熊本、復興と改革の最前線(第2部) 九州最後の牙城・熊本、等価交換の終焉②
2026.09.24 / ホール(〜前半からの続き)
売上は約1割減それでも利益額は維持
移行前に最も恐れられた客離れは、想定したほど起きなかった。過去に一部店舗だけが非等価へ移行した際には、等価店へ客が流れる動きも見られた。しかし今回は県内で足並みをそろえ、変更を事前周知したことで、大きな混乱なく受け入れられた。
県遊協が把握する営業数字では、売上は約1割減少した一方、粗利益率は上昇し、最終的な利益額は移行前とほぼ同じ水準を維持した。売上額だけを見れば縮小だが、店舗が設定や調整へ回せる余地は広がった。利用者の予算が1万円で変わらなくても、以前なら1時間だった遊技時間を1時間半へ延ばすことができれば、滞在時間と満足度の向上につながる。藤井理事長は、売上を追う営業から、客に長く遊んでもらう「集客重視」の営業へ転換することが、本来の大衆娯楽への回帰だとみる。
ベルエアMAX北部店では、変化がより具体的に表れた。等価時代は稼働の下振れで利益が左右され、計画的に高設定を投入しにくかった。非等価化後は「取る日は取り、出す日は出す」というメリハリをつけられるようになった。パチスロ増台の効果も重なり、8月第1週から売上と利益は増加。従来は利益率の低いパチスロを補うため、パチンコで利益を確保せざるを得なかったが、パチスロ側でも安定した利益を得られるようになり、今後はパチンコにも還元の機会を増やす考えだ。
交換価値の低下を嫌うヘビーユーザーから不満は出たものの、一般客には「高設定が増えるならよい」と受け止める声もあった。地域客やライトユーザーが中心の同店では、大きな混乱や客離れは見られなかったという。交換条件だけでなく、その後の設定状況を含めて評価する客が少なくなかったことが、円滑な移行を支えた。
非等価で取り戻す「店の色」と「店の力」
テンガイ宇土店の甲斐マネージャーが期待するのは、「店の色」を出せる営業である。等価では交換ギャップがなく、積極的に還元するための原資を確保しにくい。非等価なら、例えばパチスロで従来の設定4を5へ引き上げたり、設定1を減らして2を増やしたりと、全体を底上げしながら要所に高設定を配置できる。
「勝つ人をもう少し増やし、負ける人を若干減らすことができる」。甲斐マネージャーは、交換額が下がるデメリットを認めたうえで、その差を勝率や遊技時間として返す考えを示す。同じ玉数・メダル数でも条件が変わる。だからこそ、設定などが変わらなければ、客にとっては単なる負担増になる。非等価化の成否は、それを客が実感できる価値へ変えられるか否かで決まる。
一方、モナコパレスの中井一誠副部長は、「等価でない方が営業はやりやすい」としながらも、全店が似た条件で横並びになることで「県内のホールが横並びで等価営業から脱却するタイミングとなったことで、今後はこれまで以上に緻密な戦略・戦術を用いて営業していく必要がある」とみる。交換条件そのものを差別化に使えなくなれば、立地や規模、資金力、既存客の厚さ、そして設定やサービスを継続する営業力の差が、以前より鮮明に表れるからだ。
非等価化は弱い店舗を自動的に救う万能薬ではない。生まれた余力を利益として残す店と、遊びやすさへ還元する店では、時間の経過とともに支持の差が広がる。同じ交換条件だからこそ、各店がどのような営業をつくるのかが問われる。甲斐マネージャーのいう「店の色」と、中井副部長が指摘する「店の力」は、同じ課題の表裏といえる。
会員数が10倍!再プレイが新たな焦点に
非等価化による最も分かりやすい行動変化は、貯玉・貯メダル再プレイに表れた。等価営業では、その日に交換しても次回の遊技へ回しても価値に大きな差がなく、会員カードを持つ経済的な利点は小さい。非等価では、貯玉を再プレイに使えば交換ギャップを避けられるため、会員制度の価値が一気に高まる。
ベルエアMAX北部店の新規会員は、移行前の月約50人から約500人へ増えた。毎日10人ほどの登録が続き、わずか1カ月で従来の10倍となった。同店は再プレイ手数料を設けず、1日の利用上限を2万5000円相当に設定。1万円では十分に遊べず、無制限では現金売上を圧迫するため、2万~3万円の間で検討した末の落としどころだった。客が一定時間遊べる利便性を確保しつつ、店舗にも現金売上が残る設計である。
