岡野陽一のパチンコ人生訓 Vol.12「先輩後輩との適切な距離の取り方」

2022.07.16 / 連載

「借金芸人」岡野陽一が送るPiDEA新連載!
パチンコを打っていく中で岡野陽一がたどり着いた人生の境地を、月替わりの金言とともに語る。


今月の金言

先輩後輩との
適切な
距離の取り方

 

:岡野陽一 ※PiDEA Vol.188掲載分

ネジを締めるのがすごい早い人がいたんです。バイト時代。入ったばかりで遅い僕に、「なんで早く締められねンだよ!?」と詰め寄ってきました。ある時は、皿洗いを何十年かやっている人に厳しく叱責されたこともあります。

これってひどい話で、赤ちゃんに「俺は2本足で歩けるぞ」と威張っているのと同じなんですよ。社会ではそういうことを言ってくださる人がたくさんいるので、僕は「すみません」と頭を下げるけど、まずはそういう人と本気で喋ることをやめますね。先輩・後輩という前に肉の塊同士なわけですから、その上下関係や距離感についてはあんまり重視していません。

かといって先輩方を軽視したり助言を無視しているわけでもありません。むしろほとんどの先輩を尊敬しているくらいなんですが、ただ世の中には「良い先輩」と「良くない先輩」の2種類が存在するんです。


「30分延長」4回繰り返した
カラオケでの説教を後悔

実は人力舎という事務所は、伝統的に「優しい」雰囲気がありまして、後輩がちょっとイジリを含めて先輩にタメ口を聞くとかはよくあります。他の事務所ではありえないことでしょうけども。

また、芸人の世界では「先輩がおごる」というルールがあります。全然売れてなくてお金なんてないんだけど、それでもおごるというのが美学だったんですね。今そのルールは絶対的なものではなく、少し薄まりつつあります。

立場が変わって自分が先輩になった時、「借金あるのにおごらないのって意味分からないな」と思うので、僕はそれくらいはおごろうかなと続けています。ザ・マミィの酒井と飲みにいくと、あいつはバカだから5人くらい連れてくるんです。「ちょっと給料日に返しますんで」と酒井に借りた金で酒井におごることはあります。なぜかそういう時はあんまりお礼を言われないですね(笑)。

かくいう僕にも尖っている時がありまして、ついやりすぎてしまったことがありました。事務所の売れてない芸人たちが大学生みたいにワイワイ楽しくやってるのを見て、「このままじゃ全然おもんない事務所になっちゃうな」と思い立ち、カラオケかなんかで飲みも歌いもせずに2時間くらい説教をしました。怒りが収まらずに「30分延長で」というのを4回くらい繰り返したんですね。

……あれは後悔しています。きっと「あの時岡野に説教された」という話が出回っていることでしょう。なにせ芸人としての月収が3000円もないヤツが月収800円もないヤツに面白さとは何かを偉そうに語るんですよ。当時僕は、「リズムネタやるヤツ終わり」と思っていたけど、そういう人がポンと売れたりします。ネタは先輩の方が面白かったとしても、大勢いる場ではよくイジられる後輩の方が面白かったりすることもある。何が正解かは誰にも分からないんです。だからあの時の怒りが間違っていたというより、正解がなかったんだと思うんです。

それから僕は後輩に対して感情をぶつけることをやめました。

 

「どうすれば良かったですか」
正解は「分からない」

謎のクズブームで今はなんとかなっていますが、僕もこんな芸風ですから、たくさんの先輩方に「借金やめろ」とか「ギャンブルをやめろ」と言われてきました。「イメージが悪い」「テレビで使いにくい」「朝の番組に出られない」とか。芸人だけでなくいろんな業界の方にも言われてきました。「まぁでも(ギャンブル)やりたいしな」と思い、続けていました。

でも千鳥の大吾さんと飲んで、「ほんまにギャンブルはもうえぇやろ。ワシらはお笑いしかないのよ」みたいなことを言われた時は響きましたね。あれだけギャンブルもお笑いもやってきた人ですから、本当にちょっとやめることを考えようかなと思いました。けどまぁ結果やめていないので、僕の意思の方が強かったということになるんですけどね(笑)。

つまり、「何を言われるか」ではなく「誰に言われるか」の世界なんだと思うんです。同じことを言われても、ギャンブルしてきた人に言われると全然違うんですよ。あと重要なのが、せっかくいいことを言ってくださっているのに、自分に話を聞ける要領がないから後になって分かることはありますよね。その時は賛同できなくても、振り返ってみるとたしかにそうだったなと。

逆に、めっちゃスベった時なんかは、「こういう時ってマジでどうすれば良かったですかね」って先輩に助言を求めたりします。でも結局その場の空気感とかいろんな条件があるので、正解はケースバイケースで分からなかったりします。むしろ「分からない」という結論に至ると安心する時はありますよね。「それはしょうがないよ」と言ってくれるの待ちみたいな(笑)。それを聞けると楽になるじゃないですか。

酒井も仕事がめちゃめちゃ増えてきた分スベりも多くて悩んで難しい顔をして相談にきますが、僕にアドバイスできることなんてないので、自分より少し不幸な人を見て楽しんで飲んでます。「分からん。むずいよな。それはスタッフさんが悪いんじゃない?」と一旦受け止めてあげた後、「まずオファーが来たことがすごいことなんですよ」という話をします。そうすると、酒井に笑顔が戻るんですよね(笑)。

 

「まずオファーが来たことがすごいこと」と言うと 酒井に笑顔が戻るんですよね(笑)。

岡野陽一のパチンコ人生訓