【緊急インタビュー】栃木県遊協・金淳次理事長 –反体制の旗手か、窮鼠の長か。「決まったから従え」に求める決定までのプロセス–

2021.03.15 / 組合・行政

2月25日午後2時。東京駅八重洲口から徒歩で10分程の所にあるビルの8階。
さほど大きくない事務所の部屋で取材を受けてくれた栃木県遊技業組合理事長である金淳次氏。その事務所は金氏が代表取締役を務める会社の応接室である。

90分に及ぶロングインタビューに渦中の人が答える。彼は全共闘さながら反体制の旗手なのか、それとも窮鼠が如き一城の主なのか――


21世紀会決議と旧規則機の撤去「沖ドキ問題」

パチンコ・パチスロ産業21世紀会(以下、21世紀会)が2020年5月に定めた旧規則機の設置期限は、国家公安委員会がコロナ禍の状況を考慮し延長した1年よりも短い期限で設定された。
旧規則機のうち、高射幸性遊技機は本来の設置期限満了での撤去、甘デジやAタイプパチスロ機は7カ月の延長、その他の遊技機は2020年内に設置期限を迎えるものと2021年に設置期限を迎えるものとでそれぞれその年の年末までの撤去というのが21世紀会決議の基本路線であり、一部ホールを除く、全国99.7%のホールが同決議を遵守する誓約書を提出した。

業界団体は21世紀会決議遵守を求め具体的な対策を講じた。
ホール4団体(全日遊連、日遊協、MIRAI、余暇進)は、ホール4団体誓約書確認機関を立ち上げ、旧規則機の撤去未履行に関する通報・確認システムの運用を開始。ホール同士の相互監視力を強化した。
また中古機流通協議会(全日遊連、日遊協、日工組、日電協、全商協、回胴遊商)では、21世紀会決議を遵守しないホールに対して、中古機移動に関わる確認証紙発給の留保と停止の可能性を示唆し、実質的な「ペナルティー」を公表した。

そのような状況下で、目下パチンコ業界を席巻している「沖ドキ問題」は年明け早々に勃発した。
ホール4団体誓約書確認機関によれば、「沖ドキ!LL(-30)」(以下、沖ドキ)が、21世紀会が定めた設置期限を迎えた2021年1月12日以降、2月16日までに通報・確認システムへの通報数が1120件に上っており、その内370件に対し設置の有無を当該ホールに確認するための「事実確認書」の送付を行うとしている。

また2月16日までに、226店舗の撤去未履行ホールの詳細について全国遊技機組合連合会(以下、全機連)に通知したと発表した。この226店舗の撤去未履行ホールのうち、栃木県下のホールは26店舗になり、全国的にも撤去未履行ホールが多い愛知県、茨城県に次ぐ数字となる。

21世紀会決議の履行を求める業界団体側と、頑なに沖ドキの撤去に応じないホール。その攻防戦は激化の一途を辿る。その最中、あの意見書が発出された。


栃遊協理事長が送った全日遊連執行部への意見書

その意見書は冒頭から重々しい。

下記の文書は2021年1月29日付全日遊連発第500号「栃木県遊協として『21世紀会決議の遵守』履行の要請について」に対する栃木県遊協金淳次理事長の意見書です。この意見書案は2月5日の栃木県遊協緊急理事会において出席理事に配布し読み上げ、全員の挙手による賛同を得て送付するものです。

この「意見書」について、金理事長はまずこのように明言した。
「あれはあくまで栃木県遊協理事長である私個人の意見書です。栃木県遊協としては、21世紀会決議に対して当初は『尊重する』としていたけど、後に『遵守する』と言い換えた。栃木県遊協は中小企業等協同組合法に則った法人格ですから、県遊協の言葉が矛盾してはいけないでしょう。だからあくまで理事長職にある私個人の意見書だし、緊急理事会の場でもその旨を説明し出席理事の賛意を得ました。この点については全日遊連からの問い合わせもありましたよ」

この意見書は全国の都府県方面遊協にも送ったという。質問や批判はいつでも受け付けるとしたが、「携帯番号を書き添えるのを忘れた」と金理事長は笑った。

金理事長がこの「意見書」で問いただしたのは、概ね以下の4点である。

  • 21世紀会決議に正当性はあるのか?
  • 21世紀会決議の遵守を求める活動等の最高責任者は誰であるのか?
  • 21世紀会決議の遵守が本当に業界の未来を拓くのか?
  • 21世紀会決議遵守の「強制」がもたらす法的なリスクについて

全日遊連が発出した文書を引用しながらの意見書には、業界団体が推進する21世紀会決議遵守に抗うかのような文言が並ぶ。この意見書を目にした業界関係者からは「独善的すぎる。業界の総意に逆行しており滑稽ですらある」という痛烈な非難を浴びせる人もあれば、「言っていることに一理ある。法的には問題ないわけだし」と共感を隠さない人もいる。


