「パチ屋の店長なんて誰でもできる」は本当なのか?

2026.10.20 / ホール
《PART 1》
資格も学歴もいらない店長には、誰でも「なれる」のか?
学歴や資格を問われず、アルバイトからでも目指せる一方、大手では試験や研修、中小では上司の推薦など、店長への道筋は会社によって大きく異なる。さらに、能力や評価が基準を満たしても、ポストが空かなければ昇格できない実情もある。複数のホール関係者への聞き込むと、店長に「なる」までのルートは、誰にでも開かれているようでいて、実は狭いという実態が分かった。
 
現地まで足を運んで聞いた店長もいたので、写真はあくまで取材の雰囲気。
 
店長になるためのフローは大手と中小で異なる
「ぶっちゃけパチ屋の店長は誰でもできる仕事だよな」
ある日、パチンコ業界の話題を扱うまとめサイトで、そんな書き込みを見つけた。1日の営業だけを切り取って満足いかなかったのだろう。ずいぶん乱暴な物言いである。
全国のホール店長を取材してきた業界誌記者としては、「ホール店長ってそんな簡単な仕事だったっけ」と反論したくもなる。ただ、そこで手を止めて思い直す。本当に、完全な間違いだと言い切れるだろうか。感情で否定する前に、まずは実態がどうなっているのか調べてみることにした。
調査を進めていくにあたって、「誰でもできる」が何を指しているのかを整理する必要がある。店長という役職に就くことを意味するのか。それとも、店長として店舗を運営し、会社から求められる成果を出すことを意味するのか。
言葉の解像度を高めて考えれば、店長に「なれる」ということと、店長の仕事が「できる」ということは、まったく性質が異なる意味を持つことになる。だから今回は、この2つを分けて考えることにした。
まずは、「世の中の店長が、どのような過程を経て店長になっていくのか」だ。今回の調査では、大仰なアンケートを実施したわけではなく、さまざまなホール関係者に一人ひとり直接話を聞いたものを調査報告としてまとめていく。もちろん、会社によって、規模も店長への昇進制度も異なる。一事例にすぎないが、方向性くらいは見えるだろう。
まず前提として、店長になるために、特別な学歴や国家資格は必要ない。新卒でホール企業に入り、一般社員から役職を上げていく人もいれば、中途採用から店長を目指す人もいる。アルバイトとして働き始め、社員登用を経て店長になった人も珍しくなかった。会社によって道筋は違っていても、店長への入り口そのものは、想像していたより広いことが分かってきた。
実際、今回話を聞いた人の中にも、アルバイトから業界入りし、2つのホール企業でキャリアを重ね店長まで昇進した人物がいる。入社時点は、肩書や学歴、専門知識なども一切なかったが、働き始めてから知識を身につけ、評価を積み上げ、店長となった。それまでの間に、多くの時間的自己犠牲も払ってきた人もいる。
「私が店長になった20年近く前では、結構モーレツな働き方が当たり前でした。公休という名の通常出勤で、年間の休みがまったくなかったこともありました」(某中小ホール店長A)
中小企業は基本的にOJTの中で店長としてのマネジメントスキルを身につけていくケースが多い。ただし、これは会社によって変わるため、役職昇進の際に会計系の資格取得などを求める企業もある。店長になるハードルは上がるが、資格が残るのは働き手にとっても嬉しい。
 
 
メリット
1.日々の働きぶりや人間性など、試験では測れない部分を評価できる。
2.現場での実績や部下からの信頼を、昇格判断に反映しやすい。
3.経営者が適性を認めれば、年齢や経歴にかかわらず抜擢できる。
 
デメリット
1.選抜基準が見えにくく、社員が何を努力すべきか分かりにくい。
2.経営者や上司との相性、好き嫌いが昇格に影響する可能性がある。
3.知識や能力の確認が不十分なまま、店長に登用される場合がある。
 
一方、比較的規模の大きな大手ホール企業では、店長になるための試験が存在する企業もある。人事評価、研修、試験、面接などを経て、店長候補を選抜していく流れだ。日々の勤務実績や半期ごとの評価を積み重ね、一定の基準を満たした人だけが店長試験や昇進の対象になる。つまり、「希望すれば誰でもなれる」という説はここで一旦否定されることに……。
誰をどう選抜するかの内容は、会社によって異なるが、営業数値や法令知識、社内制度に関する知識はもう前提条件として持っているものと見なされ、むしろ、その知識を生かして現状を分析し、立てた仮説に対して戦略を実行していける総合力があるかを判断する企業もある。ここはまさに会社によって分かれるところ。店長になる直前まではすべてOJTで身につけつつ、店長候補になれば、現場から異動し、時間をかけて、店舗経費、機種構成、玉利、店舗オペレーションなど、本格的にマネジメント側にまつわる数値面を学ばせるという会社もある。
 
