サブスクの時代に「最高益」を更新! タワレコV字回復戦略をホールに生かす3箇条
2025.12.23 / その他かつて流行の中心地だった「CDショップ」の零落が止まらない。そもそも90年代の音楽バブルの終焉が響いていることもあるが、近年はサブスクリプションサービスの影響もあり、最盛期から比べると3分の1以下の規模という絵に描いたような斜陽産業になってしまっている。しかしそんな中でも近年「タワーレコード」の売上のV字回復が話題となっている。果たしてタワレコはどのようにしてサブスクを倒し「過去最高益」を達成したのだろうか。
サブスクがすべてのエンタメを食い尽くす時代
エンタメ系のビジネスでここ10年の間に起きた激変といえば、サブスクリプション(定額)サービスの急速な普及だ。今や映像作品やゲーム、書籍類や食材までもがサブスクリプションで利用されるようになり、それぞれの実店舗は徐々に存在感を失いつつある。
特にコロナ禍中は「Netflix」「Amazonプライムビデオ」などの映像サブスクリプションサービスが巣ごもり需要とベストマッチする形で急激に契約数を伸ばした。
2020年には「愛の不時着」「梨泰院クラス」の二大韓流ドラマ。そしてNetflixオリジナルコンテンツとして蘇った「テラスハウス」が大ヒット。翌年には「全裸監督」「イカゲーム」そして「浅草キッド」がブームとなったのは記憶に新しい。
多くの人々はこれで「サブスク」の便利さと楽しさを知り、月額利用料への心理的な抵抗感の壁を乗り越えた。自宅のテレビで簡単にいつでも話題の映像作品を見ることができるとなれば、わざわざ実店舗まで行って利用する意味が薄くなる。
したがってサブスク台頭の影響を最も強く受けたのは「レンタルビデオ店」と言われており、これをメインの商材に据えていた「TSUTAYA」はよく引き合いに出される。
実際、2013年に約1440店舗あったTSUTAYAの営業店舗数は、2025年現在は約800店舗程度にまで落ち込んでいる。今後は既存店舗を徐々に株式会社テイツーと協業で運営する「ふるいちトップブックス」に置き換え、古書販売やトレカ事業に注力していくようだ。そう、我々が知る「最新のエンタメの中心地」であった「TSUTAYA」の姿は、事実上なくなりつつあるのだ。これは既存店舗がサブスクリプションサービスに食われた典型だろう。
CD市場の崩壊とタワレコの苦境
そしてレンタルサービスに次いでサブスク流行の直撃を受けたと言われるのが「CD販売店」である。月に数万円分のCDを買うのが当たり前の青春時代を過ごしてきた世代の店長たちにとっては寂しい限りの話だろうが、現在日本国内においてCD販売を主とする店舗は絶滅の危機に瀕しており、それはCD販売界の雄である「タワーレコード」にとっても逃れられない道だと見られていた。
音楽系のサブスクといえばかつてはスウェーデン発の「Spotify」が一強の状態だった。が、2015年以降はAppleやAmazon、GoogleといったITの巨人が次々と参入。ほぼ横並びのサービスを安価に提供している。どのサブスクも現在は登録楽曲数一億曲超えをうたっており、どれかに入ってさえいれば世界中のどんな楽曲もほぼ聴き放題で聴きたいときに聴ける。
このような状況において、国内のCDの売上数は激減。90年代の音楽市場がバブル状態だったことを除いても、2015年のサブスクサービスの勃興以降は物理メディアの販売数が激減している。特に象徴的なのは2020年のBillboard JAPANのランキングの年間首位を「YOASOBI」の「夜に駆ける」が獲得したという出来事だった。 Billboardランキングはオリコンと違いCDの販売数のみを集計するのではなく、サブスクのストリーミングの再生数、動画生数なども加味したポイント制となっている。
「夜に駆ける」は史上初めてCDをリリースせずに首位に輝いた曲であり、もはや円盤のリリース自体が流行にほぼ影響を与えていないことが数字として証明されてしまった瞬間だった。
誰も想像していなかった「タワレコ」の復活
このような状況下においてCD販売を主体とするビジネスが回るわけがなく「タワーレコード」もまた2021年に約18億円の赤字を計上。さらに続く22年も約9億円の赤字となった。
しかし「タワレコはこのまま沈んでいくものだ」と誰もが確信していた中、予想を裏切る結果が訪れた。官報によるとコロナ禍末期の2023年期のタワレコの純利益はあっさり黒字化。脱コロナが明確になった2024年期は約18億8300万円の黒字と21年期の大赤字からV字回復する過去最高益を達成した。この誰も予想していなかった復活劇はセンセーショナルに報じられ、多くの経済紙などで特集が組まれることになったのだった。
タワレコに学ぶ「サブスクの倒し方」
サブスクを向こうに回すという意味で、パチンコ産業もまた対岸の火事ではない。
CD業界と同じく、有限の「余暇」を奪い合う相手としてサブスクは無視できない強大な敵であり、事実、遊技人口の減少のいくらかはサブスクの影響を受けてのことかもしれない。そういう意味ではよりクリティカルな影響を受けたはずのタワレコは、どのようにしてサブスクに勝ったのだろうか。幾度となく組まれた各経済系メディアの特集記事を要約するに、そこにあったのは3つのポイントだった。
まず1つ目が「推し活との融合」だ。
タワレコはスタッフそれぞれに「好きなアーティスト」「推したいアーティスト」がおり、彼らが独自にそれを応援する形で売り場づくりを行ったり、あるいは実際にアーティストを呼んでイベントを行ったり、あるいはライブツアーに帯同してグッズ販売を行ったりしている。
