2021年パチンコ業界7大予測【後編】

2021.01.20 / コラム

新型コロナウイルスが経済に深刻なダメージを与え、人々の生活・行動パターンを大きく変容させる中でスタートした2021年。
目に見えない感染症との戦いはいまだに続くが、明るい材料もある。

春先にはコロナ対策用のワクチン接種が始まり、延期になった東京五輪も今夏には開催される見込みだ。
また、政府による公的支援を受けて急回復する業種や、コロナ禍を逆手に取った商品・サービスも好調だ。

ひるがえってパチンコ業界はどうなのか。
ホール、メーカー、遊技機、設備など7つのテーマ別に今年の予測と光明を探った。


④ホール企業の業績はどうなるか

ポイント

・2割のホールが赤字に転落し、7000店舗へ減少加速
・業績回復へ向けて大手の多くが攻めへ転じる

大幅に業績を落とした大手2社の攻めと守り

新型コロナウイルス感染拡大により昨年は4月中旬〜5月下旬まで約1カ月半の休業を余儀なくされたパチンコホール。休業明けの6月から客足は徐々に回復傾向にあるが、それでも売上や粗利はコロナ前の7割〜8割程度。これはホール企業にとってどれほどの打撃なのか。

パチンコ物件ドットコムを運営するシーズン株式会社代表の小林哲也氏がこう話す。
「ホールの売上・粗利が2割減少すれば、全国の2割のホールが赤字に転落するといわれています。現在(2020年12月下旬時点)、約9000店舗があるとしてその20%に当たる1800〜2000軒が赤字になっていると考えると、この先、大手であり中小であり不採算店を閉めるという選択をすることは十分に考えられます。つまり、全国の店舗数は7000軒へ加速するのではないでしょうか」

本特集Chapter1でも触れた金融機関によるコロナ前の予測「今後5年で6000店舗~7000店舗まで減少」は、コロナの到来によって思いのほか早まりそうな気配が漂っている。

コロナ禍は、ホール企業のリーディングカンパニーの業績にも大きな影を落としている。最大手マルハンが昨年11月に公表した中間決算では売上高で前年同月比36.8%減、経常利益は同84.3%減と大幅な減収減益となった。この結果、マルハンの短期借入金は約160億円と前年度の約3倍に膨らんだ。4月1日よりカンパニー制へ移行し、カンパニーごとに経営戦略を実行する同社が今後どこまで盛り返すのか注目される。
前出の小林氏は、「マルハンは今後も、出店攻勢を進めていくでしょう。中間期の減収・減益はあっても、同社は資金力が格段に違いますから」と予測する。

一方、ダイナムは貸玉収入で前期比42.1%減、営業収入は37.9%減と同じく減収・減益となっている。同社もグループ全448店舗中436店舗の協力休業で打撃を受けた形だが、下期および通期の業績見通しとしては、黒字を確保する見込み。営業収入の減少への対応として、機械費、人件費、変動費および固定費の削減を行う予定という。

業界に詳しいシンクタンクの1人は「ダイナムは当面、出店を控え守りに入ると聞いています。経費や人件費を抑えつつ、既存店の立て直しを図っていくのではなでしょうか。また、PB機へのシフトを強め、機械費について削減を進めていくと思います」と話す。

赤字店のスクラップで筋肉質な企業への転換を

大手2社に次ぐグループとして、アンダーツリー、NEXUS(D'STATION)、延田グループ、ガイアなどがある。直近の決算ではアンダーツリーの2020年9月決算が売上高前年対比82%、経常利益同68%。NEXUSが売上高前年対比79.2%、営業利益同42.7%といずれも減収減益となっている。ともにコロナウイルスによる営業自粛などの影響を受けた形だが、「両社ともに21年は攻めの姿勢を示しています。特にアンダーツリーは店舗の大型化を進めていくと聞いています。大手を中心に新規店を出すことで売上を作り、既存店をカバーしていく傾向が続いていくのではないでしょうか」(小林氏)という。

2020年はコロナの影響で大手をはじめ多くのホールが減収・減益となった。それを金融機関からの借り入れやリスケでしのいだ。

ターミナル駅から人が減り、駅前の有利性も失われた2021年は、M&Aや大手同士の競争がさらに加速すると予測される。「グループ全体が黒字であれば」という意識や、「閉店はイメージダウンになるから」といったプライドを捨て、シビアに赤字店をスクラップして筋肉質な企業への転換が求められている。


