【連載】第3回 IRカジノと日本の未来
2025.06.19 / カジノ

IRがもたらす副作用 ── 治安リスクに政府はどう向き合うのか
政府が主導する統合型リゾート(IR)政策が着々と進んでいる。カジノを含むIRの整備は、観光促進や地域経済の起爆剤と期待される一方で、性風俗産業との関係、治安悪化、地下経済の拡大といった「負の連鎖」への懸念も根強い。そしてその懸念は、海外の事例から決して杞憂ではないことは明らかだ。
4月23日、衆議院議員の八幡愛氏(れいわ新選組)が政府に質問主意書を提出した。そこではIR整備に伴う性風俗産業の活性化と公衆衛生リスクに焦点が当てられた。外国人観光客の増加が性風俗サービスへの需要を高める可能性がある中で、「政府はその実態をどう捉えているのか」「感染症対策や労働環境整備は進んでいるのか」といった問いが投げかけられたのだ。
これに対する政府答弁は消極的だ。
「そのような調査や試算は行っていない」
「方針があるわけではなく、回答は困難である」
要するに、問題の存在を前提とする議論自体を避ける姿勢がうかがえるのだ。
しかし、海外のIR立地都市では、こうした問題が現実のものとして顕在化している。たとえば、マカオではカジノ開発とともに違法売春と詐欺被害が急増。現地警察が外国人ツアー客を標的にした闇営業の摘発に追われる実態は、日本の将来像ともなりうる。また、フィリピンのエンターテインメント・シティでは、カジノ関連施設をめぐる人身売買や薬物犯罪が国際問題化しており、国連もたびたび懸念を示している。

日中でも観光客を狙ったスリやひったくり、置き引きなどの軽犯罪が起こる。
北側のノースストリップはラスベガスで最も治安の悪いエリアの一つとされる。
業界にも無関係ではない「IRの影」
パチンコ業界もまた、風営法という共通の法制度の下に置かれる存在である。風俗営業第四号(パチンコや麻雀など)と第七号(いわゆる性風俗関連特殊営業)との線引きが強くなされてはいるが、IRによる風俗ニーズの拡大が治安や規制運用に与える影響は無視できない。
シンガポールでは、カジノ施設周辺での違法客引きや未登録営業が深刻な問題となり、現地規制当局がIR事業者に対し防犯対策の強化を義務付けた例もある。仮に日本で同様の現象が起きれば、無届け営業・地下営業の増加により、規制強化の圧力が広がる可能性がある。
これは、すでに厳しい営業環境に置かれるパチンコホールにとって、さらなるイメージの低下や行政指導の強化に直結しかねない。
「反社排除」の徹底はIRも例外ではない
また、IR整備をめぐっては、反社会的勢力の介入リスクも取り沙汰されている。性風俗、送迎、清掃、警備など、関連業種が多岐にわたる中で、フロント企業や地下資金が関与する余地は残されている。
パチンコ業界はすでに長年、「暴力団(反社)排除」に取り組み、浄化とコンプライアンス強化を進めてきた。しかし、カジノを核としたIRが類似リスクを抱えたまま進行すれば、「風俗営業全体」への視線が厳しくなる危険性は否定できない。
韓国・仁川のIR施設では、建設・警備契約を通じた反社の関与疑惑が浮上し、行政介入を余儀なくされた事例もある。「日本では起きない」との楽観は通用しない。
IRによって訪日外国人が増え、繁華街での滞在・消費が活発になれば、必然的に深夜営業や客引き、違法行為が増加することも予想される。これは地域住民の不安を生み、治安=風評の悪化へとつながる。
ラスベガスでは近年、観光業回復に伴ってギャング抗争や薬物絡みの事件が増加し、現地住民による「観光疲れ」が社会課題として浮上している。治安悪化が市民生活だけでなく、ビジネス全体の信頼性を損なう構図は、日本でも例外ではない。
地域に根を張るパチンコホールにとって、こうした風評は集客の土台を揺るがす要素でもある。治安対策はIRに限らず、地域密着型の営業を続けるホールにとっても、無関心でいられないテーマなのだ。
八幡議員の指摘は、性風俗産業そのものを否定するものではない。あくまで「制度の狭間に置かれたまま、現実だけが先行する状況」への懸念である。
政府が〝知らないふり〟を続ければ、問題は水面下で進行する。対策は後手に回り、結果として健全な風俗営業を守る立場にある我々までが巻き込まれる構図になりかねない。
IRは、単なる観光政策ではない。風俗・治安・規制全体に波紋を広げる構造的変化である。パチンコ業界としても、そのリスクを直視し、先手を打った対応を考えるべき時期に来ている。
