店長なら知っておきたいケーサツ講話の読み方

2022.02.14 / 組合・行政
 
基礎編

 

警察庁の偉い人って誰?

警察庁で、パチンコ業界を管轄しているのは、生活安全局保安課という部署。生活安全局は国民の生活の安全や街づくりを担当する部署で、保安課は風俗環境関連の業務を担当する。パチンコ業界団体の会合には、保安課長や保安課長補佐が主に出席し、業界誌やネットニュースに取り上げられるのもこの人たち。課長や課長補佐は2年~3年ごとに異動となり交代する。

2022年1月21日現在、保安課長は小堀龍一郎氏で、小堀氏は過去に同課の課長補佐としてパチンコ業界に深く関わっている。

そもそも講話って何?

「講話」という言葉を辞書で引くと「分かりやすく説いて聞かせる」と説明されている。その言葉に偽りはなく、警察庁講話というのは、パチンコ業界の現状や課題について業界を主管している警察庁の担当官が話して聞かせるものである。

基本的にパチンコ業界に対する警察庁講話は年3回ある。1月の全日遊連の全国理事会、6月の日遊協総会、11月の余暇進秋季セミナーがそれで、これ以外にも業界団体の設立記念行事で講話を行う場合もある。

どんなことが書いてある?

講話で話される内容としては、パチンコ業界の重要な課題について触れられており、近年の警察庁講話では「依存問題」と「旧規則機」の問題について多くの分量が割かれている。その他、不正排除に関する話や賞品の買い取り買い取らせ事案、賞品の取りそろえ問題など指摘する内容は多岐にわたる。またここ2年間は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止対策や業界ガイドラインについての言及が大きい。

 

理解編

 

警察庁講話の「読み方」

業界誌や業界系ネットニュースに掲載される警察庁講話を実際に読んでみても、何となくいつも同じことを言っているくらいにしか思わない人の方が業界内でもとても多いのではないか。しかしいつも同じことのように感じるのは、警察庁講話の「読み方」を知らないからだ。「読み方」を知れば、今まで見えなかったこと(それは時に警察官僚の本音の場合もある)が見える場合もある。

まずは「読み方」の基本を。基本は3つ。警察庁講話の中で、①どのような内容が、②どのような順番で、③どれくらいの分量、話されているのか。単純に考えれば、警察庁が考える「パチンコ業界にとっての課題」が重要であればあるほど、早めの順番で、より分量も多く話されている。まずはこの基本的な考え方を押さえるべきだろう。

その上で、大事なポイントは「比較」だ。何と比較するのか。一言で言えば、「横軸」と「縦軸」で比較する。「横軸」とは、直近過去2回の講話との比較。「縦軸」とは、昨年、一昨年の同時期の講話との比較。この縦横の比較を行い、内容の順番や分量の多寡を分析することで、警察庁講話の本質が初めて見えてくる。

百聞は一見にしかず。実際に今回の全日遊連全国理事会での警察庁講話の分析をしてみよう。

横軸で読む-1年間分の講話を見比べる

今回の全日遊連全国理事会での講話を文字で起こすと3993文字となる。そのうち、あいさつなどの内容を省くと、講話の内容は3747文字で構成されており、その内容の順番に沿った文字数は、①新型コロナウイルス対策関連509文字、②旧規則機の撤去関連645文字、③撤去遊技機の適正処理関連638文字、③遊技機の不正改造・釘曲げ問題515文字、④依存問題関連791文字、⑤新規則機関連209文字となる。

このような方法で、2021年度に行われた3回の警察庁講話の内容・順位・分量を可視化してみると次のようにまとめられる。

この講話の可視化から読み取れることを解説してみる。

まずは【内容と順位】について。コロナ対策、旧規則機撤去問題、撤去機の適正処理についての3点については1年間その順位を変えていない。次点として、遊技機の依存問題と遊技機の不正改造の問題が語られており、新規則機の言及については「触れる程度」に留まっている。

もう一点付け加えるのであれば、小堀課長の講話に比べ、池田課長補佐の講話のほうが、内容が多岐にわたる。これはやはり役職上の特性で、上位職の課長としては要点を押さえて指摘するが、課長補佐はより具体的な内容にまで踏み込んで話すということが分かる。よって、課長講話よりも課長補佐の講話のほうが圧倒的に長くなっている。

