内容は80台増台すると共に設備から内外装まですべて刷新するものだった。見積額は4億5000万円となった。
担当者Aさんは「これだけの金額を投資しても回収することは相当厳しい」と予想した。
当然仕事は欲しい。4億あまりの改装案件を受注すれば会社も潤う。
しかし、Aさんはホールオーナーの立場になり、駐輪場を潰して30台増台するだけなら、4000万円で済むことを提案した。
会社から「お前はバカか! 4億5000万円の仕事を蹴って4000万円を提案するとは何事だ」と烈火のごとく怒られた。
なぜ、高額受注を取ろうとしなかったか?
それは当該ホールから数100メートル離れた広大な土地を大手が抑えていることをいち早く察知していたからだ。5年間はパチンコの出店が禁止されていたが、担当者は「いずれホールを建てるはず」と読んでいた。
実際1000台オーバーの大型店がオープンし、既存客のほとんどは大型新店へ移動してしまった。
で、改装案件の方はAさんの読みを聞いたオーナーは中止することを決定する。
今ではオーナーからの信頼を得て、本音の相談を受ける関係性を築き上げている。
「あの時4億5000万円投資していたら莫大な借金を抱え会社は持っていなかった。この土地もなくなっているところだった。〇〇君のアドバイスのお陰で今がある」と感謝されている。
その一方で遊技機メーカーの営業マンは必死だ。
田舎で1店舗しかないオーナーは後継者もなく、自分の年齢のこともあり店仕舞いしようかどうか悩んでいる。
競合店がないこともあり、決して閉店しなければならないような悪い稼働ではない。
情報もあまり持ち合わせていない高齢オーナーに対して営業マンは「今度出る封入式は業界を変える可能性がありますから、もっと良くなります。まだまだ頑張りましょう」と機械を売ることしか考えていない。何度煮え湯を飲まされてことか。それでも過去、機械で大儲けさせてもらったことが、オーナーの脳裏からは離れない。
これで売却の判断が遅れていく。
今は売却店舗が急増して完全に買い手市場になっている。
辞めたいのか、貸したいのか、売りたいのか、借金はどれぐらいあるのか。こういう本音の相談ができるオーナーとの関係を築き上げてきたAさんの下には貴重な情報が集まる。
