大阪〝冬の陣〟【二物二価と10.2割営業】

2021.01.18 / ホール

14割分岐営業で4円パチンコのアウトが上昇

大阪〝冬の陣〟
二物二価と10.2割営業

大阪は昨年11月1日から従前の11.2割分岐営業(パチンコ28玉、パチスロ5.6枚)から等価に近い10.2割分岐営業(パチンコ25.5玉、パチスロ5.1枚)をホールが選択できるようになった。併せて、パチンコ専用、パチスロ専用景品の2種類を取りそろえることで実質二物二価が可能になった。

営業スタイルに選択肢が広がって1カ月余りが経過した現状をレポートする。


大阪・堺地区の巨艦店戦争で勃発した高価交換競争

昨年11月22日、大阪府堺市西区に1827台の「ラクエンプラス」がグランドオープンした。西日本最大級となる規模は、同ホールから4キロほど北に2019年7月オープンした「グランキコーナ堺」(1817台)を意識したものであることが読み取れる。この2店舗の中間点には営業歴12年の「マルハンメガシティ堺」(1065台)が盛業中だ。

また、「グランキコーナ堺」から4キロほど北上すると「キングオブキングス大和川」(1360台)がある。緊急事態宣言下、休業要請に応じなかったために、連日マスコミが過熱報道したホールでもある。堺市の中心部は半径4キロ圏内にこれだけの巨艦店がシノギを削る激戦スポットとなった。

グランドオープンから2週間余りが経過した「ラクエンプラス」は、来店客をその視覚で圧倒する。各台計数機が標準化する中で、出玉勝負と言わんばかりに箱積み演出で出玉を強烈にアピールする。人件費の削減とは真逆で、大人数の従業員が玉箱運びに汗を流している。

箱積み演出だけでなく、大阪福祉防犯協会加盟の同ホールは、パチンコは25.1玉交換、パチスロは21.73円で大遊協よりもさらに等価に近い営業方針を打ち出している。

マルハンの大阪全店が11月1日から10.2割分岐営業に切り替えたのは、ラクエン対策も1つにはあったものと思われる。結局、ラクエンに競合する大手は、10.2割分岐営業で等価に近い営業に舵を切った。

このエリアは、今は〝お祭り状態〟で遠方からも集客しているが、大手の高価交換競争で影響を受けるのは周辺の中小店舗だ。

「キコーナの時もそうでしたが、ラクエンがオープンしてもお客さまを取られたのは、2週間ほどで限定的でした。最終的には常連さんは戻ってきます。大型店のグランドオープンより深刻なのはコロナです。大阪が医療非常事態宣言を出した12月3日から、常連の高齢者のお客さまがピタリと来なくなりました。来店しなくなった割合は15~20%でこっちの方が深刻です」(堺市内ホール店長)

堺エリアからは少し離れるが、大型の旗艦店を有する中堅ホール関係者の話を聞いてみた。
「ウチの主力店のパチスロは5.6枚交換です。競合するマルハンさんの動きを見て5.1枚に合わせようと思っていました。パチスロユーザーは交換率には敏感です。どうせ打つのなら、交換率が高い方を選びます。それで早目に動こうかと準備はしていました。しかし、マルハンさんは2週目まで稼働は良かったが、3週目で落ちた。客数もそう奪われてはいない。もう少し慎重に様子見ですね」

ここでも影響は2週目までという答えも出てきている。ましてや資本力で劣る中小は大手と同じ土俵で戦うことはできない。10.2割分岐営業へ追従する動きは鈍い。

 

医療従事者に感謝を表すためにブルーに点灯された通天閣。
医療非常事態宣言が発令されているため、年末の忘年会シーズンも人出はまばら

 

二物二価スタートから1カ月 舵を切ったホールは1割未満

「12月の頭で二物二価に舵を切ったのは40店舗ぐらいで、検討中が2店舗ぐらいでしょうか。歳末防犯の懇談会があり、所轄単位では『二物二価をやってるらしいな』という話は出ているようですが、府警の方から特に二物二価に言及されることもありませんでした」と話すのは大遊協関係者。
二物二価に対して大阪府警も今はまだ静観の構えのようだ。

現在、大遊協加盟ホールは580店舗。二物二価に踏み切ったホールは、スタートから1カ月余りで7%程度ということになる。大阪のホールが二物二価に慎重になっているのは、大阪府警が二物二価に対する明確な姿勢を示していないからだ。
大遊協関係者は「パチンコ専用景品とパチスロ専用景品の種類を増やしただけ」と強弁するが、実質の二物二価に、いつ指導が入るか分からないので、様子見というホールが圧倒的多数だ。

「一物一価が納得できない経営者はたくさんいます。二物二価を認めてもらわないと業界はますます縮小するでしょう。パチンコは等価ではもはや稼働が取れない。稼働低下に歯止めをかけるには二物二価が一番やりやすい。一物一価の徹底で1パチも等価になってしまっています。1パチが登場した当初の交換率は50~70銭だった。4円に比べて4倍貸し玉はあります。加えて低交換率だったので持ち玉で長く遊べるような本当の娯楽に戻ろうとしていました。現に1パチが登場してスリープユーザーが戻って来たりして、遊技人口が増えました。本気で娯楽に戻したいのなら警察行政は二物二価も、三物三価も認めるべきです」(ホール経営者)

