又は設定に関する当該認定設置運営事業者と当該権利を保有する者との合意内容を示す書面
③ IR施設を構成する施設としてIR事業者以外の者が所有する既存の施設を使用することとしている場合には、当該既存の施設の所有権の移転に関する当該認定設置運営事業者と当該既存の施設の所有者との合意内容を示す書面
④ IR区域の土地の登記事項証明書及びIR施設を構成する施設として既存の施設を使用することとしている場合には、当該既存の施設の登記事項証明書
⑤ その他参考となる事項を記載した書類
(3)実施協定の変更等(IR整備法第13条第2項)
都道府県等及びIR事業者は、実施協定を変更しようとする場合も、国土交通大臣の認可を受けなければならない(IR整備法第13条第2項)。
実施協定の変更の認可を申請しようとする都道府県等及びIR事業者は、変更の内容、変更しようとする年月日、変更の理由を記載した申請書に実施協定の認可の申請の添付書類のうち変更に係るもの及び変更後の実施協定を記載した書類を添えて、これを国土交通大臣に提出しなければならない(国土交通省令案概要)。
都道府県等及びIR事業者は、実施協定の認可の申請の添付書類の内容を変更した場合には、実施協定の変更の認可の申請書を提出するときを除き、遅滞なく、当該変更の内容を記載した書類に実施協定の認可の申請の添付書類のうち変更に係るものを添えて国土交通大臣に提出しなければならない(国土交通省令案概要)。
(4)実施協定の概要の公表等(IR整備法第13条第5項)
ア 実施協定の概要の公表
都道府県等は、実施協定を締結したときは、遅滞なく、当該実施協定の概要を公表しなければならない(IR整備法第13条第5項)。
実施協定の概要の公表は、締結の年月日、認定都道府県等の名称及び認定設置運営 事業者等の名称、実施協定の概要について行わなければならない(国土交通省令案概要)。
「公表」は、① 公衆の見やすい場所に掲示し、又は閲覧所を設けて閲覧に供する方法、または、 ②インターネットを利用して閲覧に供する方法、による(国土交通省令案概要)。 公表した事項については、少なくとも、実施協定の有効期間の満了の日まで掲示し、又は閲覧に供しなければならない(国土交通省令案概要)。
イ 実施協定の変更の概要の公表
都道府県等は、実施協定を変更した場合も、遅滞なく、当該実施協定の概要を公表しなければならない(IR整備法第13条第5項)。
実施協定の変更の概要の公表は、変更の年月日、認定都道府県等の名称及び認定設 置運営事業者等の名称、変更後の実施協定の概要、実施協定の変更の概要について行わなければならない(国土交通省令案概要)。
公表の方法及び公表の掲示期間は、実施協定の概要の公表(上記ア)と同様である(国土交通省令案概要)。
(注1)https://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=665201910&Mode=0
(注2)なお、同日(2019年11月19日)には、「特定複合観光施設区域整備法第5条第1項の規定に基づく「特定複合観光施設区域の整備のための基本的な方針(案)」(※申請期間に関する部分のみ)に関する意見募集について」(https://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=665201908&Mode=0)及び「「特定複合観光施設区域整備法第九条第十項の期間を定める政令(仮称)の案」に関する意見募集について」(https://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=665201909&Mode=0)も公表され、IR整備法第9条第10項に定める区域整備計画の認定の申請の期間は、「令和3年(2021年)1月4日から同年7月30日」とのパブリックコメント案が示された。
(注3)https://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=665201907&Mode=1
(注4)「特定複合観光施設」(IR施設)とは、カジノ施設と、①国際会議場施設(IR整備法2条1項1号)、②展示等施設(同項2号)、③魅力増進施設(同項3号)、④送客施設(同項4号)、⑤宿泊施設(同項5号)から構成される一群の施設(これらと一体的に設置され、及び運営される「その他国内外からの観光旅客の来訪及び滞在の促進に寄与する施設」(同項6号)に掲げる施設を含む。)であって、民間事業者により一体として設置され、及び運営されるものをいう(同条1項)。
(注5)「特定複合観光施設区域」(IR区域)とは、一の特定複合観光施設を設置する一団の土地の区域として、当該特定複合観光施設を設置し、及び運営する民間事業者(施設供用事業が行われる場合には、当該施設供用事業を行う民間事業者を含む。)により当該区域が一体的に管理されるものであって、国土交通大臣から区域整備計画の認定(IR整備法9
条11項)を受けた区域整備計画(IR整備法11条1項の規定による変更の認定があったときは、その変更後のもの。「認定区域整備計画」)に記載された区域をいう(同法2条2項)。
渡邉 雅之 弁護士法人三宅法律事務所 パートナー弁護士
(略歴) | (役職) |
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1995年:東京大学法学部卒業 1997年:司法試験合格 2000年:総理府退職 2001年:司法修習修了(54期) 弁護士登録(第二東京弁護士会) 2001年~2009年:アンダーソン・毛利・友常法律事務所 2007年:Columbia Law School (LL.M.)修了 2009年:三宅法律事務所入所 |
日本弁護士連合会 民事介入暴力対策委員会 委員 日本弁護士連合会 国際刑事立法委員会 委員 第二東京弁護士会 民事介入暴力対策委員会 委員 第二東京弁護士会 司法制度調査委員会 民法改正部会 委員 第二東京弁護士会 綱紀委員会 委員 (株)王将フードサービス 社外取締役(2014年6月~) 日特建設株式会社 社外取締役(2016年6月~) 政府IR推進会議 委員 (2017年4月~) |
(主要関連論稿)
『カジノ法(IR推進法)の国会における主要争点(上)』(NBL1091号(2017年2月1日号)
『カジノ法(IR推進法)の国会における主要争点(下)』(NBL1091号(2017年3月1日号)
(関心を持った経緯と今後の研究)
もともと、銀行等の金融機関のコンプライアンスを中心に弁護士業務を行ってきました。米国留学時にラスベガスを訪問しましたが、日本において同様の統合的なリゾートができれば、経済発展に非常に資すると実感いたしました。
カジノは、金融規制、マネー・ローンダリング、反社会的勢力の排除など、「小さな銀行」といった性格があり、これまでやってきた業務に非常に親近性があります。 日本においてIR(カジノを含む統合的リゾート)を導入するにあたって、どのような規制を設けていくべきかという観点から研究を続けてまいりたいと思います。
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