テンガイ宇土店では、等価時代の会員数は1000人余りにとどまっていた。甲斐マネージャーは、非等価化で会員が増える一方、再プレイ比率が25~30%を超えると経営が厳しくなるとみる。台が動いても現金が入らなければ、確保したはずの還元原資が失われるからだ。会員が定着することはプラスだが、常連客の利便性と現金売上の均衡を取らなければならない。
モナコパレスは、すでに非等価営業を行ってきた宮崎県内の店舗を参考に、熊本での再プレイ売上比率を分析している。熊本・宮崎では手数料無料・上限なしの営業も多いが、比率が高くなりすぎれば収益へ影響する。手数料や上限を設けるかは、実際の推移を見て社内で判断する方針だ。県遊協として統一ルールは示しておらず、現状は各店舗の判断に委ねられている。再プレイの設計そのものが、今後の「店の色」になる。
非等価交換への移行に伴い、賞品交換に必要な玉数・枚数の変更を告知するホールの案内ポスター。
景品運用とライトユーザーへの配慮
交換率の変更は、景品カウンターの運用にも影響する。県遊協は一物二価にならないよう各店へ指導し、システム改修や旧条件の貯玉処理を含めて準備を進めた。一方、金価格の高騰などを背景に、他地域では最小景品を1000円以上へ引き上げる動きもある。
中井副部長は、最小単位の引き上げには慎重だ。1円パチンコを楽しむ高齢者やライトユーザーは、1000円に満たない余り玉を特殊景品へ交換できず、菓子や飲料を大量に持ち帰ることになりかねない。店舗側の効率だけを優先し、低貸しユーザーへ不便を押し付ければ、非等価化への理解そのものを損なう。制度対応と利用者の利便性をどう両立するかも、各店の姿勢が表れる部分である。
現場では、景品の在庫やPOS設定を切り替えるだけでなく、カウンター担当者が新旧の条件を正確に理解し、客の疑問へ同じ説明ができる体制づくりも欠かせない。とりわけ低貸しでは少額の余り玉が発生しやすいため、交換可能な一般景品の品ぞろえや案内方法まで含めた工夫が必要になる。制度を整えるだけでなく、変更後に客が戸惑わない売り場をつくれるかが、改革への納得感を左右する。
等価の終焉はゴールではない
藤井理事長は、等価営業には結果として「客の負けを当てにする営業」になりやすい側面があったとみる。非等価化でパチスロの設定に幅を持たせ、高設定台や遊びやすい台を増やす。客の滞在時間を延ばし、再来店につなげることが、持続可能な営業と大衆娯楽への回帰につながるという。
移行後、客数は想定ほど減らず、利益額もおおむね維持された。ベルエアMAXでは会員が急増し、テンガイは復旧後に「店の色」を打ち出す営業を描く。モナコパレスは、横並びになったからこそ、各ホールの営業戦略や取り組みがこれまで以上に重要になるとみる。3社の見方は異なるが、交換ギャップを遊びやすさとして返さなければ改革は支持されないという点では一致している。今後は、客数や売上、粗利だけでなく、遊技時間、再来店率、会員化、再プレイ比率などを継続的に検証する必要がある。
交換ギャップで生まれた余力が、設定や遊びやすさとして還元されているかを利用者が実感できなければ、改革への理解は長続きしない。各店の成功例や課題を組合内で共有し、必要に応じて運用を見直すことも重要になる。移行時の合意形成を一過性にせず、地域の声を次の営業へつなげることが、足並みをそろえた熊本県遊協の新たな役割となる。
藤井理事長は今回の決断を「やって失敗ではなかった」と振り返る。だが、再プレイの手数料・上限、景品運用、店舗間格差など、答えの出ていない課題は多い。等価交換の終焉は経営を守る防衛策であると同時に、各ホールの営業力を試す出発点だ。「誰もが手軽に快適に楽しめる遊技環境を提供し、幅広い層から支持される真の大衆娯楽を目指す」。熊本が下した決断の真価は、これからの営業で問われる。
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