盛り上がったように見えたスマスロ初動も、個人的には「この程度か」
旧規則撤去やコロナなどの影響を受けながら3年の時を経て遂にスマスロがリリースされた。長く広くプロモーションされた甲斐もあってか市場は大いに賑わい、ホール視点からしてもつかみは上々だったように見える。
しかし、スマスロ導入で漠然と市場が賑わった感はあるが、事実としてどうなのか。そこで独自に市場の膨れ上がりを調査したところ、結果として業界全体の客数が向上したという事実を確認することはできなかった。
11月20日週より導入開始が行われたスマスロだが、入替日には地域差があったり祝日などの影響もあるため正確には図り難い。なるべく状況が同じになるであろう週末の客数を、導入週と前週で比較したものが以下となる。
導入週末 客数比 |
前週土曜日(19日)比 |
前週日曜日(20日)比 |
市場全体 |
95.57% |
90.93% |
高貸全体 |
100.09% |
95.79% |
20日(日)はサッカーワールドカップの開幕があり、影響を多分に受けた数値となっているのは仕方ない。一方、19日(土)に関しては入替もなかった前週と比較しての数値である。新規・休眠ユーザーはもちろんのこと、ユーザー数の向上にはつながっていない可能性が高い。
ただし、市場全体の比率に対して高貸全体の比率は上昇していることから察するに、低貸からの移動が多く発生したと思われる。
導入1週間程度のデータであり、閑散期や給与時期などのさまざまな影響を考慮すべきなので断ずることはできないが、個人的には想定以下の結果であり「この程度か」と言わざるを得ない。
PiDEAに寄稿する際には繰り返し書いてきたことではあるが、WEB系のプロモーションは情報の取捨選択を受け手自身が行う。今パチンコ関連の情報を自ら拾いにいく能動的なアクションを起こせるのは誰か。現行ユーザーだ。とすると、テレビCMや店舗でのリアルプロモーションなどで新規・休眠ユーザーへアプローチをしなければいつまでたっても母数が増えることはないと思っている。業界団体には訴求方法のあり方を考え直して欲しいものだ。
パチンコ店の来店を阻害しているネガティブイメージの筆頭である「騒音」は、不幸中の幸いでコロナを経て静音化が主流となった。2番手のネガティブイメージ「汚い」も、今回の管理遊技により払拭でき始めているので、これをチャンスととらえてぜひ母数を増やせる取り組みに期待したい。
パチンコからスマスロへの移動が目立った
稼働部分に話を戻そう。
想像以上の点でいえば、出玉の高だ。そこまで大きな仕様上の変化がないのに何故か急にリミッターとなる19,000枚を放出できるようになる点について、過去記事ではいろいろと陰謀論を含めて発信してきたが、それはさておきこの効果もあって射幸性の高さをウリに市場牽引をしてきたパチンコからパチスロへの移動は特に激しかった。
高貸PS客数比率 |
4円パチンコ |
20円パチスロ |
差 |
11月13日週末 |
48.29% |
51.71% |
3.42% |
11月20日週末 |
45.16% |
54.84% |
9.68% |
11月13日週末時点で4円と20円の差は3.42%だが、11月20日週末時点では、4円パチンコから3%ほど減少した分、20円パチスロが3%ほど増えている。その差9.68%。売上・粗利バランスに大きな影響を与えているのは間違いない。市場全体の数値が向上していないにも関わらず、これだけのレート間に影響を与えているということは、スマスロの導入・未導入でとてつもない差が生じ始めていると考えても良いだろう。
さらに言えば、これは客数の話である。アウトと単価で構成されているため、高単価のスマスロなら、金額ベースでは見た目以上に大きな差となっているのはいうまでもない。
6.5号機からパチスロ市場が明るくなり始めた。正直なところ、私が勤めている企業は単店などではないそれなりの規模であるが、今回のスマスロ導入は決してハードルが低いものではなかった。それでも管理遊技機への移行は業界マターだ。どうせ対応が必要なら話題性の追い風がある初動が重要だということは想定通りだった。
ただし、まだリリースされて間もない状況なので、新規・休眠ユーザーの来店動機となり得るか、これから“スマスロ”自体が市場牽引していくかは現時点では何1つ断ずることはできない状況であることは付記しておこう。
出したいときに出せず、出したくないときに出てしまう恐れ