 
メリット
1.評価基準が明確で、昇格に必要な知識や能力を把握しやすい。
2.研修や試験を通じ、店長に必要な最低限の能力を担保できる。
3.上司個人の好き嫌いに左右されにくく、選抜の公平性を保ちやすい。
 
デメリット
1.試験で高評価を得る能力と、実際に店舗を動かす能力が一致するとは限らない。
2.合格水準に達していても、昇格枠が少なければ店長になれない。
3.会社が求める人物像に評価が寄り、個性的な人材が選ばれにくくなる。
 
いずれにせよ、「試験に合格すれば明日からあなたは店長です」という性質のものではなく、あくまで店長候補者の中での順位を決めていく。評価が上位の者から、店長になるチャンスが巡ってくるのは大手も中小も変わらない。
 
店長になるためのフローは規模で異なる。共通するのは「ポストが空かない問題」
一方、店長の候補となるためには、店長やさらにその上のエリア長・部長などから、「次に店を任せられるのは誰か」の中に選ばれなければならない。日々の仕事そのものが昇進選考につながっている。
営業数値への理解、部下との関係、トラブルへの対応、仕事に向き合う姿勢、勤務などが長い時間をかけて見られ、「この人なら店を任せられる」という評価につながっていく。パチンコホールというのは、時には赤字になることもある珍しい業種だ。店長の匙加減一つで、会社として出し入れするお金が大きく変動する。だからこそ、誠実であることは、店長候補としてもっとも必要な素養である。仕事に前向きで成長意欲もあり、会社へのロイヤリティも高い。このベースの上に、知識や営業スキルが上乗せされる。
ただし、本人が努力し、店長を任せられるだけの評価を得ても、それだけでは越えられない壁もある。「店長ポストが空いていない問題」だ。大手企業では、店長候補として数十人が選抜されるが、実際に昇格できるのは片手程度ということもある。
 
 
 
また、これは大手企業だけの話ではなく、中小企業でも同様のことは起こる。新店の開店や、既存店長の異動、退職などがなければ、新しく店長になることはできない。基準を満たしていても昇格枠が空かなければ、次の機会を待つしかないということに。
かつてホール企業が積極的に新規出店していた時代には、店舗が増えるたびに新しい店長が必要になった。こうなると、会社側も店舗を任せる人材を早く育てる必要があり、若手にも昇進の機会が回ってきたものだが、出店ペースが鈍化した昨今では、一人の店長が同じ職位に長くとどまり、ポストが空きにくい。
だからこそ、業績に応じた評価によって現職の店長が降格したり、役職定年制度を設けて社内の新陳代謝を活性化させる企業もある。十分店長になるための必要な能力が身についていても、会社の出店戦略や人事のタイミングによって、夢にまで見た「店長になる」の時期は、大きく変わってしまうのだ。その点、現代の業況の中で店長になる若い人たちの方が高いハードルを乗り越えている部分もある。かつてはなにも必要なかった資格取得要件が、現代では求められることもあるからだ。
 
 
さて、いかがだろうか。店長に「なる」ということだけなら、一生懸命働いていればいつかはなれる。それほど難しいことではないと考えていた部分もあったが、実態はそう単純な話ではなかった。社内評価を積み重ね、試験や推薦を経て、限られた昇格枠に選ばれることが前提で、そうなるためにはまず自らが店長になりたいと強く望まないとならない。
「誰でもなれる」のではなく、「誰にでも目指す道は開かれているが、実際になれる人は限られている」というのが実態であった。
 
《PART 2》
1日店長なら、誰でもできる。しかし結果を出し続けるのは別問題
まだまだ調査は続く。店を開け、1日の営業を終えるだけなら、店長は誰にでもできるのかもしれない。だが、稼働と粗利を両立させ、立地や規模、外部環境に左右されながらも成果を出し続けるとなれば話は別だ。
さらに、上司を説得して予算を取り、部下や取引先を動かさなければ、考えた施策も形にはならない。数字だけでは見えにくい「できる」の条件を、現役店長への聞き込みから探った。
 
 
店長が「できる」ということは何が達成されれば証明できるのか
ここまで調べて分かったのは、店長は誰にでも目指せる一方、実際に「なれる」人は限られているということだった。しかし、試験や推薦を経て店長の椅子に座ったからといって、その人が店長の仕事が「できる」とは限らない。
では、何をもって「できる店長」と判断すればよいのだろうか。毎日の営業を大きな事故なく回せることか。会社から与えられた予算を達成することか。それとも、競合店より不利な条件から店舗を上向かせることなのか。後半は、この「できる」の正体を探っていく。
聞き込みの中で、まず共通して挙がったのは、「会社から求められた成果を出すこと」だった。店舗ごとに課せられた売上や粗利、稼働などの目標に対し、予め決められた予算の中で営業を組み立て、達成へ近づけていく。店長は店舗の責任者である以上、結果に対する責任から逃れることはできない。ただ店を開け、決められた業務をこなしているだけでは、「店長をやっている」とはいえても、「店長の仕事ができている」と評価されるとは限らない。
 
 
 
