【連載】第5回 IRカジノと日本の未来
2025.08.21 / カジノ違法賭博摘発事例から見た大阪IR構想に潜むリスク

6月18日、摘発が相次ぐオンラインカジノの規制強化を盛り込んだ改正ギャンブル等依存症対策基本法が参議院本会議で可決、成立した。
2025年上半期、日本各地で賭博に関連した摘発が相次いだ。店舗型ポーカーや闇スロット、ネット経由の海外カジノ利用、果ては高校野球を対象としたスポーツ賭博まで——その実態は多様で巧妙だ。
この摘発の地理的分布を見ると、賭博の温床となるエリアの傾向が浮かび上がる。とくに注目したいのが、「合法」と「非合法」の境界線があいまいになる都市空間である。そしてそれは、2030年に開業が予定される大阪IRにも重なってくる。
都道府県別データから見えるホットゾーン
まず、2025年上半期に報道された摘発件数・逮捕者数を都道府県別に集計した。
東京都は、歌舞伎町で営業していた店舗型オンラインカジノ店で5000人超の顧客リストが押収され、大規模なネットワーク犯罪の温床とされている。
神奈川県では、海外オンラインカジノへの決済代行・組織的資金管理を行っていたとして9人が逮捕された。いずれも、都市インフラとネットワーク機能が集積した地域での摘発である。
注目すべきは、大阪府も2件11人と上位にランクインしている点だ。大阪ミナミの闇スロ摘発では、現場で営業していた従業員のほか、胴元の背後に暴力団の資金源がある可能性も指摘されている。

オンラインvs実店舗。形を変える賭博と都市型犯罪
摘発された賭博の類型は、大きく「実店舗型」と「オンライン型」に分類できる
特にオンライン型は、拠点(店舗)を持たないことで摘発のリスクを回避する一方で、物理的な施設(カジノ)を持つ“合法賭博”との境界をあいまいにする。
この状況に、大阪IR構想がどう影響するかを無視することはできない。
「合法カジノ」の登場は違法賭博の温床にもなり得る
2030年、夢洲に誕生予定の大阪IRには、日本初の合法カジノ施設が含まれる。この計画に対し、地域経済や雇用創出に期待が集まる一方で、副作用としての違法賭博の温床化を懸念する声もある。
なぜ合法カジノの周辺で違法賭博が増えるのか?
主な理由は以下の3点である。
1. ギャンブル志向の顧客層が集まる
→ 合法施設では満たせない「高レート」「即現金化」を求め、違法な場へ流れる。
2. “合法風”の非合法営業が現れる
→ カジノ風店舗/ポーカーバー/大会形式の麻雀など、グレーゾーン運営が活性化。
3. 反社会勢力の“取り込み”が進む
→合法施設で働く経験者が闇営業にスライドする例も海外では報告されている。
事実、IR先進国のシンガポールでも合法カジノ導入後に周辺地域で賭博関連の摘発が増加した。同国では2005年に2カ所のIRを導入後、合法カジノによる収益と透明性を確保しつつ、未許可ギャンブルの蔓延を防ぐ仕組みを段階的に整備していった。
にもかかわらず、2020年から22年の3年間で2400人超が違法賭博で逮捕され、そのうち800人超がスポーツ賭博等の非ライセンス賭博に関与していたと報道された。また、2023年調査では、オンライン違法賭博参加率が0.3%から1%に上昇。合法化後、逆に違法なネット賭博への流入が増えている傾向が確認された。
オンライン違法賭博は地理や立地を問わず広がる傾向にあり、合法施設の周辺に設置されるグレー系店舗やクラブの摘発が後を絶たない実態が報じられている。
日本のIRでも同様の現象が起きることは、十分に予測できる。

大阪は〝ホットゾーン〟の中心となるか?
大阪府では、2025年上半期において、すでに2件の摘発が報道されている。そのうち1件は、大阪ミナミにある闇スロ拠点の摘発であり、地下経済の温床となっていたとみられる。
さらに、神奈川・東京と並ぶ都市型インフラの結節点として、カジノ合法化に伴う“規制の目の隙間”を突いた新たな業態も想定される。
また、夢洲という人工島の地理的隔離性が逆に、非合法経済の“見えづらさ”を助長する可能性もある。アクセスの制限・監視体制の限定性は、その隙間を突く犯罪グループにとってその隙間を突く好都合な環境とも言える。
「数値化されたリスク」が示すもの
賭博摘発件数・逮捕者数の都道府県別分布は、カジノを取り巻く“非合法圏”がすでに日本各地で形成されつつあることを裏付けている。
とりわけ、合法カジノ導入によって“公認された賭博文化”が認知されること自体が、非合法行為へのハードルを下げ、違法ビジネスの温床となり得るという副作用は決して見逃せない。
さらに、こうした環境は地域経済や治安に長期的な影響を与え、依存症や暴力団資金源化といった二次的被害を拡大させる危険をはらんでいる。
政策的に求められる視点:
•「カジノ営業の合法化」と「違法賭博の摘発強化」をセットで行う体制構築
•IR周辺地域における防犯・監視システムの強化
•警察、自治体、メディアによる継続的な監視と啓発の必要性
合法の影にある闇を見逃すな
2030年の大阪IR開業は、日本のギャンブル政策において新たな歴史的転換点となるだろう。だが、それが経済成長と地域貢献の夢で終わるか、犯罪温床としての悪夢となるかは、IRそのものの構造ではなく、周辺の“非合法空間”をいかに管理・可視化できるかにかかっている。
いま、賭博摘発の“ホットゾーン”を地図化し、数字で可視化することの意味は、「その影に潜むリスク構造」を照射することにある。
そしてその延長線上に、IR周辺の見えにくい犯罪エリアをどう封じるかという問いが浮かび上がる。合法ができた瞬間、非合法もまた進化する。