次にスマスロの優位性である、「有利区間ゲーム数の制限なし」の点について触れていく。
今回リリースされたスマスロ機種の特徴は、「差枚2400枚」を生かすために「吸込み」にフォーカスしたわけではなく、有利区間リセットを契機とした「シームレス性能」の確率を変動させることにフォーカスした仕様で作り上げられた部分にある。
(以前特集したL機評価では、純粋に誤ったスペックで認識してしまったため「Lヴァルヴレイヴ」を“シームレス性能が弱い”とお伝えしてしまったことは申しわけない)
スマスロはそんなシームレス性能をトリガーとして全振りしたスペックとなっていることで非常に波の荒い出玉スランプとなっており、反対にそのトリガーを引くまでは十分な出玉を放出することはあまりない。某データによれば2,000枚OVER率は1日1回程度あるかどうか。この時にポイントとなるのが、この頻度に設定差がほとんどないことにある。
トリガー契機発生率に設定差がない代わりにMY値が設定で大きく差が付いていることから、トリガー契機を引いた際の出玉の伸びに設定差が設けられていることになり、従前機と比較すると、設定によって「勝率」より「勝ち額」が上がることになる。
今までにない爆発力を持った性能は一定のニーズはあるだろう。しかし、設定①でも十分な出玉を期待できる性能を有しているため、放出性能においてはオーバースペックとも取れる。偶然にも11月にリリースされたスマスロのほとんどが同じような仕様となってしまい、ニーズの分散ができない状況がすでに発生しているように感じる。
このような仕様だと困ってしまうのが、「出したいときに出せず、出したくないときに出る」という場面が多くなり、ホールが出玉のコントロールをしにくいという問題が生じることだ。稼働・台数が十分にある状況でないとユーザーへのアプローチとしては弱く問題を大きくする恐れがある。
出玉を触らないのでアウト性能は上がった
実際にスマスロを打ってみて感じた点としては、サンドへお金を入れる瞬間以外はお金の概念が非常に薄くなったように感じた。これは投資最中もボタン1つでクレジットに貯留され、クレジットカードでネットショッピングやソシャゲ課金をしている感覚に近い。
(出玉という言葉の意味すらもあやふやなものになってしまったが)出玉が出た際の「箱に移す」「各台計数機に流す」などの交換動作には、少なからず情緒もあったがそれが失われたことでIN/OUT状態がデジタル化。自分の出玉が減っていく感覚を忘れ、ついつい長く打ってしまった。ただでさえスマスロは勝率操作がしにくい性能で、勝ち体験をも逃すことにもつながってしまうのではないかという懸念はある。
そして、このメダルの出し入れの動作がなくなったことで時間当たりのアウトは150(50G)程度伸びているので、一日換算すると大きな差になる。今は満員御礼の状態なのでプラスに働くだろうが、稼働が飽和した時には空台が目立ちやすくなるというデメリットにも変わる。
これからリリースされるスマスロがすべて11月機のように有利区間リセットをトリガー契機とした仕様になるわけではないだろうから、まだ掘り起こされていない部分での進化の可能性は十分に秘めている。ただし、どこまでいってもスマスロと現行機は同一内規の6.5号機である。それぞれの違いを明確にするためには、どうしても11月機のような仕様にせざるを得ない。スペック分析や市場内の設置比率などしっかり吟味した上で、今まで同様に遊技機の良し悪しの判断をするべきである。
スマスロはデビューされたがユニット不足の問題がなくなったわけではない。一部の話では、遊技機メーカーが出資協力をしているケースもあると聞く。そうした背景もあってか、スマパチのリリースに備えてスマスロリリースを4月から鈍化する方向性が噂され始めている。
パチンコメーカーからすれば出資したにも関わらず、パチスロメーカーばかり美味しい思いをしていることを面白く感じないのは分かるのだが、業界のことを思うのならば現市場のニーズがスマスロに向いているのだから、需要と供給のバランスを考えて欲しいというのが本音である。
もし仮にスマパチリリースに備えてスマスロ供給を鈍化させるというのならば、前述した通りに新規・スリープユーザーの掘り起しを目指した取り組みをしなければ、仮にスマパチにニーズが発生したとしてもパチスロからのレート間移動で留まってしまう。そうなればホールの投資効果は激減し、出玉での還元も厳しい状況になっていくだろう。パチンコ業界はどこまでいっても遊技機メーカーの売り手社会だ。懸命な判断を切に願う。