SEX依存のメカニズム 〜パチンコ依存との共通点は?〜

2020.11.10 / コラム

誰もがうらやむ美女を妻に持ちながら、複数の女性との肉体関係を持ち続けた渡部建、東京五輪の金メダル候補で爽やかなイクメンパパを装いながら、SEXフレンドとの快楽に溺れた瀬戸大也。
不倫発覚とともに彼らは金銭的にも、社会的にも膨大な代償を支払うことになった。

失うものの大きさを知りつつも、やめられない。現代社会を映し出す病巣、SEX(性)依存が増えているという。
※正式な診断名は「性嗜好障害」ですが、本稿では便宜的にSEX依存または性依存と表記しています。


「わかっちゃいるけどやめられない」病気

「アメリカ史上最も成功した現役で活躍するスポーツ選手」と評されるタイガー・ウッズ。2009年の不倫スキャンダル発覚後、愛人が次々に名乗りを上げて大きな騒ぎになった。
この時、「SEX依存症(性依存症)」の疾患にかかっていることが明らかになり、その病名が一躍世界に広まった。ウッズは治療のためにリハビリ施設へ45日間入所、約820億円の慰謝料を支払った。

騒動から約10年の時を経て「僕はウッズ病」と遊び友だちにうそぶいていたのが、多目的トイレ不倫男のアンジャッシュ・渡部建である(週刊女性PRIMEより)。その乱倫ぶりは有名で、今回のスキャンダルも「さもありなん」というのが周囲の反応のようだ。
渡部は1億円超の年収が一転、無収入になっただけでなく、レギュラー番組やCMの損害賠償額は3億円以上になるといわれている。

一方、子どもを保育園へお迎えに行く前のわずかな「スキマ」を利用して、CA美女と白昼に快楽の時を過ごし、週刊新潮に「メドレー不倫」と報じられた瀬戸大也。
日本水泳連盟から年内の活動停止処分を受けて、必然的に下半期のスポーツ振興基金助成金も停止。五輪競泳選手団主将も辞退した。また、スポンサー契約やCM契約など主な収入源を失うとともに、違約金が請求される懸念も指摘されている。

この2人をSEX依存と断じるには専門家による正式な診断が必要になるだろうが、著名人であるほど社会的非難を浴び、失うものは大きい。そんなリスクを冒してでもやらかしてしまう。
「わかっちゃいるけど、やめられない」―それが依存症の特徴なのである。

 

SEX依存者特有の感性と「認知の歪み」

WHO(世界保健機関)は依存症について「ある快感を覚えた特定のものごとを繰り返し行うことによって、さらなる刺激がほしくなり、他のことに優先してそれをせずにはいられない、しないことが耐えがたい状態」と定義している。

また、WHOは国際疾病分類(ICD)を発表しており、その中でセックス依存症・性依存症の正式名称は「性嗜好障害」である。
性嗜好障害とは特定の性行動(不倫、痴漢、盗撮、のぞき、小児性愛、サドマゾなど)がやめられない、売買春など不特定多数の人間とSEXをする、風俗通いなどがやめられず金銭的に困窮している、強制わいせつ罪や迷惑防止条例違反といった法に触れるような行為を常習的に行うなど、性的行動のコントロールが効かなくなる状態のことを指している。

この性行動を見ると分かるようにSEX依存患者は職を失ったり、家庭崩壊を招いたりするだけでなく、犯罪者になる可能性も高い。不倫であれば、一般人なら当事者と不倫相手、配偶者の3者間の問題であり、話し合いで解決することもあるだろうし、離婚や慰謝を払うことで片がつくこともある(もちろん相手方は心に傷を負うが)。しかし、痴漢や盗撮、のぞきを繰り返す、さらには強姦に至ればいずれ逮捕され、刑務所に服役することになりかねない。

「やめられない人々〜性依存者、最後の駆け込み寺レポート」(榎本稔著)によれば、犯罪になる性依存行動中で最も多いのが痴漢で全体の半数を占めているという。
同書では会社でのストレスなどから100回以上痴漢行為を繰り返し、強制わいせつ罪で逮捕された35歳の男性Aさんの事例を挙げている。

そこには、著者が経営するクリニックの精神科を受診したAさんが「恥ずかしい行為をしたことは分かっているが、罪悪感はほとんどなく、自分が性依存症である意識はまったくなかった」ことや、「女性たちは無抵抗で、Aさんは『相手も喜んでいる』と思い込んでいて、被害女性たちが実は恐怖で金縛り状態になっているのだが、それに思い至らない」こと、「一種のゲーム感覚でやっていた」ことなどから、「性依存症という病気(診断名は性嗜好障害・接触症)」であるとともに、罪悪感もなく、ゲーム感覚で痴漢行為を繰り返していたことから「反社会性パーソナリティ障害」の診断を下している。