⑤ウィズコロナは人材採用のチャンスか

ポイント

・市場は企業優位も採用強者・弱者の二極化が進む
・WEB面接の導入を進め人材「採用力」の向上を

二極化するホールの採用ニーズ

コロナ前と後では採用市場にどんな変化があったのか。厚労省が発表した2019年の平均有効求人倍率は1.60倍と過去3番目の高水準で高止まりしていたが、2020年1月から徐々に下落。ついには12月の時点で1.04倍にまで落ち込み、市場全体に大きな影響を及ぼしたことが分かった。

また、同省が発表した職業別有効求人倍率(パートタイムを除く常用)によれば2019年11月の平均1.46倍に対し、2020年11月には平均1.00倍となった。ほとんどの職業で昨年を下回り、買手市場に移行しているケースも散見されている(図表1、2参照)。

図1では、もともと採用ニーズが高い職業が多く含まれており、コロナによって雇用を控えたことがうかがえる。このうち接客や飲食もまだ買手市場に移行はしていないが、2021年には移行する可能性は否定できないとの見方が多勢だ。

では、パチンコホールはどうか。パチンコ業界に特化した人材支援を手がけるパック・エックスの中村祐希営業部長に聞いた。
「ホールの採用ニーズは、緊急事態宣言が発令された4月に大幅に下落しました。特に5月は弊社の計測史上最低値を記録しています。緊急事態宣言が明け6月より徐々に回復したが、8月~10月にかけては動きがほぼない状態で、内実としては『精力的に動く企業』と『まったく動かない企業』の二極化が進んでいました」

コロナ禍の状況で精力的に採用に動いた企業の特徴は、規模の大小に関わらず、「M&Aなど出店計画による増員」「新たな成長分野への即戦力補強」「組織編成に伴う即戦力補強」「次世代幹部候補などのポテンシャル採用」の4パターンで「ホールの採用ニーズは11月に平均値に戻り、12月もほぼ同水準を示している」(中村氏)という。

多角化や組織変革の推進で人材の争奪戦は激化する

そして、21年ニューノーマル下での採用市場のトレンドについて中村氏はこう予測する。
「市場全体での落ち込みは確かなのですが、実際のところ買手市場に移行している業種はさほど多くはありません。むしろ、コロナの影響により業態の多角化や組織変革、事業変革を推進する企業の人材不足感は否めず、人材の争奪戦は今後激しくなっていくと予測しています」

感覚的に買手市場だから「募集が集まる」「採用しやすい」などと気を緩めずに、欲しい人材ほど他業種や他社と競合すると考えるべきという同氏は、「対面接触が避けられないホール業は、今まで以上に応募が集まらない可能性もある」と指摘する。そうした中で、コロナ禍で始まったWEB面接は、日程調整がしやすく、遠方でも面接ができ、より多くの人材と出会えるようになったことで、多様な経験スキルの発掘、想定以上の人材獲得につながるなどのメリットも生まれているという。

生活様式の変化とともに、就職・転職活動も非接触を希望するケースはさらに増えそうな今年、企業選択のポイントとなり得るWEB面接の有無は、採用力に直結するといえそうだ。


⑥コロナ禍で変容する設備機器のニーズ

ポイント

・ネットサービスや情報媒体にさらなる需要が生まれる
・管理遊技機&メダルレス遊技機により設備が大革新する

コロナ関連対策設備の拡充に努める1年に

本来であればパチンコ業界の周辺機器メーカーにとって2020年は、厳しい1年になるはずだった。旧規則機の一斉撤去による設備投資費を考える時、遊技機以外の設備の更新に充てる費用はほとんどないからだ。

唯一のビジネスチャンスは健康増進法の改正によって禁煙化されたホールに設置するための喫煙所の設置。2020年の年明け、各周辺機器メーカーは喫煙所設備の販売に熱を上げた。
そこにコロナ禍である。災害時には想定外の需要が生まれる。台間に設置する感染防止ボードや入店時の検温器、消毒関連用品や換気関連設備。ホールの投資はコロナ対策設備に集中した。

2021年、パチンコ業界とコロナとの戦いは継続される。旧規則機の一斉撤去に際するホールの支出は莫大であるが、より一層のコロナ関連対策設備の拡充にも努めなくてはならない。客数や売上が大幅に減少する中、周辺機器メーカーはホールの設備ニーズに対応する開発力、商品調達能力が問われる1年になるだろう。

