「守りの対策」から「攻めのRG」へ ── 依存対策へ向けた パチンコ業界の〝新基準〟

2026.03.10

政府基本計画の改訂が迫る「質」の変化

まず直視すべき現実は、政府の「ギャンブル等依存症対策推進基本計画」の改訂に伴う空気の変化だ。これまでの対策は、どちらかといえば「射幸性の抑制」や「広告宣伝の自主規制」といった〝供給側の抑制〟に主眼が置かれてきた。

業界側も自己申告・家族申告プログラムの導入やATM等の撤去など、物理的な環境整備でこれに応えてきた実績がある。 しかし、改訂を重ねるごとに求められるハードルは、「形式的な導入」から「実効性のある運用」へと明らかにシフトしている。

単にポスターを貼る、申告プログラムを用意するだけでは不十分であり、顔認証システムやマイナンバーカード活用を含めた、より確実な本人確認やアクセス制限の議論も避けては通れない状況になりつつある。次回の改訂予定となる2028年に向け、パチンコ業界は「なんとなく対策している」というポーズではなく、データに基づいた具体的な成果と実効性が求められる。

2030年大阪IRという「黒船」の衝撃

この変化を決定づけるのが、2030年秋頃の開業を目指す大阪IRの存在である。

これはギャンブルやゲーミング産業全体に対する社会の視線が、かつてないほど厳しさを増すことを意味する。

カジノを含むIRは、国による厳格な管理下で運営される。その存在が公になることで、「ギャンブルとは本来、これほど厳重に管理されるべきものなのか」という認識が世論に浸透していくだろう。つまり、依存対策や公正性に対する社会の「基準値」が一気に引き上げられるのだ。 

これまで通りの対策を続けていても、世論の目線が高くなれば、相対的に「不十分」と判断されるリスクがある。「ウチの業界も充分やっている」という自己満足的な広報だけで、社会の厳しい監視から免れることは難しい。

むしろ、IR開業によって依存問題への関心が高まる中で、パチンコ業界がこれまで以上に高度な安心・安全を示せなければ、「旧態依然とした産業」として批判の矢面に立たされかねない。2030年は、業界がその真価を社会に証明できるかどうかの、大きな分岐点となる。

「依存対策」から「RG」への大転換点

こうした外圧を前に、業界に必要なのは発想の転換だ。

すなわち、従来の「依存対策」から、世界標準の「RG(Responsible Gaming/責任ある遊技)」への大転換である。 言葉の綾ではない。「依存対策」とは、問題が発生した後の対処や、発生させないための禁止事項といった「マイナスをゼロにする」ための守りの活動だ。

対して「RG」は、プレイヤーが安全に楽しみ続けられる環境を積極的に提供し、適正な遊び方を啓蒙する「ゼロをプラスにする」ための攻めの活動である。

これからのホール経営において、RGはコストではなく、ESG(環境・社会・ガバナンス)経営の中核をなす「商品価値」そのものとなるし、IRにはない「身近なコミュニティー」としての優位性になる。

RSNが「生き直す」支援へと進化したように、我々も変わらなければならない。自己申告プログラムを「入れさせられている仕組み」から「顧客を守るサービス」へ。依存問題を「隠すべき恥部」として扱うのではなく、真正面から向き合い、解決策を提示できる産業へと脱皮すること。それこそが、政府の要請に応え、大阪IRという黒船と共存し、次世代にパチンコを残すための唯一の道筋である。

 

⚫️インタビュー

RSN新代表・稲村厚氏が描く、依存対策の〝第2世代〟

「治す」より「生き直す」支援へ

ギャンブル依存問題は決済のデジタル化、オンライン化、そしてIRを含む環境変化の中で、依存はより多様化し見えにくい形へと移行している。RSN代表理事に就任した稲村厚氏は、「治す」支援から「生き直す」支援への転換を掲げ、依存対策の次なる段階を見据える。

2026年1月1日、RSNの代表理事に就任。ギャンブル依存問題の支援を専門とする司法書士。司法書士法人燈(あかり)代表。

PiDEA編集部(以下、編) RSN代表理事への就任を、どのように受け止めましたか。また、このタイミングでの交代には、どのような意味があると考えていますか。

稲村氏(以下、稲) 正直に言えば、驚きはありませんでした。RSNとは設立当初から関わりがあり、依存症回復施設「ワンデーポート」の理事長として、長年、面談相談や債務整理の現場にも立ってきました。この組織は、そろそろ次の段階に進む時期だと感じていたからです。設立から20年以上が経ち、精神科医である西村直之前代表のもとで、RSNは業界内外から信頼される相談機関へと成長しました。一方で、現場には経験を積んだ相談員が育ち、代表が常に前面に立たなくても組織が回る体制が整ってきた。そうなったときが、世代交代のタイミングだと思っています。

 西村前代表が築いてきたRSNを、どのように引き継ぎ、どこを変えていこうと考えていますか。

 引き継ぐべきものは、間違いなく「現場の力」です。20年以上にわたって積み重ねてきた相談実績と、固定された専門相談員による対応の質は、RSN最大の財産です。一方で変えていくべきなのは、「代表が前に出続ける組織」から、「仕組みで動く組織」への転換です。前代表が語った「新しい風を思い切り入れられるところまで育てた」という言葉は、まさにその象徴だと思っています。