また、こうした性犯罪者には性依存症特有の「認知の歪み」が見られ、「なぜ盗撮しただけで刑務所なのか」と第三者へ責任転嫁したり、「ミニスカートなど露出の多い服を着ている女性は、痴漢されても仕方ない」「触れたからといって何かが減るわけではない」など依存行為を正当化するための身勝手な言い分を主張するという。

そして、厄介なのがその言い分がその場逃れの言い訳ではなく、当人は心からそう信じて言っていること。
つまりそれが「心の病気の証」なのである。

 

「行為依存」の典型だが多くは他の依存と重複する

前述したWHOによる依存症の定義にある「ある快感を覚えた特定のものごと」、つまり「依存する対象」は大きく次の3つに分類される。

  1. 物質依存」……ある物質を飲んだり、食べたりして、体の中で引き起こされる変化や快楽によって、その物質に執着、依存すること。例:アルコール、薬物、タバコ、睡眠薬、カフェインなど。
  2. 行為(プロセス)依存」……ある行為の始まりから終わりまでの過程で得られる快感に執着してしまうこと。例:ギャンブル、パチンコ、買い物、性(SEX、この10年で急増)、ゲーム、インターネット、スマホなど。
  3. 関係依存」……特定の人間関係に強く依存すること。例:共依存、恋愛、児童虐待、DV、ストーカー、ひきこもりなど。

SEX依存は行為依存の典型とされ、行為に快感を覚えて繰り返さざるを得なくなり、何度も逮捕され、服役しても、出所後にまた手を出すという重度の依存症も多くいる。
また、SEX依存は人間関係に執着するという意味で、関係依存に含むこともできるし、下着やハイヒールなどの特定の品物に執着する例もある点では物質依存ともいえる。

「依存症の対象となるものは、実際には明確に分類できるものではなく、境界線はあいまいで、しかも両方にまたがっているケースが多いのが実情です。その端的なものが性依存症です」(「やめられない人々」より)ということなのである。
 

回復はあっても完治はない現代社会が生んだ心の病

また、同著は「ギャンブル依存症やアルコール依存症が以前からあったのに比べ、性依存症はここ10年ほどで急増した現代病」とも指摘している。

WHOが調査した「5大傷病別の患者数推移」(図表1)によれば、糖尿病やがんよりも精神疾患ははるかに多く、それは日本にもそのまま当てはまる。「精神疾患にはさまざまあるが、近年ではうつ病や発達障害の患者さんが増加し、それに比例するように依存症の患者さんも年々増えてきている。依存症が現代病であるという根拠は、時代の変化とともに依存症のタイプや数も変化しているから」と同著は指摘する。

 

その上で、日本の高度経済成長期にはアルコール消費量の急増とともに、アルコール依存者も増加。生活が豊かになるにつれ、ギャンブル依存症が目立つようになり、成熟社会になった現在は心の病である精神疾患が増えているという。
そして、その背景にある高度化・多様化した社会が作り出すさまざまなストレス、人間関係の希薄化、核家族化や少子化、男女関係の変化などからの解放や逃避、癒しを求めていることが依存につながっているとも。

図表2は著者のクリニックを訪れた人たちをサンプルにしたグラフだが、この10年で急増していることや依存行動の内訳(これらの人たちには、何度か繰り返したあげく、逮捕された例が約78%を占める)、性依存者の素顔は働き盛りの30〜40代の会社員であることが分かる。

 

ごく普通の人たちがある時、何かをきっかけに自己制御できなくなる状態に陥るSEX依存。
そんな心の病を患ったら「まず専門医に相談する。そして、患者を依存対象から遠ざけ、認知の歪みを正していく治療法が効果的」(同著)としている。また、SEX依存には「回復はあっても完治はない。唯一できるのは、やめ続けることだけ」といわれる。その理由は、個人のパーソナリティー(性格)に深く関わっている病だからである。

完治はなく、治療を続けることだけが回復につながる心の病。治療継続のためには、家族や友人が寄り添い、支えていくことが不可欠だ。
不倫により社会的なバッシングと多額の金銭的損失を受けながら、それでも夫を見捨てず、共にイバラの道を歩もうとする妻の誠意は渡部、瀬戸の両人に伝わっているだろうか。

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