語り手:サイバーおかん(田名後亜紀子) TwitterID:@1_design
高砂電器産業で11年遊技機のデザインに携わったあと、フリーのデザイナーとして独立。独立後は日本をサイバーにするサイバーおかんというアーティスト活動も行い、NHKワールドジャパンなどで取り上げられる。
聞き手:PiDEA編集部
編:そんなサイバーおかんさんは、どういった経緯で「遊技機デザイナー」になったんでしょうか? やっぱりパチスロ好きというところから始まったんですか?
サ:はい(笑)。高校を卒業してからデザインの専門学校に入ったんですが、1日でやめてしまって、それからは5年間くらいパチスロを打ちながらふらふらしてました。一番最初にハマったのが「ニュービッグパルサー」です。
ボーナス図柄がスイカで、それに目がついてて、それが忍者の手をしていて……、スゴいなと。こんなデザインがあるなんて、と思いました。揃えるのも楽しかったです(笑)。
編:その当時からデザインに注目してパチスロを楽しんでいらっしゃったんですね(笑)。
サ:その後、これではいかん、もう一度デザインの道を志そう、と決心しました。それでたまたま探し当てたのが、グリーンハウスというビックリマンシールをデザインしている会社でした。そこでデザインの勉強をさせてもらって、1年ほどして高砂電器産業に転職しました。その間に遊技機デザインに関わらせてもらう機会があって、こんなデザインができる仕事もあるんだ、本格的にやってみたいと思ったんです。
編:遊技機のデザイナーって、どうやったらその職種で入社できるものなのか気になりますね……。
サ:募集もしていないところに無理やり連絡して、という形でした。メーカーのことについても何も知らなくて、面接で「好きな台は?」と聞かれて「ドンちゃんです……」と答えちゃうくらい。本当になぜ採用されたのか、と今でも思います。そのまま10年ちょっと勤めました。
編:そのキャリアの中で思い入れのある台ってあったりしますか?
サ:自分で手がけたものは全部好きなんですけど、思い入れがあっても売れなかったり、お蔵入りになっちゃったりします。
編:遊技機ってそういう点でも特殊な製品ですよね。いくらデザインが良くても、それだけで売れるかというと……。それを考えるとやっぱり、開発のプロセスの中ではデザイナーの立場ってどうしてもちょっと弱かったりするんでしょうか?
サ:そうですね、難しい世界です。デザイナーがいくら凝っても、最終的にはそれぞれの好みの世界という側面もあって。歴史には売れているものしか残らない……。
編:切ないですね……。
サ:それでも、立場が弱いというわけではなく、私がメーカーにいた頃はガンガンやり合っていました(笑)。企画の人はこれがやりたい、営業からはこうしてほしい、役員の意向はこう、という中でデザイナーとしてもやりたいものをちゃんと出していって。やっぱり譲れない部分はあるので。
編:こだわりを持った仕事ですよね。
サ:これは本当かどうか分からない噂なんですけど、あるデザイナーは歴代のパネルに自分の名前を見つからないようこっそり残しているらしいんです。
編:画家とかレトロゲームのプログラマーがやるやつみたいですね(笑)。
サ:真偽は不明なんですけど、そういう噂もあった、とだけ。
編:なるほど……(笑)。他にデザイナーの力が試されたエピソードなどあったりしますか?
サ:例えば、今は液晶のある機種が多いですが、そうじゃなくてパネルだけで物語を感じさせないといけない時代もありました。その時代は営業さんからの無茶振りがけっこうあって、「この台はどうしても売りたいから『女の子』を載せてほしい」とか。でも図柄に女の子なんていないんですよ(笑)。版権物でもないですし。でも、「パネルにだけでも! お願い!」と言われるので、そういうことなら水着の女の子を載せるか、と。
編:「沖ドキ!」とかがそういう感じなんですかね。あれもストーリーってないですよね?