つまりファンと一緒になってアーティストを応援することで支持を集め、「◯◯を推すならタワレコの◯◯店」といった空気を醸成し、彼ら相手に売上を作る。事実タワレコは古来より多くのアーティストの聖地として崇められている店舗が多数ある。 これはコロナ禍明けのライブ解禁とともに訪れた「推し活ブーム」の空気感と上手くマッチしており、2023年以降の売上急増の原動力となっている。
マニアと一般をつなぐ〝第二の戦略〟
V字回復のポイント2つ目が「マスコア戦略」。
これは「マス(一般)」と「コア(マニア)」のどちらか一方のみをケアするのではなく両方をしっかりと見据えた戦略をとっていくということ。やり方は色々だがタワレコの場合、まずは熱意を持って売り場を作ることでマニア層の支持を集め、それを一般に広げていくという方法を取ったという。つまりマニア向けの商売にありがちなクローズドな空気を廃しマス層にコアの熱を伝え、一緒になって「推していく」のだ。
ではどのようにコアの熱をマスに伝えるかというと、これが「SNS」だった。今の時代はみんながやっていて当たり前の情報ツールであるSNSはビジネスにおいて有益な広報ツールになる。その一方、運用を間違えると排他的で身内のノリのみがどんどん肥大していく「逆PR」のようにもなりかねない。これを避け「マスコア戦略」につなげるには運用者が自覚を持って新規を呼び込むための適切な管理を行わなければならない。
これが成功したからこそ、タワレコはマニアも一般層も一緒になってアーティストを推す場所として認知されている。だからこそ、最新音源がサブスクで簡単に聴ける時代にもファンがこぞって「推し活」として実店舗へ足を運ぶのである。
そしてポイントの3つ目。それが「インバウンド」だった。
タワレコは現在店内の案内を4カ国語にするなど多言語化を徹底。外国人向けのクーポンを活用するなどして「訪日中にJAPANPOPを買うならココ」をという印象付けることに成功した。結果、なんと売上の7割が外国人のお客さまという店舗もあるとのことで、これもまたコロナ後の日本観光ブームに上手く乗れた形になっている。
推し活の場としての機能、マスコア戦略の徹底。そしてインバウンドでの増客。タワレコ流の「サブスクリプションの倒し方」はシンプルに言えばこうだったのだ。
パチンコホールで生かすための3箇条
こうして見ると、タワレコが取った対サブスクの考え方はほぼそのままパチンコホールにも生かせる。特に「マスコア戦略」は多くのホールにとって学ぶべきものだろう。「遊技人口の増加」、特に「若い新規顧客の誘引」は業界にとって長らく悲願だが、ずっと達成できないまま今の時代を迎えている。
ダイナムのように「遊びやすさ」を全面に押し出したPB機に力を入れるなどしてそれを実現しようとする例もあるにはあるが、多くのホールにとって広告とは「コア層」への訴求のことであり、短絡的な出玉のアピールに終始してしまっている。これはタワレコがコア層を「マスに向けて熱意を伝えるための起爆剤」と考えているのに対し、我らはコア層からいかに売上を作るかを前提に考えてしまっていることから生まれる行き違いだろう。
朝から何千人も並ぶような演者を呼ぶこと自体がマス向けの広報になっているという考え方もあるだろうが、実はその何千人はすべてコア層であり、マス向けには何も響いていないのかもしれない。
「推し活」についてはやや難しい部分があるが、タワレコが売り場を「ファンとアーティストがつながる場」と捉えている思想については上手く生かすことができるのではないか。要はただモノを得る場所としてではなく、遊びに行くことそのものに意味を見出せるような売り場づくりが世に受けているのなら、例えばパチンコホールも「台」や「メーカー」にフォーカスする、あるいは声優やスター開発者などのコンセプトを押し出し、よりテーマに沿ったフロア作りを行うことで「◯◯を推すなら◯◯店」のような空気は作れるかもしれない。
実際、「アイランド秋葉原店」のように遊びに行くことそのものが特定機種の推し活になっている例もすでに存在する。言わずもがな、これはアニメ版権などと上手く結びつけることができれば、マス向けの施策にもつながるハズだ。
「台」や「メーカー」にフォーカスし、「◯◯を推すなら◯◯店」を狙ったコーナー作りをするホールは少なくない。
インバウンド対応がもたらす新たな追い風
そして、最後の「インバウンド対応」はすでに進めているホールも多い。が、これには地域差がある(そもそも外国人観光客の数に大きな格差がある)上に、外語対応可の人材の確保という大きな問題があるので難しいとされてきた。
が、今はAIの発達により外語のフォローが驚くほど簡単になってきている。ドラえもんの「ほんやくコンニャク」よろしく喋った言葉をリアルタイムで互いの言語に翻訳してくれるガジェットまでもすでに登場し比較的安価に使えるようになっている。
加えて、外語対応を進めているホールの先行事例もあることからノウハウも集積しつつある。あとは横との連携で共有できる仕組みさえあれば業界のインバウンド対応は加速度的に進む可能性がある。これは法人の垣根を超えた連携が必須なため都道府県遊協単位での舵取りがあると望ましいのだが、九州北部などインバウンド客が多い一部エリアなどは自然と足並みがそろっており一気に対応が進みつつある。そう遠くない未来、タワレコのように「7割がインバウンド客」の店舗が現れる日が来るかもしれない。
余暇産業にとって各種「サブスク」は今までになかった最強に近い競合相手だ。簡単に利用でき、圧倒的量のエンタメが、極めて安価に手に入る。パチンコ業界にとってもこれは決して無視できない敵であり、いつかは倒さねばならない相手だ。すでにそれに打ち勝ったタワレコの動向は、各店長それぞれが注視しつつ、学べる部分は学び取っていこう。
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