大遊協は11月1日から特殊景品のアイテムを増やし、事実上二物二価が可能になる営業ルールに変更した。併せて、景品買取りの手数料の見直しを行い定額制にして、コスト削減を図る。
特に二物二価は過去に警察庁がNGを出していた経緯があり動向が注目されている。
大遊協の三店方式で特殊景品を扱う大遊協商事(岩田孝夫社長)から「商品の市場価格調査の実施について」と題する1枚のFAXが大遊協の組合員ホールに流れたのは、10月6日のことだった。
FAXの中身を要約すると大遊協商事が取り扱う商品にあってもコロナ禍で著しく影響を受けているとして、「一般小売の販売価格である市場価格が変動している。ホールが適切な営業を行うためには、現況下での市場価格を調査し、ホールに伝える必要があるために、近々現状の市場価格調査を実施する」との内容だった。
調査の結果、100円で仕入れた商品の市場価格は102円~153円となった。
過去、2011年8月の時点でも同様の調査をしている。この時は112円~168円であり、市場価格を特殊景品の交換率に照らし合わせるとパチンコは28玉~42玉、メダルは5.6枚~8.4枚となった。
今回の調査で判明した市場価格に合わせることでパチンコは25.5玉~38.3玉、パチスロは5.1枚~7.7枚の範囲でホールが選択できるようになる。10.2割分岐営業が可能となり、より等価に近い交換率の選択ができるようになった。
また、特殊景品のバリエーションを増やした他、新たに景品自動払い出し機に対応する3ミリ景品も導入され、新たな交換率を選択できる営業が11月1日からスタートした。
2011年の調査は、前段として大阪府警から1000円相当の賞球玉を1000円(仕入原価)の賞品と交換することは、業界でいう「いわゆる等価」で射幸心を著しくそそるものと思われ、「風適法違反の疑いがある」と〝業界等価〟を是正する指導によって行われた。
加えて一物一価の指導に則りパチンコ28玉、パチスロ5.6枚の11.2割分岐営業が主流となった。
当時、全国に先駆けて大遊協が脱等価営業に舵を切ることになる。
では、今回の交換率変更の狙いは何か?
「射幸性が抑えられた6号機は今以上に等価に近づけ、パチンコは回すためにも30~35玉交換が理想。そのためにはそれぞれの交換率の景品が必要で、そのために特殊景品の種類が増えた。また、3mm景品なら従来の特殊景品より随分コンパクトになり、大和産業の配送業務もこれまで1日2回行っていたものが1回で済み、配送コストの削減が図れる」(ホール経営者)と明かす。
つまり特殊景品の種類を増やし、パチンコとパチスロの交換率を変えることをホールが選択できるようになったということだ。
一物一価の指導が徹底され、多くのホールはパチスロの等価に合わせてパチンコも等価を選択した。等価営業の辛さはユーザーの離反を招き、ホール経営を疲弊させた。
この反省から大遊協がホールの生き残りを賭けて選択したのが二物二価である。
警察庁が一物一価の徹底を指導し始めたのは2011年10月、生活安全局の玉川達也課長補佐時代にさかのぼる。
余暇進が同年11月14日、東京国際フォーラムで開催した秋季セミナーで玉川課長補佐は次のように講和している。
「パチンコ営業の実態を把握する中で、同じ賞品でありながら、遊技球の数量に対応する金額と遊技メダルの数量に対応する金額との間に差異が設けられたり、遊技料金により遊技球および遊技メダルの数量に対応する金額に差異が設けられているなど等価交換の規則に抵触しているのでは、と思われる話を聞くことがしばしばあります。賞品は市場で流通するものでありますので、その価格に一定の幅があることはあり得るとしても、1つの店舗内の同一賞品について、対応する遊技球や遊技メダルの数量に差が生じるというのは、筋の通らない話となります。このように不適切な提供行為が一部において常態化し、そのような実態を半ば慣習的に受け止める業界文化が根強く存在し続けるようであれば、大衆娯楽としてのあるべき姿から大きくかい離することとなると考えておりますし、遵法営業者の間だけでなく遊技者の間にも不公平を生む結果となり、社会的信頼の喪失だけでなく、遊技客全体の減少にもつながるのではないでしょうか」(下線は編集部による強調)
ここから一物一価の指導が徹底され、一物二価、一物三価はもちろん、二物二価、三物三価なども問答無用で一物一価の趣旨に反するとの見解を示してきた。
そして今回、大遊協は警察庁がNGとしてきた二物二価に踏み切ったわけだが、大阪府警からのお墨付きを得てはいないようだ。
「風営法には二物二価がダメとは書かれていません。今、ここでやらないとパチンコ業界を守れません。今回は賞品のアイテム数を増やしただけなので府警本部の了解を取る必要もありません。(二物二価について)ふたを開けてみないと大阪府警の反応は分かりません」(大遊協関係者)と綱渡り状態のスタートである。
