語り手:サイバーおかん(田名後亜紀子) TwitterID:@1_design
高砂電器産業で11年遊技機のデザインに携わったあと、フリーのデザイナーとして独立。独立後は日本をサイバーにするサイバーおかんというアーティスト活動も行い、NHKワールドジャパンなどで取り上げられる。
聞き手:PiDEA編集部
PiDEA編集部(以下略.編):「遊技機デザイン」というのは、パチンコ業界の中でもなかなか馴染みのない職種じゃないかと思います。具体的にどういったことをされているんでしょうか
サイバーおかん(田名後亜紀子)(以下略.サ):開発体制にもよるんですが、主にリール図柄と筐体のパネル部分のデザインをするのが仕事ですね。他にも、例えばシリーズものじゃなくて、オリジナル版権を新規で作るときなどにはキャラクターのデザインだったりロゴの字体だったりをアイディア出しから作っていきます。
企画屋さんから「今回は和風でいきたい」といった要望を受け取って、こちら側からも、できたデザインを「チャンスランプで使うのはどうですか?」というように演出のアイディアを提案したりと、開発の初期段階から一緒に遊技機を作っていくイメージです。
編:「デザイン」という側面から見ても、遊技機というのはちょっと特殊な製品ですよね。
サ:保通協の試験を通らないといけない、というのが大きいですね。リールの図柄は最小でも2.5cm×3.5cmじゃなきゃいけないというルールがあります。他にも「視認性」がチェックされたり。デザイナーとしては、規則の中で攻めたデザインもしてみたいんですけど、まさか図柄で落ちるわけにはいかないので(笑)。板挟みです。
また、パチスロのリール図柄はシルクスクリーンという技法で印刷されていて、色ごとに何回も刷り重ねるんです。まずは7の赤い部分、次はその周囲の黒フチ、というように。なので「印刷ずれ」という問題があって、これも規則に関わってくるところなのでデザイナーにとっては恐怖です。パチスロの図柄にフチ太めの物が多いのは、印刷ずれをカバーできるから、という理由もあるんですよ。
編:それでもその特殊な技法が使われているのには理由があるんでしょうか?
サ:長く使うという遊技台の性質に適しているのがシルクスクリーンなんですよ。Tシャツなどにも使われていますよ。
編:意外と身近なものなんですね。
サ:ただパチスロはもっと豪華です。普通のデザイン業界では3色でも十分多いね、となるんですけど、例えば今回用意した資料の図柄では12色、版でいうと16版、ということは16回刷るんです。ちなみに、版を作るのに1版何万円とかします。
重なっている部分をどうするかとか、色数をどう減らすかとか、デザインの段階で考えることはたくさんあります。 編:そういった制約の下で各メーカー、特徴的な図柄を作ってきたんですね。
サ:どの会社もこだわりを持ったデザインをされていますよね。実はパチスロの図柄は1910年にアメリカで作られた「リバティ・ベル」というスロットマシンが大元になっているんです。それから100年以上も、ベルはベル、フルーツはフルーツというふうにオーソドックスなデザインが綺麗に残っていて、そこに魅力を感じます。あ、もちろん、スイカが赤と緑の入った別のものに変わっている、みたいなパターンも面白くて好きですよ!
編:サイバーおかんさんは具体的にどういう風に図柄をデザインしているんですか?
サ:例えば、「7」を作るときには、7だけで綺麗に見えるものなのか、それとも上にキャラを載せて、それでバランスよく見えるものにするか、などを最初に考えますね。でもできれば、両方綺麗に見せたい、という気持ちもあります(笑)。
編:普段何気なく揃えている図柄にも、デザイナーさんの隠れた努力があったんですね。