 業界内には「依存問題は一定の区切りがついたのでは」という見方もあります。この認識をどう見ていますか。

 私は、依存問題は決して終わっていないと考えています。終わったのではなく、形を変えて、むしろ見えにくくなっている。近年目立つのは、学生を含む若年層からの相談です。「ギャンブル依存症」という言葉が社会に浸透したことで、「もしかしたら自分も」と不安を感じ、本人が直接電話をかけてくるケースが増えています。

 近年の相談内容や相談者層には、どのような変化がありますか。

 大きな変化は、ギャンブル環境と決済手段の変化です。スマートフォン一つで公営競技の投票ができ、クレジットカードや後払い決済を使えば、現金がなくても遊べてしまう。パチンコを入り口にオンライン投票へ流れ、短期間で借金が膨らんでしまうケースも少なくありません。依存問題は、もはや店舗内だけで完結するものではなくなっています。

 2026年に向けて、ギャンブル環境はさらに大きく変化します。大阪IRの進展、公営競技のカード利用制限、Webコインなどの動きを、依存問題の観点からどのように見ていますか。

 2026年は、依存対策にとって一つの「再焦点化」の年になると考えます。理由は単純で、ギャンブルの形が、これまで以上に分散し、不可視化していくからです。大阪IRは象徴的な存在です。IRそのものが問題なのではありませんが、「ギャンブルが日常空間に溶け込む」ことで、境界線があいまいになるリスクは確実に高まります。観光や娯楽の一部として提供される中で、「自分はギャンブルをしている」という自覚を持ちにくくなる。これは依存の初期段階を見逃しやすくする要因になります。また、クレジットカード利用制限や現金規制が進む一方で、Webコインや後払い決済など、新しい抜け道のような仕組みも次々に生まれています。規制が強まるほど、依存は「裏側」に回り、見えにくくなる傾向がある。これが、今最も警戒している点です。特に懸念しているのは、「借金をしている自覚がないまま、問題が進行するケース」です。Web上の決済は痛みを感じにくく、金銭感覚が麻痺しやすい。気づいたときには、本人も家族も状況を把握できていない―そうした相談が、今後さらに増えると見ています。だからこそ、依存問題は「過去の課題」ではありません。環境が変わるたびに、形を変えて繰り返し現れる、現代型の社会問題だと捉えています。

 精神科医から司法書士へ。代表交代によって、RSNの支援の考え方はどう変わりますか。

 医療につなぐことは、もちろん重要な選択肢です。ただ、すべてを「病気」として扱うことには、以前から違和感がありました。特に若い人の相談には、人生のつまずきや金銭感覚の未熟さが大きいケースも多い。数カ月、半年程度の問題を、過度に深刻化させる必要はありません。

「治す」ことに必死になるより、「どう生きるか」を一緒に考える。生活リズムを整え、金銭管理を見直し、日常を立て直す―そうした「生活再建型」の支援を重視しています。

 RSNの相談の約9割が本人からだそうですね。その強みをどう捉えていますか。

 これはRSNの大きな特徴です。行政の相談窓口では、どうしても家族からの相談が多くなります。一方で、RSNは業界の窓口である分、本人にとって敷居が低い。家族に連れられてではなく、自分の意思で電話をかけてくる。この「早さ」が、問題の深刻化を防いでいます。相談対応は外注ではなく、固定された専門相談員が担い、毎週の定例会でケースを共有しています。人が育ってきたからこそ、次の世代に進めるのです。

 今後、RSNとして取り組みたいことは何でしょうか。

 一つは、相談体制のシステム化です。AIを活用した新しい相談システムを導入し、データ分析や時間外対応の強化を進めていきたい。もう一つは、業界へのフィードバックです。現場で見えている変化を、しっかり業界に返していくことも、RSNの役割だと思っています。

 依存問題解決において、ホールにはどのような役割を期待していますか。

 ポスターを貼るだけでは、正直足りません。迷っている人の背中を、そっと押してあげてほしい。安心安全アドバイザーや現場スタッフが、「一度RSNに電話してみませんか」と声をかける―それだけで救われる人がいます。さらに、スタッフ自身が「どう対応すべきか」をRSNに相談することも大切です。依存対策はコストではありません。安心・安全な娯楽産業として社会に認められるための、未来への投資です。

 最後に、依存問題に悩む当事者や家族へメッセージをお願いします。

 深刻になりすぎないでほしい、というのは、今も変わりません。ただしそれは、「問題を軽く見ていい」という意味ではありません。コンプライアンスが厳しくなり、効率や正しさが求められる現代社会では、人は知らず知らずのうちに息苦しさを抱えています。だからこそ、「遊び」や「息抜き」の重要性は、むしろ高まっている。パチンコをはじめとする娯楽は、本来、人の心を癒し、明日への活力を生む存在であってほしい。そのためには、依存問題から目をそらさず、健全に発展させていく覚悟が不可欠です。RSNは、依存と闘うための場所ではありません。人生につまずいたときに、立ち止まり、立て直すための「入口」です。失ったお金を急いで取り戻そうとしなくていい。時間をかけて、生き方を整え直していけばいい。依存対策とは、誰かを排除することではなく、人が安心して遊び、安心して立ち帰れる社会をつくることだと思っています。

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