サ:多分元々はそうだったんじゃないかと思います。そのキャラが、売れたので続いていくと。
編:そういうパネルのキャラを見ると無茶振りの〝痕跡〟なんだな、と分かるわけですね。遊技台の楽しみ方がまたひとつ増えた気がします。
サ:女の子を描いたということだけで売れるわけではないんですけど(笑)、でも、コアなファンがついてくれたりします。同じような無茶振りで手がけた「新妻イルカ夫人」という台もありました。イルカの図柄と役物がある台で、パネルに女の子を描いてほしいと営業の方から要望があって。
で、普通の女の子じゃ弱いから、新妻でイルカの女の子にしようと。そのキャラを私が描きました。タイトルのインパクトがすごかったので、ちょっと話題になったみたいですが、でも、全然売れませんでした(笑)。なんにせよ、自分の関わった台が話題になるのは嬉しいことです。
編:そんな遊技機のデザインが実は最近、注目を集めはじめているという話を伺いました。
サ:実はそうなんです。この前、「デザインのひきだし」というデザイン専門誌で、「遊技機のデザイン」を取り上げてもらいました。他にも、フリーランスで仕事をしている専門職向けのwebメディアなどでお話をする機会があります。
ここ10年くらいで、パチンコに対する世間の空気感が変わってきたというか、パチンコを好きな人と嫌いな人の間にあった差や溝みたいなものが埋まってきている傾向があると思うんです。「こういうものを作っています」ってアピールをしても、これまでは嫌いな人は1ミリもこっちを向いてくれませんでした。友達づきあいをしている中でも「パチンコはちょっと」と拒否反応をする人もいたり。それでこっちも萎縮してしまうことも多かったんです。
編:確かに……。業界人ならではの「あるある」ですよね。
サ:でも最近は、それが緩和されてきている感じがします。webメディアで取り上げてもらった時も、パチンコを知らない人からの評判がすごく良かったんですよ。パチンコという世界についてもっと知りたい、と言ってくださる方が多かったです。
その時取材にきてくださったのもパチンコ・パチスロをまったく知らない方だったんですが、すごく興味を持ってくれました。
編:デザインにも注目が集まっている……?
サ:一般的に、業界の外ではパチンコ台・パチスロ台のデザインというのは、「かっこいい」という感じではないと思います。その世界観の違いというのはあると思います。でも最近はアパレルとかでも「レトロ」なデザインが好まれているんですよね。その延長でパチンコのデザインも「可愛い」、「チェリーとかめっちゃ可愛いよね」と評価されてきていて、そんな感じのデザインでグッズを作ってください、と依頼を受けることもあります。
もともと私は遊技機のデザインが「ダサい」と世間で思われているのが不服で、だって私たちの世界ではこのデザインを「かっこいい」と思っているわけじゃないですか?ダサいデザインを作ろうと思って作っているわけではないじゃないですか?
編:世間の見る目がちょっとずつ変わってきているというのは個人的にも感じます。
サ:あと、外国の方からの評判もすごくいいですね。海外のメディアさんからも実はすごく連絡がきて、これが日本のサイバーパンクだ、という形で紹介してくれます。
編:たしかに、まさに日本にしかなくて、外国の人が好きそうな、エキゾチックでクールなデザインですよね。
サ:スロット自体はアメリカから入ってきた文化ですが、それが日本のアニメ・キャラクターで育った世代の文化と融合して、独自の形になりつつも、元々のデザインを継承していっているのが遊技機の魅力だと思います。
編:遊技性や楽しさ、というところとはまた違った、パチスロの良さですよね。
サ:私自身も、デザインという側面からパチスロの良さ、遊技機の良さを色々な人にもっと知ってもらいたいなと思います。デザインの専門誌に取り上げてもらったという話をしましたが、それって多分今までにないことなんですよね。
なので、遊技業界の中で、というよりは、いまの「よろずデザイナー」という立ち位置を生かして遊技業界の外で、「パチンコ・パチスロなんて全然知らない」という人にいきなり「デザイン」という切り口からパチンコ・パチスロを届けて知ってもらう。それが私のできることなんじゃないかなと思っています。
私みたいに、「見た目が好き」から入って、そのあと遊技性とか出玉について知っていく、というパターンもあるんじゃないかと。とにかく、まずはもっと知ってもらいたいですね。デザインの業界を見渡してみても、他にはないデザインが詰まっています。それを残していきたいと思います。
編:本当に遊技機のデザインはとても魅力的だと思います。業界内でも、やっぱり台について語るときはスペックや値段、台数といった数字の話題ばっかりになりがちですが、デザインについてももっと発信していきたいですね。「この図柄がいいよね」とか「パネルのキャラが可愛いよね」とか、SNSで発信していくなどして。
サ:デザイナーとしても反響があると嬉しいですね(笑)。
編:遊技機デザインの世界をご紹介いただき、ありがとうございました。