コロナの爪痕とニューノーマルへの対応

2020.12.08 / 新型コロナ

日本中に深刻なダメージを与え続けている新型コロナウイルス。
今年2月、パチンコ店に1人の感染者が立ち寄った事例を皮切りに、業界史上で類を見ないほどのダメージを与えてきた。
コロナ禍に明け暮れた2020年を振り返る。


未曾有の危機で加速するホールの淘汰と業界改革

パチンコホールでは現在、第3波がもたらすクラスター感染対策を行いつつ、ニューノーマル(新たな生活様式、行動や思考の変化)に対応しながら、生き残りを模索していかなければならい。

そこで本稿では改めてこの1年、コロナがホールにどのような影響を与え、その間にパチンコ業界はどのような対策を講じてきたかを振り返り、さらにはウィズコロナ時代を生き抜くためのホール企業のあり方を探る。

店名公表で吹き荒れたパチンコバッシング

今年2月17日、新型コロナウイルスの感染者が立ち寄ったことが判明した和歌山県内のホールは、翌日から2日間の臨時休業を余儀なくされた。
この第1報以降、パチンコ業界にもコロナの影響が急速に広がり、ホールはマスク着用や消毒などの感染対策とともに、時間短縮営業や臨時休業を迫られた。業界団体も組合員への注意喚起や通達、予定していた会合の延期など緊急対策に追われた。

そうした中で、政府や自治体が動き出す。2月末から学校を全国一斉に臨時休校し、避けるべき場所として換気が悪く、人が密集するスポーツジムや屋形船、雀荘などを挙げた。
これに疑義を唱えたのが立憲民主党の早稲田夕季議員である。3月6日、同議員は内閣委員会で「高齢者が長時間いるパチンコ店も休業についての働きかけを考えるべきでは」と質問。武田良太国家公安委員長(=当時)が「多くの業界が減収減益という多大なダメージを被っている中で、民間企業の営業に対する介入には限界がある。警察庁は感染拡大を防止する環境づくりを各営業所に徹底してもらうため予防措置の充実を求めている」という趣旨の答弁をした。

その後、新型コロナの感染拡大が深刻化、4月16日には緊急事態宣言に至り、それに伴う特別措置法による協力要請を受けて、全国約98%のホールが最長で4月中旬から5月下旬まで1カ月半に及ぶ休業に入った。

しかし、一部のホールが休業要請に従わなかったことから、4月24日、大阪府の吉村洋文知事が店名を公表。全国で初めて休業要請に従わなかった店舗が公表されたことに加え、パチンコ店という業種に限っていたこともあって広く社会の注目を集めた。
さらに、27日には西村康稔経済再生担当相が「休業指示に従わない事例が多発すれば、法改正で罰則規定を設ける考えがある」と発言し、ホールへの風当たりはいっそう強くなった。

休業要請に応じないパチンコ店を全国に先駆けて公表した吉村大阪府知事。

 

コロナ禍で勝ち取った2つの「救済措置」

休業協力要請のスケープゴートともいえるパチンコバッシングの中で、4月上旬から業界団体も時々刻々と変わる事態に合わせて対応を進めている。中でも全国で最多の感染者を出した東京都内で活動する都遊協は組合員に対し、「休業要請を原則として遵守するように」(10日付)から「改めて速やかに休業する判断を」へ、さらに24日付では「セーフティネット等の公的融資の対象業種に遊技場が加わる」ことを示唆した上で、「25日以降の営業継続は組合理念に反するため除名手続きを検討する」と最後通告を出すに至っている。

この通告どおりセーフティネット保証については4月24日、中小企業庁がパチンコ店も指定業種に追加した。
これにより、全国にある信用保証協会の保証の下で、任意の金融機関に多額の融資を無担保で申し込むことができるようになった。パチンコ店にとっては休業期間中の固定費や遊技機などの支払いに係る費用として最低でも数千万円、場合によっては億単位のカネが必要となる。
ホールは長年、このセーフティネット保証の対象業種から除外されていたが今回のコロナを機に、業界関係者らが政治家や行政に働きかけて勝ち取ったのだ。これは返済義務のない補償ではなく保証であり、あくまで借入れであるがコロナ禍における業界団体の大きな功績といえる。

4月24日、中小企業庁は「セーフティネット」の対象業種を拡大し、パチンコ店も加えた。

そして、勝ち取った功績はもう1つ。旧規則機の経過措置期間の延長がある。警察庁は5月20日「改正規則附則の改正」を施行、これにより旧規則機の経過措置期間がすべからく1年間延長されたのだ。

しかし同日、パチンコ・パチスロ21世紀会が「旧規則機の取り扱いに関する決議内容」として、国が定めた規則の期限よりも短い撤去期限を示し、ホールに対して決議遵守の「誓約書」の提出を求めた。
その背景には、「今回の規則改正は、業界側が提示した自主的な撤去(=21世紀会の決議内容)を計画的に行うことが前提条件となっている」ことがある。つまり、行政との信頼関係の上で成り立っている取り組みをしっかり行うか否か。それが業界の将来を左右することになるのである。

この決議を完遂するために、遵守しないホールに対しては「組合員・会員の資格停止などの措置」や、「新台販売や部品供給などの取引で不都合が生じる可能性」「中古機流通に関わる確認証紙の留保」などのペナルティーが組合・団体によって与えられる。