次に注目するのは【分量(文字数)】である。

やはり講話の中で大きな比重を占めているのは「依存問題」である。特に11月の余暇進秋季セミナーにおける課長補佐講話では、全体の約45%を依存問題に割いている。この背景として考えられるのが、政府が推進する「ギャンブル等依存症対策推進基本計画」の見直しである。この見直しは2022年3月に行われるのだが、昨年末頃には関連省庁において、見直しの素案が練られていたと容易に想像でき、次回見直される際にパチンコ業界が非難の的とならぬよう、業界の依存問題対策について釘を刺しているかのように聞こえる。

分量でもう一点注目すべきは、2021年6月の日遊協での講話における「コロナ対策」に関する内容の分量がほぼ3割に及ぶ点。これについては、業界のコロナ対策の徹底のほか、当時ホール4団体誓約書確認機関等を通じて、業界内部ルールでの旧規則機の撤去が行われていた。そうした中で、業界内では業界団体の強権発動について批判がくすぶっていた時期であるが、この6月の講話で警察庁は、コロナ対策と旧規則機の撤去延長に言及しながら、業界団体の措置について背中を押すような内容であった。

ちなみに、直近の講話では「旧規則機の撤去」と「撤去台の適正処理」はほぼ同じ文脈で話されており、合算すれば32.2%の分量を占めることから、講話時点における業界の目下の課題はこの2点だということが十分にうかがえる。

縦軸で読む-過去2年間分の新年講話を見比べる

では次に、年度内の講話分析ではなく、過去2年分の全日遊連全国理事会での講話を見比べてみる。同じ人(警察庁 小堀課長)が、同じ団体(全日遊連)に語った内容がどう変遷しているのか。表にして見てみるととても興味深い。

過去3年間の講話を可視化してみると、同じ時期に同じ団体で講話をしているにも関わらずこうも変わっているのが一目瞭然だ。

特に注目すべきは、2020年1月の講話における「依存問題」に対する言及。講話全体の50%以上の言及は異例のことだということが一目で分かる。講話を読み返してみると、この「依存問題」については多岐にわたって言及されており、主要な内容だけ抜き出してみても、「ギャンブル等依存症対策基本計画」(837文字)、「広告宣伝の注意点」(273文字)、「18歳未満の立入禁止」(250文字)、「自己申告・家族申告プログラム」(506文字)、「ATMの撤去等」(417文字)、「旧規則機の撤去」(154文字)、「自助グループの支援」(441文字)となっている。

この時点では「旧規則機の撤去」は「依存問題」の一部として取り扱われていたことや、最近は言及されていない「18歳未満の立入禁止」や「ATMの撤去」に言及しているのも当時の政治的な背景との関連であると見て取れる。

もう一点見逃せないのが「コロナ対策」。2020年1月の講話ではまったく言及されていないが、翌年2021年にはトップの内容として取り上げられている。2020年1月頃だと、まだダイヤモンド・プリンセス号もまだ寄港していない時期なので当たり前なのだが、その後、政府の第1次緊急事態宣言や未曽有のパチンコバッシングを経た2021年の講話では、パチンコ業界がコロナ対策に万全を期し、よりいっそう気を引き締めるよう発破が掛けられている。

この流れを踏まえて、2022年講話では「これまで業界では、総じて実効的な感染防止対策に取り組んできたと思います。もともとパチンコ店では、喫煙対策として性能の良い換気設備を備えていることや、お客が周囲と話さずに遊ぶ、『黙食』ならぬ『黙遊』をしていることなど、新型コロナウイルス感染症対策にとって好条件となる要素が備わっていますが、それだけでなく、業界では、一昨年5月に医療関係者の監修を得て、『パチンコ・パチスロ店営業における新型コロナウイルス感染症の拡大予防ガイドライン』を策定し、昨年もその改訂を行っています。そのような努力もあり、これまで私の聞き及ぶ範囲では、パチンコ店の客室でクラスターが発生したとは聞いていません」と一定の評価に変わる。

警察庁講話を「点」でなく「線」で俯瞰する

定期的に発せられる警察庁講話。その都度目を通すことは、パチンコホールの役職者であればとても大事なことである。その上で、過去の講話と読み比べることで、より一層理解が深まる。ページ数の都合でおおまかな解説しかできなかったが、このように読み比べると、新しく言及されたこと、逆に言及されなくなったことに気付くし、その理由について考え、知ることもできる。

警察庁講話は「点」で読むのではなく、「線」で俯瞰する。「線」で講話を読めるようになれば、その「線の先」が見えてくる。

 

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