21世紀会に真っ向から対立する主張

「コロナ禍における大事な問題は、業界がどのようにこの困難を乗り越えるのかということ。海外からの部品供給がストップしたメーカーが遊技機を製造できない問題。人との接触を最小限にしなくてはならない状況下で入替がままならない問題。また一方で、業界が行政とともに進めてきた射幸性低減の意図が後退したと世論に誤解されてもならないし、その過程、特に出口戦略において混乱状態を引き起こさないこと。これらの問題を解決するために、警察行政は旧規則機の設置期限を1年間延長したんです。日本社会が初めて直面した感染症の危機の中で、各省庁の官僚たちが所管するそれぞれの業界を生き残すためにはどうすれば良いのかを必死に考えた結果です。あえて21世紀会決議というデッドラインを敷く必要はなかったと思う」

しかし1年間という期間は、今後のコロナの第二波、第三波を想定した予備的な期間であり、高射幸性遊技機の延長なき撤去を含め、21世紀会決議が定める設置期限は警察行政の了解があってのものであるというのが業界内の通説ではあるが―

「警察行政と業界団体の取り決めというが、そのような場が設けられたという記録もなければ、取り決めがなされたという議事録もない。21世紀会の決定は、例えばセーフティネットなどの公的融資の緩和を認めてくれた行政の信頼に対する義務かのような論調もあるが、そもそも第一次緊急事態宣言時に、補償なき休業自粛を半ば強制的に強いられたホールとしては、セーフティネットだけではなく、1年間の設置期限延長も当然享受すべき権利であるべきだと考えている」

金理事長の主張は業界の意向と真っ向から対立している。法治国家における「1年間延長」という「法律」を業界が自ら短縮し強制するのは、私権の制限であり、財産権の侵害であり、ひいては生存権の侵害でもあると語気を強める。

しかし金理事長のホールも21世紀会決議の遵守を約束する誓約書を提出しているのもまた事実だ。その点についてはどうなのか―
「旧規則機の前倒し撤去に関わる全体のスキームが明らかになる前に『誓約書』という証文を取られたというのが本音。自分も最後まで抵抗したが、立場上出さざるを得なかった。しかし時間が経てばメッキは剥がれる。業界団体がいかに強引なことをやってきたのか。すべてにおいて法的な根拠がない。それなのに、自社で購入した中古遊技機であれ、チェーン店間移動であれ、中古遊技機を移動設置できないのは明らかに営業妨害であるし、その上どこも訴訟リスクを恐れ責任の所在を曖昧にしている」

ちなみに金淳次氏が経営する株式会社エスエープランニングは、長年加盟していた日遊協、余暇進、MIRAIを本年1月に自主退会している。しかし「栃木県遊協理事長としての責任は最後まで全うする」という。


求めているのは組合としての本来の役割

金理事長は単に体制側(全日遊連)にアンチテーゼを唱えているわけではない。
「決まったから従え。決まったプロセスは開示しない」というのは全日遊連の怠慢でありエゴではないのかと金理事長は言う。

「昨年には600店舗以上が閉店・廃業に追い込まれた。それでも業界全体のために21世紀会決議を守れというのであれば、少なくとも決定のプロセスについては丁寧に説明してほしい。私はやみくもに反対しているわけではない。納得させてくれと言っているだけ。あとはホール団体としての役割をもっと果たして欲しいと思っている。旧規則機の撤去を推進するのであれば、ホール団体としてメーカー団体に、新台購入時の割引など、相応の補償を求めるのが通常ではないのか。撤去するのが当たり前で、設置し続けるは悪だという業界団体側の連帯感には違和感を覚えるし、どこかでメーカーへの忖度があるのではないかと勘繰ってもしまう。ただでさえ組合の求心力が失われていく中、このままでは誰も組合に加入している価値を見出せなくなる」

金理事長の経営するホールはいまだ「沖ドキ」を設置しているのか—
「一部ではまだ設置している。ただ県遊協としても撤去を促しているのも事実。県の施策としては、『沖ドキ』を撤去していない地域の経営者同士で話し合い、互いに利益損失がないよう同時期の撤去を目指している」

「沖ドキ」を撤去していない地域といっても、21世紀会決議を遵守し規定の期限をもって撤去に応じたホールもあるはずなのだが、その点について金理事長はついに触れることはなかった。


執筆後記/インタビュー雑感

ある出来事に対して一方の主張だけを報じることは、それはただのプロバガンダである。
両論併記。声の大小の差はあれ、異なる立場からの意見を報じることには意味があると常に思っている。

本インタビューは、21世紀会決議を礎とし業界団体が旧規則機の撤去を推進することについての、反体制の旗手でもなく、窮鼠が如き長でもない、ある1人のパチンコホール経営者の「声」である。
小誌ではこういう経営者の声があるということを、業界の末端で口に糊する編集者の矜持として記録に留めておきたい。

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