さらに、決議の遵守状況を確認し、違反を見逃さないために通報確認システムの運用を10月19日からスタートさせている。

前述した5月20日の旧規則機の取り扱いの決議と同時進行で進められたのが、21世紀会が5月14日に制定した「パチンコ・パチスロ店営業における新型コロナウイルス感染症の拡大予防ガイドライン」である。

このガイドラインはホールが休業から再開するにあたり、ファンに安全・安心な遊技環境を提供するとともに、心ないバッシングに再びさらされないための取り組みが細かく記されている。
それはコロナと共存しながら、社会の中で存続していくための新しい指標ともいえる。

(左)遊技客が店舗に入店する際にはマスクの着用のお願いとともに、検温を実施し37.5度を超えていないかチェックするホールも増えている。
(右)コロナ休業明けのホールでは1台置きに稼働をストップする間引き営業も多かった。最近では客が遊技を止めた後に消毒済みの札を掲げるケースが目立つ。

今回、世界中の誰もが経験したことのない状況の中で、業界団体も個社個店も企業と社員、ひいては業界を守るために決断し、かつ行動した。そうした中で、閉店や廃業を決断したホールもあるし、これから店を閉じることになるホールもあるだろう。

コロナ禍におけるニューノーマル(新しい生活様式)下では、人々のライフスタイルが変わり、働き方が変わり、既存のビジネスモデルが解体・再構築される。もちろんパチンコホールも例外ではなく、そこで求められるのはトライ&エラーの繰り返しによる変化への迅速な対応である。

戦後75年続いた業界において、史上初となる1カ月以上の休業を経て、再開したホールは感染症予防対策、集客・稼働回復、資金繰り、パチンコバッシングなどさまざまな課題を突きつけられ、対策を進めている。
それでも個店だけでは対応できない厳しい業況の中で、業界団体もまた政治や行政との交渉、政策提言、ファン人口減の歯止めや社会的認知に向けて団結を強め、改革を進めている。

ホールも組合もスピード感を持って変化に対応しなければ、業界存続も危うい。コロナ禍はそんな危機感を業界人に再認識させた。

新型コロナとパチンコ業界の動き
(新型コロナ発生から緊急事態宣言終結まで)
2019年12月 中国武漢で新型コロナウイルス感染症が発生。
2020年2月18日 和歌山県有田市の「123ライト有田店」へ感染者の立ち寄りが判明し休業。
27日 警察庁保安課がパチンコ・パチスロ産業21世紀会に対し、新型コロナウイルス感染防止対策措置を依頼。
28日 全日遊連、日遊協が遊技機のハンドルやボタンなどの消毒と、広告宣伝自粛などホールに配慮を求める文書送付。
北海道・鈴木知事の緊急事態宣言を受け、「ひまわり」が道内30店舗で29日(土)と3月1日(日)に休業。
2020年3月5日 北海道5方面遊協が3月9日から19日までの11日間、2時間以上の営業時間短縮などを求める。
6日 立憲民主党の早稲田夕季議員が「パチンコ店の休業についての働きかけを考えるべきではないか」と質疑。
7日 大阪府堺市「ザ・チャンス8」に感染者の来店が判明し臨時休業。
10日 菅義偉官房長官がパチンコ営業についての質問に「警察庁から業界に対し、遊技機ハンドルの消毒など感染防止措置を要請している」と回答。
全日遊連が広告宣伝の自粛を含めた適切な対応を要請。
13日 全日遊連が広告宣伝内容への配慮を改めて要請。
14日 都遊協が希釈して使用する消毒液を組合員全店舗に配布すると発表。
19日 全日遊連が広告宣伝の自粛などの再徹底を改めて要請。
24日 大阪府和泉市「マルハン和泉店」の業務委託先清掃員が陽性と発表。
26日 小池百合子都知事の3密回避要請を受け、都遊協が組合員に広告宣伝自粛など3項目の完全実施を求める文書を発出。
31日 警察庁がパチンコ店の3密の可能性を指摘する文書を通知。
都遊協が開店前に客を並ばせない施策の徹底を要請。
2020年4月4日 都内のパチンコ店250超が週末、4日を臨時休業。
7日 東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県に緊急事態宣言。東京、大阪などで組合が営業自粛を要請。
8日 日遊協が会員企業に対し営業時間短縮および休業などの検討を要請。
全日遊連が遊技機購入代金の支払い期限の猶予などを日工組、日電協に求める。
10日 小池都知事が特措法24条に基づく緊急事態措置でパチンコ店も「休止を要請する施設」に。
日遊協が会員に都の休業協力要請に応じるよう求める。
13日 緊急事態宣言が出された地域で開店前の行列や、他県から来店している報道がなされたことから全日遊連が行列対応を要請。
16日 緊急事態宣言が全国に拡大。
18日 大遊協の特殊景品流通を行う大和産業が「当面の間、賞品の集配業務および交換業務を停止する」と通達。
24日 大阪府が休業要請に応じないパチンコ店6店舗を公表。その後他県へも拡大。
2020年5月4日 緊急事態宣言31日まで延長。東京など13都道府県が「特定警戒都道府県」に。
8日 都遊協が小池都知事に休業要請解除の要望書を提出(2回目は22日)。
9日 セーフティネット保証の対象業種にパチンコ店が加わる。
14日 緊急事態宣言39県で解除。東京など8都道府県は継続。
21世紀会が「パチンコ・パチスロ店営業における新型コロナウイルス感染症の拡大予防ガイドライン」制定。
25日 緊急事態宣言が終結。最後まで残された5都道県のホールが再開。
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