キング観光とガルフィー、異例のコラボの先に見ていたもの

2025.09.20 / ホール

キング観光がアパレルブランド「GALFY(ガルフィー)」とのコラボグッズを制作、出玉と交換可能な景品としてグループ店での提供を開始した。かつてヤンキー御用達ブランドと言われたほど、濃いイメージを持っていたガルフィーをコラボ相手として選ぶに至った経緯とは。キング観光がどのような狙いをもってファッションとの融合を図ったのか取材をした。


なぜ「ガルフィー」だったのか
企画背景と狙いを聞く

ガルフィーといえば90年代に流行したファッションブランドだ。骨を咥えたアメコミ風の犬のキャラにピンと来る方も多いかも知れない。当時のストリートファッションの中でも、特に「トッポい」層を中心に人気を博しており、やがてそれが「アウトロー(ヤンキー)御用達」のイメージになっていったのは御存知の通り。

そんなガルフィーが今、若者たちの間でも密かにブームになっているのをご存知だろうか。その人気は2000年代に入り一時失速するも、2017年には現代のトレンドを取り入れ、よりカジュアルな方向にリブランドした。最近は新生ガルフィーとして若い女子層にまで支持されはじめているのだ。 

そんな「ガルフィー」とコラボグッズの開発を発表したのがキング観光だ。7月にはサウザンド伊勢店限定で販売を開始し、その後に取り扱い店舗を拡大しながらオリジナル景品として展開している。

コラボ先の意外性も含め、ユーザーからの評判も上々だ。キング観光はなぜ今回「ガルフィー」とのコラボグッズ制作を行うことにしたのか。これには同社副社長・ジェームス柳橋氏の考えが影響している。ジェームス柳橋氏は今回のコラボについてこう語る。

「コラボ単体で直接的にお客さまを呼ぼうという考えはなく、もっと長い目で見たキング観光の認知度や好感度の向上を主目的にしている」と。自社のブランディングという枠を超えて、パチンコ業の「イメージ改善」まで視野に含められているように感じる。

となると気になるのは、何のためにはコラボが必要だったのかという点だ。先ほど語られた目的から逆算して考えてみる。

まず1つ目に必要なのがパチンコ業界に「かっこよさ」や「おしゃれさ」を取り入れることだった。今業界の主要な顧客層になっているのが、パチスロをメインで打っている人たち。特に若い客層にとって、ファッションを含めた自己表現は重要なウェイトを占める。オジサン世代が思う以上に、ダサい店、おしゃれじゃない人が多い店では遊びたくないと思っているユーザーは多いと見たのであろう。さらに最近は、SNSなどの発展に押されパチンコ業界にも若い女性客が増えてきつつある。それに対応するには、イメージの刷新が重要になる。

そしてもう一点、パチンコ店も最近は競争が激化し、真面目な店長や経営者しか生き残れなくなっているが、忘れてはならないのは我々がアミューズメント産業に従事しているということだ。お客さまに心から楽しんでもらうには、運営する側も「かっこよさ」や「おしゃれさ」そして「遊び心」を持たなくてはいけない。遊び心を持たない店長に、面白い店舗運営などできないと氏は考えているという。

「渋谷にあるガルフィーのショールームに視察に行くと、そこにブランドを紹介するためにいろいろなインフルエンサーの方々が来ていて、皆さんものすごく個性的で圧倒されました。『やっぱりガルフィーはそういう尖った人に刺さるんだなぁ』ということをその時に感じ、それがキング観光が目指す所に合致しており、コラボさせていただこうと決めました」(ジェームス柳橋氏)

氏の求める要素に、ガルフィーというブランドがもつイメージが見事にハマった。


実施のプロセスと橋渡しの役割

ガルフィーとキング観光を橋渡ししたのはデジタルファッション事業を展開する株式会社「Eight88」の川越祐介氏だった。デジタルファッションというのは、メタバースなどのデジタル空間で再現されたファッションのこと。アバターに現実世界のファッションをまとわせることで、ユーザーのおしゃれをしたいという欲求から、ブランド側のプロモーションまでを一貫して行うことができる新時代のアパレル業態だ。一見すると遊技産業とはつながりがない事業だが、川越氏自身がパチンコ・パチスロファンであることもあり、以前からファッションとパチンコ業界と結びつけることができないかその方法を模索していた。 

今回のコラボの仕掛け人でもある株式会社「Eight88」の川越祐介氏。こうしたコラボの案件は今後も良い縁があれば狙っていくとのこと

そして行き着いたのが「遊技業界のプロモーションはXを中心に回っているのではないか」という仮説だった。そこから調査を進めるうち、SNSの活用巧者の法人としてキング観光に着目。とある店舗の店長にSNSのDMにて営業の連絡をしたところ話はすぐに発展していき、やがては副社長であるジェームス柳橋氏までたどり着いた。そしてその時、川越氏が提案したコラボ先は、ガルフィーではないブランドだった。

実は川越氏がキング観光に提案したファッションブランドとのコラボはガルフィーが2社目。その前にはとある米国のファッションブランドとのコラボ企画を進めていた。が、その時には相手方からNGの回答が来たという。詳細の理由は定かではないが、やはり米国のブランドということもあり、ギャンブル業態として厳しい目で見られたのではないかというのが川越氏の見立てだった。

ともあれ、その次に持ち込んだのはガルフィーとのコラボだった。実は川越氏からすると、そのガルフィーこそがパチンコ業界との親和性が非常に高い本命のコラボ先だったという。 