問題は、その「結果」を何で測るかだ。例えば、稼働を高めることだけを目標にするなら、前年より利益率を下げ、薄利多売の営業にすれば客数は増えやすい。しかし、稼働が110%になったとしても、会社に残る利益が減っていれば、手放しで成功とはいえない。
反対に、粗利を多く残そうとすれば、それだけお客さまにとって厳しい営業になる。短期的には予算を達成できても、現在の信頼残高を削り続けた結果、数年後には立て直せないほど客数を失っていることにもなりかねない。稼働と粗利だけで店長の仕事は評価できないのだ。
前年との比較については、遊技機市場の盛衰や規則改正、競合店の出店、景気などの外部環境に大きく左右される。例えば、コロナ禍で落ち込んだ時期と比べて稼働が110%に伸びたとしても、それが店長の営業による成果なのか、市場全体の回復によるものなのかは切り分けなければならない。売上、粗利、稼働、昨対比。いずれも重要な数字ではあるが、一つの数字だけを取り出して「この店長はできる」と判断することは難しい。
業績は店長一人の力では決まらない総合コミュニケーション能力
店舗の業績を分解すると、大きく三つの力が影響している。一つ目は、営業判断や組織運営といった「店長の実力」。二つ目は、立地、店舗規模、設備投資などの「会社の力」。そして三つ目が、遊技機市場や景気、規則改正、競合店の動向といった「外部環境」だ。どれほど優秀な店長でも、店舗の立地や台数規模をすぐに変えることはできない。反対に、会社の投資によって強い立地に大型店を構えれば、店長個人の営業力とは別に、大きな集客を得られる場合もある。
 
 
 
今回の調査の中では、「立地と規模で負けていれば、何をしても勝てない」という声もあった。つまり、店長が任される店舗の条件は平等ではないということだ。圧倒的な台数を持つ地域一番店を任される人もいれば、競合より小さく、十分な投資を受けにくい店舗を任される人もいる。どの店舗を担当するかによって、最初から達成できる数字の幅は変わる。とはいえ、好条件店舗なら相応の成績を求められることにもなるわけだが……。
この問いに対し、ある店長は「1日だけなら誰でもできますよ」と答えた。すでに営業方針が決まり、役職者や部下の支えがある店舗なら、店長本人の能力が足りなくても、その日の営業を終えることはできるという。別の店長からも、「周囲がサポートすることで、何とかなってしまう仕事ではある」という話も出た。だが、それを明日も、来月も、来年も続けられるかは別。偶然ではなく、求められた成果を出し続ける。店長の「できる」は、1日の営業ではなく、時間の長さによって試される。
 
 
 
ここで気になるのは、中小店で店長になるパターンだ。基本OJTで育ち、店長になる直前にマネジメント知識を詰め込む。情報は詰め込んだものの、実際に現場に出てみると「聞いていた話とは違う」ということにもなる。
あるOJTが基本の企業の店長は、「結果が出るかどうかは別として、ボコボコになりながらでも、店長はできますよ(笑)」と表現した。
うまく判断できなくても、部下や上司、取引先に助けられながら店舗は動いていく。店長が一つ判断を誤ったからといって、その瞬間に営業が止まるわけではない。だから外から見れば、誰が店長でも同じように店が回っているように見える。
そもそも、一般のユーザーが想像する店長の仕事と、実際の仕事にはズレがある。店長が自ら設定を入れ、広告宣伝を決め、すべての営業を一人で動かしているわけではない。まずは、営業方針を立て、その実現に必要な予算を確保し、部下に方針を伝えて店舗全体を動かしてもらう。店長の仕事はさまざまなレイヤーに分かれている。
例えば、広告宣伝を強化したい、新しい施策を打ちたいと考えても、店長の判断だけで無限にお金が使えるわけではない。なぜその施策が必要で、いくらかかり、どのような効果が見込めるのか。店長は自分がつくりたい店の姿を、数値とともに上司や本部へ説明し、予算を引き出さなければならない。本部の方針と自分方針が異なることもある。良い営業のアイデアを持っているだけでは足りず、それを会社に認めさせ、実行できる状態まで店内をオーガナイズさせることも店長の仕事なのだ。
そのため店長には、上司と部下の双方に対する説得力が求められる。上からは業績や予算の達成を迫られ、下からは現場の不満や要望が上がってくる。その間に立ち、自分で判断し、結果に対する責任を引き受けなければならない。時として、横のつながりで同僚の店長に意見を求めたりすることも必要だし、外部の業者とやり取りをして、アウトソーシングによって営業力を大きく見せるために円滑なコミュニケーションを図らなくてはならない。
ある店長は、「パチ屋の店長は究極の中間管理職ですよ(笑)」と自嘲も含めて表現した。どんな職種であっても必要不可欠なスキルはあるが、パチンコホールの店長として高い業績を狙っていくならば、一人の力では達成することは難しく、やはり高次元のコミュニケーション能力が求められることになるようだ。
店長, パチンコホール店長