このまま一物一価を遵守していればホール経営は破綻してしまう。そんな危機感が大阪を二物二価に走らせたのだ。

 

道頓堀はインバウンド客が蒸発してから、通りの活気はなくなり閑散とした雰囲気に

 

パチンコは35玉交換で回すようにしてアウト稼働が上昇

二物二価に踏み切った数少ないホールの1軒を突撃取材した。総台数は300台クラス。市街地立地でほぼ地元の固定客によって支えられている。

二物二価に切り替えたのは11月5日から。パチンコは従来の28玉から35玉交換、パチスロは5.6枚から5.1枚交換へ変更した。パチンコは遊べる営業を心掛け、パチスロは抑制された射幸性をカバーするためにより等価に近づけた営業戦略を取った。

交換率変更から3週間が過ぎた時点で、どのような変化が見られたのか。
「コロナ前は勝負に来ているお客さんが多かったんですが、コロナ禍では遊びたい、というお客さんの方が増えていました。つまりローリスク、ローリターンを求めるお客さんが増えていました。交換率を35玉に変更してからは『遊びやすくなった』という声が増えましたね。以前に比べて損益分岐割数が格段に上昇したので、店としてもその分還元できます。お客さまも遊べるようになり遊技時間は15~20%確実にアップしています。週1回しか来なかったお客さんが週2~3回来店するようになったのも大きな収穫です」(店長)

稼働時間が延びる分、玉単価は若干下がるが、売上は微増というところだ。しかし、アウトで見ると安定してきているという。
35玉交換ということは14割分岐営業ができる、ということだ。

「30玉は最初から除外で、33玉か35玉かで随分悩みました。等価の25玉の時は33玉が理想とされていたけど、現在は28玉交換なので、33玉交換にするよりも35玉の方が正解なのではないかと思っていましたが、やはり35玉の方が正解でした。実際、やってみて35玉の方が良かったと思っています。14割分岐の方がメリハリの効いた営業ができます。等価では出過ぎたらビビりますが、35玉なので出過ぎてもさほど恐れることはなくなりますしね」

パチンコ、パチスロ共にスペック的にハイリターンが望めない状況で、客のローリスクを考えるのなら、売上の上がらない1円パチンコよりも4円で35玉交換の方がアウトは上がるようだ。

 

大阪・ナンバの象徴的グリコの看板を背景にする通称・ひっかけ橋の人通りも師走の慌ただしさはない

 

低価交換のネックになる貯玉再プレイの手数料

パチスロは等価、パチンコは33~35玉交換が理想とされている。実際に35玉交換でアウトが上がるようになったようだが、ここでネックになるのが貯玉再プレイの手数料問題だ。
2012年4月の警察庁通達で再プレイの手数料を取ることは「遊技玉を金銭として扱うもので、実質換金行為を行っている。貯玉再プレイシステムの利用権を提供することについても、風適法に違反する」と見直しを迫られた。

等価交換なら再プレイ手数料は問題にならないが、28玉交換なら3玉、35玉交換となると10玉の差額分のホール負担が発生する。再プレイ手数料が取れないとなると低価交換よりも大手の様に等価交換へと近づいていくことになる。

低価交換で手数料を取らないとどういうことになるか?
例えば昔の40玉交換の場合、100円で25玉を貸し出して、交換時は40玉で100円になる。ホールには40玉-25玉=15玉分の換金差益の60円が収益となる。40玉分160円を再プレイで手数料を取らないと60円分ホールが損することになる。

しかも、再プレイで遊ぶ客と現金で遊ぶ客とでは手数料を取らなかった場合、60円分の差があるということだ。有利に遊べる客と不利になる客との差が生まれる。現金客は有利に遊ぶ貯玉客の負担をしていることにもなる。
手数料を取らないということは、公正、公平の原則が崩れるだけでなく、不利な客はパチンコから足を洗っていくことになる。

貯玉再プレイについてはユーザーも否定的な見方をしている。
「このシステムは、専業がアツい日だけ来るか、平日にハイエナをすれば、お金を使わずに出玉を増やせるんですよ。複数人で毎日複数ホール回るだけ。貯玉でおカネを使わない=売上が上がらない。売上にならない専業にひたすら出玉を提供するシステム。それが貯玉再プレイです。その分普段来るお客さんには負けてもらわないといけません。これが良いシステムだと思いますか?」

中国地方から14年前に大阪市内に出店したホールは、上述したような理由から貯玉再プレイを導入していない。
「ウチが4円、20円が強いのはグランドオープンした時から貯玉再プレイシステムがないからです。ウチは28玉交換ですが、お客さまには『再プレイされるたびにウチが3玉分損しているんですよ。この3玉分の差が1年積もり積もると営業利益も立たないので、遊ばせることも設定を入れることもできません』と説明すれば、大抵のお客さんは貯玉再プレイシステムがないことを納得してくれます」(店長)

低価交換で手数料を取るな、というのであれば、現状では貯玉再プレイを使わないことも選択肢の1つだ。その方がホールにとっても売り上げが上がる。

警察行政は業界の仕組みが分かっていないだけでなく、パチプロの行動も分かっていないから杓子定規の行政指導を行うことになる。手数料を取ってもいいことになれば、低価交換はもっと普及する。

今後のホール経営の生き残りを賭けて、大遊協は大英断で10.2割営業と二物二価に踏み切ったが、現状では静観派が多数のようだ。撤去が始まる今年になって大きく動き出すのかもしれない。

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