岡野陽一の今月の汁台「週4日かけてオジさんを探して2日かけて文章を書くキツ〜い仕事」
2025.05.14 / 連載「借金芸人」岡野陽一が送る人気連載をリニューアル!
変わったようでいて変わっていないかもしれない。
パチンコを打っていく中で岡野陽一がたどり着いた人生の境地を、月替わりの金言とともにお楽しみあれ。
「ウシジマくん」作者の真鍋先生が岡野を描いた漫画「恥肉」について
あの漫画ができたとき、ほんとにびっくりしたんですよ。「まさか本当に描いてくれるとは思わなかった」ってやつで。
元はと言えば、テレビ東京の深夜番組「チョコプランナー」の企画で喋った話なんですよね。「真鍋先生に聞いてほしいヒリヒリする話」っていう、まあいわゆる人怖系のコーナーで、真鍋昌平先生に話を聞いてもらって、優勝したらそれが漫画にされるかも、なんて話で。で、そこで私が話したオジさんの話が、まさかほんとに形になってしまったわけです。
タイトルは「恥肉」。
内容はまだ私もちゃんとは読んでないんですが、原案と言いますか、大元は私が売れてない頃にやらされていた「オジスタグラム」というコラム企画のネタになります。
街中にいるオジさんをナンパして一緒に飲みに行くってコラムで、その中のエピソードから1つを真鍋先生に披露しました。

ある年の秋頃、オジスタグラムのネタ探しで、杉並区のとある公園に行った話なんですけどね、公園にいたオジさんたちから、「うであてって有名なヤツがこの時間にここに行けば大体いるよ」という話を聞きまして、そもそも“うであて”ってなんやねんと思いつつ、教えてもらった公園に指定の時間に行ってみました。
待てど探せど、うであてと言われるような奇妙な人はいなかったのですが、そこには1人で全身ブルゾンで本気の運動をしているオジさんがいました。
ぐるぐる走り回ったり、反復横跳びしたりしていて、服装も体型もいかにも運動しなさそうな場外馬券場にいそうな見た目なのに、めちゃくちゃ動いている。その横には氷結ストロングが置いてあって、汗だくになって氷結ストロングをグイッと飲んだ後に、自分の腕をベロっと舐めたんです。うであてって、自分の腕をアテにして酒を飲むオジさんのことだったんですね。
真鍋先生にその話をしたら、「面白いね」と言ってくれて優勝が決まったのですが、そこからはほぼ先生が全部やってくれました。私が「オジスタグラム」で書いた文章とか番組で喋ったエピソードとか、過去のラジオのワードまで調べて拾ってくれていたんです。「ウシジマくん」なんかは私も読んでいて、どちらかというと債務者の方で出てきそうなタイプだと思っているのですが、私のような借金マン界隈では、「リアルすぎて見れない」というやつも3割くらいいるほどです。本当に細かにリサーチをしてリアルを描いているからそういうこともあるんでしょうね。
「恥肉」というタイトルも、「空気階段の踊り場」というラジオにゲスト出演した冒頭で、「どうも!ぎりぎり人間の形をした肉の塊です」などといった私の自己紹介セリフから由来したタイトルを決めてもらいました。
「ウシジマくん」のあの真鍋先生が、自分の言葉を真剣に拾って漫画にしてくれたということは非常に感動的ですが、当時「オジスタグラム」のネタ探しは非常に過酷でした。週1回のコラムなのですが、オジさん探しで週4日くらい潰れて、文章を書くのに2日かかるめちゃくちゃ費用対効果の悪い仕事だったんです。今考えれば、オジさんと飲むために借金しておごるとか、ギャラなんて微々たるものでしたし、「何のためにこれやってんだろう」という仕事でした。でもお笑いの仕事も週1しかなかったから、金はないけど、時間はあるということで続けていました。
「恥肉」を作るにあたって真鍋先生からは追加取材を受けたりしていました。「今までオジさんに言われて心に残っている言葉はありますか」と聞かれたとき、ふと思い出したのは、歯が一本もないオジさんが言ってた言葉でした。
「人間、やっちゃいけないことはあるけど、やらなきゃいけないことは1つもないんだよ」
オジさんは照れ隠しからか、ひゃっひゃと笑いながら言ってましたけど、これがもう、ズドンと来ましたね。あぁ、ほんとそうだなって。犯罪とかやっちゃいけないことはあるけど、学校に行きたくなければ行かなくていいし、仕事もやめたければやめればいい。「仕事もねーしこういうのもやらなきゃいけないのかな」と、芸人としての活動に疑問を感じていた時期でもありましたが、その言葉をきっかけに「オジスタグラム」をやめました。そのくらいからクズブームに乗ってよく分からないうちになんとなく食べられるようになったというそんな話です。
そもそもオジスタグラムのコラムは、noteとかできる前、エキサイトレビューだったかな、新井さんというフリーの編集者の方がいて、その方が急に私に「ネット記事なんですけどなんかやってほしい」と依頼してきたんですよ。めちゃめちゃ良い方で今も付き合いあります。そんな方からお願いされて、普通にやるのは嫌だなと思った私は、「毎回オジさんに声をかけてやりたい」と切り出してしまったんですね。
いやしかし、何者でもなかった時の自分の活動が漫画化されるなんて、あの時はきつかったけどコラムをやっていて良かったなと思っています。
