店長ならば打たない方が良い!
東海圏を代表する企業の1つ、キング観光の広告塔となっているしまんくす氏。しかしそれはかりそめの姿であり、本職はバリバリのデータ分析派営業部長。そのため、日々の営業はすべてデータ分析に裏打ちされたものであり、本企画の趣旨を真っ向から否定する「店長ならば打たない方がいい」派だ!
「打たないとか言うとまた反感買うだろうなぁ」
都内某所。ある撮影のために上京していたしまんくす氏に緊急でアポを取り取材を決めた。
2021年7月に特集を組んだ「店長ならば打て」の企画に対し、Twitter上で「自分はそうは思わない」と真っ向否定をした数少ない人物の1人であった。
TLに流れてきた、設定を触ってる人はスロットを打つべき…について
— しまんくす@現役の設定師 (@shimankusu) January 9, 2024
2年くらい前にもつぶやいてるんですが
これは賛否分かれると思いますが
打った方が設定を考えられるという人もいるかと思いますが
『私は設定を考えるプロとしてほぼ打たないです。』…
だからこそ詳しく話を聞いてみたかった。
そもそもしまんくす氏が打たない方がいいとする論拠は、日々の営業が膨大なデータ分析に基づいて成り立っていることが前提としてある。大量のデータを前にして、店長個人が体験した遊技結果はイレギュラーでしかない、と。
「機械の特性を知るべきというのも分かるのですが、全機種は打てませんし結局自分の好きな機種に偏っちゃうのが人間です。好きな機種の知識は増えますが、それが人気機種とは被らないことも多々あります。
あんまり人気がないけど自分が好きな機種に予算を投資してしまい、それが原因で赤字になってしまうケースもあるんです。だから打ってもいいんですけど、僕は打たない方がいいと思っています」(しまんくす氏)
パチンコホールの商売というのは、どれだけ出すかどれだけ抜くかの数字合わせだ。
データを俯瞰して客観的に判断を下さないとならず、そのデータを見た時に先入観がないと数字を素直に見ることができるというのだ。ガチガチにデータを分析するのは、予算の中でギリギリまで攻めた営業をつくるためだ。
「パチスロって基本的に抜けるようにできているんです。だから抜くのは簡単だけど、出すのが一番難しい。目標値に対してギリギリまで攻めていこうとすると『この台は泣いてもらわないと』と心を無にしないといけない時があります。
僕は800台で7日間営業して誤差を予定に対して±50万円以内に収める。これってホール関係者なら分かると思うのですが、かなり精度が高いと思っています。そこまでするには綿密にデータ分析と検証を重ねなければ無理なんです。曜日や競合の出方など条件が日々変わる中で、そこまでやって始めて攻めた営業ができるのです。
だから店長の私情を挟む余地がないんです」(しまんくす氏)
もっと細分化していくと、いつ出すのか(日にち)、なにで出すのか(機種)、どこで出すのか(台)、さらに誰に出すのか(お客さまの属性)までを考える。それに付け加えて、機種のROMのクセも管理をする。
「これはオカルトではなくちゃんとデータであります。
一般論で例えると、PCのCPUって同じパーツで同じように組んでも処理スピードが違うんですよ。極めて簡単に言うと、個体差があるということです。同じ設定を入れたときに規格から外れた出方をしちゃう、反対に抜けすぎちゃう台がある。
そういったものから撤去をしていきます。抜けやすい特性のROMがあったと事前に分かっているなら、『じゃあ設定を1個上げようかな』とできます。店長陣には『お客さまに向き合った営業をするように』と言っているので、予算ギリギリまで攻める。
例えるなら、アクセルを踏み込んだ時に時速10km単位で調整するか、時速1km単位で調整できるかの違い。僕は後者でギリギリまで踏み込めます」(しまんくす氏)
とはいえ、しまんくす氏のXユーザー名は「しまんくす@現役の設定師」である。ユーザーとのやりとりのような妙味は捨てているのだろうか。
「それだけだと営業の面白みがないから、じゃあどれだけブレさせる、クセをつけるのかというのも重要です。これはいわば設定師の個性です。その個性は打たなくてもつくることはできます。
例えば僕が若宮の店長だった頃は、『沖ドキ』『バジリスク絆』への思い入れがかなり強かったので、色も出せていたと思います。ただ、やっぱりより狙っている数値に近づけるためには、個人の感情を入れたくない。この手法ができるのは、キング観光の中でもあまりいないかもしれません」(しまんくす氏)
しまんくす氏のやり方が成立するのは、誰にも真似できないほどの精度でデータを分析しているところにある。さらに言えば、SNSも上手いので自らが広告塔ともなれるし、イベントのプロモーターのような立ち回りもできる。
26歳から設定を考える立場になったしまんくす氏は今年で45歳。19年間はホールの営業をつくる立場として働いてきたが、このスタイルが確立したのは30代後半頃だったという。
かつては「バーサス」や「サンダーV」といったAタイプ系機種が大好きでちょくちょく稼働もしていたが、好きという理由を優先させすぎて薄利、大量設置して営業のバランスを崩したという苦い経験を味わっている。
結果が伴わず「これあかんわ、打たん方が営業成績上がるわ」と気付いたのだとか。
PiDEAがXで取ったアンケートでは、ユーザーの8割以上は「店長に打っていてほしい」と回答した。それを否定する発言をするのも勇気がいることだが、このようにメディア露出してまで発信することができるのは、独自の手法を確立しているからこそだ。
「店長が打つ打たないは業績には関係ない」という考えを持つ人はしまんくす氏だけではないだろう。ただ、打たないなら打たないなりの努力や才能が必要なのだろう。