ネットサービスの拡充と情報媒体の多様化

近年、ホール経営に関わるネットサービスや情報商材の多様化には目をみはる。
コロナ時代を代表するネットサービスと言えば、Zoomなどのリモート会議システムである。この1年、どれだけ多くの会議会合やセミナーがオンライン化されたであろうか。
それに伴い多くの企業はインフラの整備や関連機器の導入を積極的に行った。ここにも本来当分は生まれるはずのなかった需要が生まれ、2021年はより加速度的に平準化されていくであろう。

ホールが発信する広告宣伝などの情報伝達手段もコロナ禍のなかで大きく様変わりした。人を集める行為が社会的な批判を受けやすい環境下で、ホールはTwitterやYouTubeなどのSNSを利用した自社配信のほか、店側ではなく、客側が積極的に情報にアプローチする仕組みを構築した。遊技台データを公開するホールが急増したことや、ポータルサイトの有効活用もその一環であった。

コロナにより時代は急進した。ネットサービスや情報媒体を扱うホール関連企業にとっては、より大きな需要が生まれるだろう。

また、2021年には遊技機メーカーが最重要課題として取り組む、管理遊技機・メダルレス遊技機が登場する。本格的な市場投入はもう少し先になるだろうが、主要メーカーはすでに開発に取り組んでおり、同機が本格的に市場投入されるタイミングでは、周辺設備の大きな需要が生まれる。

同機がどれほどの規模感を持って市場に受け入れられるのかは、規則改正や規制緩和の進捗に拠るところが大きくいまだ未知数であり、設備投資がかさむパチンコホールには頭の痛い問題であるが、警察行政の積極的な後押しもある中、管理遊技機・メダルレス遊技機の導入による設備の大革新は不可避であると思われる。


⑦加速する組合団体の変化と再編

ポイント

・論じるべきは「未来のパチンコ産業が社会的にどうあるべきか」
・異なる意見を集約して今後の活動を進める

新型コロナウイルスは組合団体にも大きな改革と再編を促した。その象徴的な例がコロナ禍で業界団体が団結し、行政と交渉して勝ち取った「旧規則機の経過措置1年延長」と「セーフティネット保証」であり、それに伴う21世紀会決議と同決議に従わないホールに対する組合員資格停止処分などのペナルティーである。

この21世紀会決議に従わないホールへの処分に対しては、ホールからの不満や疑義なども出たが、阿部恭久全日遊連理事長らは「自主撤去は行政との信頼関係の上で成り立つ取り組みであり、将来に向けて良好な関係を構築するため」と説得、まさに小異を捨てて大同につく姿勢を貫いている。

ファン人口・ホール数が右肩下がりを続ける中で、ここ数年は組合団体の役割の変化や、組合団体間での緊密な関係性の構築が顕著になっている。特にコロナ禍がその動きに拍車をかけた。

そうした中で、2021年、組合団体の変化・再編の起爆剤となりそうなのが昨年10月に発足したMIRAIぱちんこ産業連盟と、同年8月に日遊協の新会長に就任した西村拓郎氏である。

前者は同友会とPCSAが合併。東野昌一、加藤英則両代表はジリ貧から脱するための大きな改革として、行政や社会に対するアプローチ、政策提言を掲げている。
また、合併により全日遊連に次ぐ組合員数を抱える大所帯となったMIRAIは「組合団体のさらなる融合」を提唱する。

横断的組織の特性を生かした業界改革

一方、日遊協の西村会長は「利他主義に則り、必ず業界を変える旋風を巻き起こす」と言明、「タブーなき活動を進めていく」と意気込む。2021年の組合団体の展望を予測する上で、唯一の横断的組織である日遊協の動向は欠かせない。

西村会長に話を聞いた。
「撤去問題も含め、パチンコ業界というより、社会の一員として生きている以上、常に現状に満足することなく改革する姿勢を持ち続けることが大事です。我々は組織・団体として動いていますので、日遊協がどのような具体的改革・行動を起こしていくのかは、私自身も楽しみにしています」

さらに、ホール、メーカー、販社などが加入する組合員それぞれの利害が相反する中で、改革を進めるために必要な点について「撤去問題を短期的に考えると利益相反することしかありません。しかし、我々は長期的なビジョンを持ち、未来のパチンコ産業が社会的にどうあるべきかという見地に立ち、論じていかなければなりません」と前置きし、「日遊協は個社それぞれの利益を守ることを目的する組織とは異なる趣旨で設立されており、それぞれ違う立場の方々が加盟していることで、異なる意見を集約することのできる唯一の団体です。この点を最大の強みとして生かし、今後の活動を力強く進めていきたいと思います」

個店個社の利よりも業界全体の利へ。リーダーたちの意識と業界団体の役割はウィズコロナ下で大きく変容しそうだ。

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