ガルフィーブランドのTシャツは、1万円を超えるものもあることを考えるとお買い得感もある上代設定になっている。川越氏のオススメはソックスとノートPCケース。

「最初の提案がダメだったら次のガルフィーで決める、というのは自分の中にありました。昔のイメージですが少し怖いお兄さんたちが、ガルフィーのシャカシャカのセットアップを着て、クラッチバッグを持ってパチンコ屋さんに並んでいる。そんなイメージが、自分の中で『カッコいいもの』として残っていて、今メインになっているパチンコ業界の顧客層との親和性が高いですよね。さらに言うと、ガルフィーは今のトレンドにあわせ色味を変えて再燃し、若い層に向けてどんどん浸透していっています。その新しい色とキング観光さんの色の相性は、もう絶対的に良いという確信があったんです。そこでジェームス柳橋さんにコラボを提案したのですが、最初、ジェームスさんはガルフィーのことをよくご存知ありませんでした」(川越氏)

知らないのならば調べるしかない。まずジェームス柳橋氏は社内でガルフィーのイメージ調査を行った。すると、キング観光のベテラン社員の中には、若い時分にガルフィーを愛用していた人も多く、川越氏の説明通りパチンコ業界とガルフィーの親和性が取れているのが分かった。さらにキング観光のホールに来店取材でやってきた女子演者が、たまたまガルフィーの服を着ているのを見かけ話を聞いた所、「いまは若い女性の間でもガルフィーが再び流行している」という話を聞くことができた。年齢層が高めなパチンコファンには認知があり、若者にはおしゃれブランドとして愛好されている。川越氏の勧めで渋谷のガルフィーショールームを訪ねてみると、そこにいた多くがインフルエンサーとして活躍するような人たちだったという。

ガルフィーというブランドは、ジェームス柳橋氏の求める要素をすべて兼ね備えていた。こうして動き始めたコラボグッズ制作プロジェクトでは、全体のプロデュースを川越氏が担当。製品のデザインも川越氏が主導した。グラフィック制作などはガルフィーが行い、モデルの手配などのプロモーションはキング観光が担当することになった。


ユーザーの反応と評価

コラボのメインビジュアルにはジェームス柳橋氏やしまんくす氏に加えて、「ガタイが良く似合っていた」という理由で一般社員も参加。バランスを取るようにキレイどころにはよく来店している演者も活用し、キング観光のカラーを全面に押し出した。 

しかし、陳列スペースのディスプレイについてはプロデューサーの川越氏が苦言を呈すこともあったという。もともと伊勢店限定の景品として発表されたコラボグッズのディスプレイは、伊勢店では当然のようにしっかり作り込まれていた。

しかしこれが話題となり他店でもとなったとき、やはりディスプレイが雑になってしまったのだ。なにせ陳列する担当はパチンコホールの従業員や店長で、決してファッション業界の人間ではない。ファッションを魅力的に見せるノウハウがないのだ。

したがって現場の店長たちはディスプレイのやり方を1から学び、弱い所を補強するようセンスを磨いた。その結果、実際の服のデキの良さもありユーザーから上々の評価を得ることができたという。

もとよりこれは短絡的な売上アップを目的にしたり、これ単体でお客さまを呼ぶといった目的のコラボではなかった。それよりもっと長期的なキング観光のブランドイメージや、さらに言うと「パチンコ業界」自体の印象改善のために行なったことであり、これがすぐに爆発的な人気になるとは考えていなかった。
が、実際にやってみるとSNS上ではすぐに「ほしい」「どこで手に入るの」といった好意的な声が多く寄せられ、インプレッション数も予想外に伸びたそうだ。

さらに、見逃せない副次効果もあった。社員の士気の向上である。

実は一連の流れでガルフィーコラボの制服も作ったのだが、これを店長や社員たちがいたく気に入り、グランドオープンなどでは幹部まで着用して視察・応援に訪れるようになったという。

「地域によって差はあるかもしれませんが、昔はグランドオープンなどでは他店の応援スタッフなども含めてハッピを着てみんなで『頑張るぞ!』と盛り上がったりしてましたよね。それがもっとおしゃれな若者ウケするようなものを着て一緒に頑張ると、みんな笑顔で頑張ってくれていました。やっぱり、制服だとはいえおしゃれな服を着れば気分が上がるんですよね」(ジェームス柳橋氏)

初めての試みに反省点もあったが、プロジェクトはユーザーからの好意的な反応と社内の士気向上という2つの成果を早々挙げた。


今後の展望と“その先”

キング観光が見据える今回のコラボのゴールは、やはり企業イメージの向上だ。次の一手としては何が考えられるか尋ねると、ファッションアイテム以外にもユニフォーム制作なども視野に入れているという。
「どんどん真似していただいて、業界全体に広がっていってほしい。それで業界全体のイメージがアップして遊技人口増加に寄与できるのならば、こんなに嬉しいことはない」(ジェームス柳橋氏)

また、自社の取り組みとしてもガルフィーに続くコラボ企画を、数年に一度のペースでやっていきたいとの考えを述べた。

話題性をつくれたという点で、ファッションの異業種コラボは「ある程度は成功」と謙遜を交えて答えた上で、「次はラーメンなどの飲食店とのコラボも面白いかもしれない」と冗談か本気か、どちらとも取れる表情で例を挙げた。こういうアイデアを冗談で終わらせないのがキング観光のバイタリティーの高いところだ。もしかしたらそう遠くない未来、どこか有名なチェーン店で「キング観光ラーメン」が食べられる日が、来るかもしれない。 

しまんくす氏もジェームス柳橋氏もインフルエンサーとして活躍している。自社の商品の宣伝モデルを、社員や経営幹部が務めてしまうというのは現代を象徴する事例だ。

 

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