そもそも一物一価の指導が強化された時から二物二価を求める声はあった。
「1つの賞品に2つの値段を付けるのはおかしなこと。一般の商売でも1つの商品に2つの値段をつけないのと同じことで、風適法を抜きにしても一物一価は当たり前の話。一物二価がダメなのだから、二物二価、三物三価にすればすべてが解決すること。パチンコとパチスロの交換率を合わせることに悩むこともない。パチスロ専用、パチンコ専用、1パチ専用の賞品にすれば、これは一物一価の原則にも適っている」(中堅ホール社長)
長年、大阪の三店方式の景品買取業務を担っていた一般財団法人大阪障害者母子寡婦福祉協議会が経営破綻したのは昨年10月末のことだった。
「福祉の収入源は景品買取する時の手数料収入だけ。一方の支出は交換業務の出納員の給料などだったんですが、消費税が10%に上がったことでトドメを刺された。いよいよ消費税を支払えなくなったことが経営破綻した理由です。経営が逼迫しながらも上層部は改革に取り組むこともしなかった。ホールからの手数料の引き下げをお願いしても、出納員の労働組合も強く、2011年には当時の時給1010円から1100円への賃上げを求めてストライキを起こしたこともあります」(大阪市内のホール経営者)
経営破綻した福祉協議会に代わって買取業務を担うために設立されたのが大阪就業支援協会だ。昨年5月ごろから徐々に大阪就業支援協会へ切り替え、同年11月1日に思い切って全面的に同協会への移行がなされた。
大阪就業支援協会の切り替えを終え、落ち着きを取り戻してきたところにコロナ禍である。ホールの業績が落ち込む中、支援協会も手数料の見直しを迫られていた。
「大阪福祉防犯協会の加盟ホールが使っている三本コーヒーと手数料は合わせることになりました。その結果、定額制で約70万円に抑えられることになります」(支援協会関係者)
これまでは1日の基本手数料(1万8600円)+買取マージン(100円で30銭)が発生したが、買取マージンが廃止され、基本手数料は2万3000円×30日=69万円の定額制となった。
一見、手数料が下がることはホールにとっては歓迎されるべきことだが、実際はそうでもない。
「ウチのように売り上げが少ないホールにとっては、月額で5万円ほど値上げになります。定額制になれば売り上げの大きい大手は優遇されますが、1日240万円以上の仕入れがないウチのように小さな店はマイナスです。小さいところが集まって大きいことをするのが本来の組合の姿なのにこれでは弱い者イジメです。組合に入るメリットはありません。大和産業がコロナで配送を停止した時も大遊協を脱退しようかと思ったほどです」と単店店長は吐き捨てる。
基本手数料を下げた本当の理由はもう1つある。
新型コロナウイルスで緊急事態宣言が発令された時、大遊協はいち早く組合員に休業要請を出した。全ホールが足並みをそろえるために、特殊景品の配送業務を担う大和産業が従業員の感染防止のためとして、一時配送業務を休止した。特殊景品なしで営業を強行したホールがあったが、この時の組合執行部の強硬姿勢がしこりとなって、大遊協を脱退する中堅ホール企業もあった。
さらに、以前から福祉協議会のマージンの高さに不満を抱いていた大手ホールが組合を脱退することをほのめかし始めた。
大手が脱退すれば、それに続くホールも出てくることが懸念されたために、大阪府下のもう一つの遊技組合である大阪福祉防犯協会のマージンに合わせる必要が出てきた。
「大手ともなるとマージンで年間数億円の違いが出るといわれています。銀行監査でそれを指摘され、組合脱退を考えるようになったようですが、防犯協会並みに下げたので、脱退することは思い止まってもらいました」(大遊協関係者)と打ち明ける。
では、大遊協からは「非組」と呼ばれる大阪福祉防犯協会は、今回の二物二価や手数料の引き下げにはどう考えているのだろうか?
「手数料は同等になったので動く必要はないと考えていますが、ウチに二物二価がないことは組合員にとってはデメリットになる。二物二価に追従できる準備は進めていきます」
ただ、ホールにとって二物二価はありがたい営業施策かといえば、一概にはそうともいい切れない。
「大阪府警本部の許可が出ていないものは怖くてできない。ウチのような10店舗クラスは警察からも狙われやすいのですぐには動かない。しばらくは様子見」(ホール企業社長)
取材は交換率が変更される11月1日以前に行っているので、そういう返事にならざるを得ないホールも当然出てくる。
いずれにしても、影響力のある大遊協が二物二価に踏み切ったことは、全国に波紋を広げることとなるだろう。