女帝 -小池- と 策士 -吉村- の大罪【吉村洋文】

2020.07.13 / コラム

日本中の人々を不幸のどん底に突き落とした新型コロナウイルス。
ある人は命を落とし、ある人は高熱に苦しみ、多くの人たちが感染に怯える日々を送る。経済は大きく落ち込み、失業者が増えて消費も悪化している。

未曾有の事態をバネに、名を上げ得をした2人の為政者にスポットを当てた。

 


店名公表で敵を作り政治目的に利用する宣伝策士

パチンコ業界を攻撃した政治家たちの東の横綱が東京都知事・小池百合子であるならば、西の横綱は大阪府知事・吉村洋文をおいて他にはいない。

世間から高い評価を受けた若きリーダーも、パチンコ業界から見れば「所詮は小池も吉村も同じ穴のムジナ」である。
本稿では、その西の横綱のやり口と真意を暴く。

 


コロナ対策で支持率1位!? 行動発信する若きリーダー

未曽有のコロナ禍において、歯切れのいい物言いで、府民に向けた分かりやすいメッセージを出し続け、大きく支持率を伸ばした政治家・吉村洋文。毎日新聞の世論調査においても、新型コロナウイルス対応において、国民の評価は小池百合子を凌いで日本のトップである。

日本で感染が広まる前の1月には、関西国際空港から入国する外国人に災害備蓄用のマスク10万枚を無料配布したことから始まり、緊急事態宣言以降はSNSを通じた積極的かつ具体的な情報発信、「大阪コロナ追跡システム」の構築や休業要請解除に向けた「大阪モデル7つの指標」、大阪城や通天閣、太陽の塔をライトアップし大阪の状況を視覚的に伝える手法など、スピード感と分かりやすさを兼ね備えた対策は府民のみならず多くの国民からの支持を得た。

一方で医療用防護スーツが不足した際には府民からビニール雨合羽を集めたり、大阪〜兵庫間の週末の往来の自粛を要請したり、はたまた他県の知事のリコール運動に賛意を示したりと、独断専行型の危うさも見受けられた。

「大阪モデル」の基準に沿い安全であることを示す緑にライトアップされた「通天閣」と、1970年大阪万博の象徴「太陽の塔」。
警戒中の赤→注意喚起の黄色→基準クリアの緑の3段階がある。

 

店名公表の悪しき前例で国民を欺いた確信犯

パチンコ業界が世間から槍の雨のようなバッシングを受けたきっかけを作ったのは間違いなくこの吉村知事である。
4月25日、吉村知事は府の休業要請に応じないパチンコ店の店名を公表した。これが悪しき前例となり東京都や他の県でもパチンコ店の店名が公表されていく。
吉村知事だけではなく、店名を公表した知事たちは口をそろえて言う。特措法45条に則って、と。ではその特措法45条とはどのような法文なのか。

コロナ禍における対策の礎となったのは「新型インフルエンザ等特措法」である。
問題の第45条の2~4は以下のような法文になっている。文字数が限られるので、法文の要旨を紹介する。

2.(緊急事態宣言が発布された地域の)知事は、ウイルスのまん延を防止し、国民の生命と健康を守り、国民生活の混乱を回避するため必要であると判断したときは、知事が定める期間、学校、社会福祉施設、興行場や多数の者が利用する施設の管理者に対し、施設の使用制限や停止を要請することができる。

3.施設管理者が正当な理由がないのに要請に応じないときは、知事は、ウイルスのまん延を防止し、国民の生命と健康を守り、国民生活の混乱を回避するため特に必要があると認めるときに限り、施設管理者に対し、当該要請に関わる措置を講ずるべきことを指示することができる。

4.県知事は、使用制限の要請や指示をしたときは、遅滞なく、その旨を公表しなければならない。

要するに、2は知事が危険だと判断した時は休業要請を出すことができるし、3は要請に従わなかった場合は「指示」に格上げすることができるし、4は要請や指示を出せば公表しなくてはならないというもの。
吉村知事(だけではなく他の知事も)はこの特措法に従って粛々と進めたと言い切るが、そこに政治家の欺瞞と嘘がある。

大事なポイントは、知事が危険と感じるほどに、パチンコ店は他の施設と比べて危険だったのか、ということだ。
あえて説明はしないが、そんな事実は大阪府どころか日本列島をひっくり返しても出てこない。法律が定める「知事が危険と判断した場合」という、法執行の大前提が知事の主観にまみれ、かつ何の根拠もないのだ。

 

 

吉村ゲッペルスの宣伝手法とその目的

パチンコ業界が怒っているのは、法の執行スキームを誤った知事の「無知」に対してではない。すべてを知った上で、特措法45条を盾にあたかも正しいことを行っているかのようにあえて世間を欺いたことに対してである。

ナチスドイツで宣伝のすべてを司ったヨーゼフ・ゲッペルスの言葉をここに引用する。
 「宣伝は誰に向けるべきか?(中略)宣伝は永久に大衆にのみ向けるべきである」
 「(大衆が)心の中で思っているであろう不満・疑問・欲望を遠回しに刺激し暴発させる」

これが世界を席巻したナチスドイツの宣伝の真髄である。このゲッペルスの宣伝手法は現代においても広告手法の「教科書」とも言われており、プロパガンダに優れた政治家であれば多かれ少なかれ参考にしている。まさにコロナ禍における「パチンコバッシング」は、このような政治宣伝の手法を用いて作りだされた。
ゲッペルスは言う。「宣伝は手段であり、目的を援助することに有効に適合していなければならない」と。

では吉村知事の目的はどこにあったのか。

ここには吉村知事の複合的な目的が巧妙に隠されている。
その最たる目的は、極限の不安状況において明確な敵を作り、それを徹底的に破壊することにより熱狂的な支持者を得ることである。またそれは自身へ向けられる非難や批判の矛先を変えることにもつながる。
その証明が、一時は頓挫した大阪都構想の住民投票再実施の動きである。コロナ禍により得た支持を、自身の政治目的の達成に向け利用する。またパチンコバッシングを利用し、大阪府のIR構想の立て直しを図ろうとする動きも彼の目的の一つだ。

 

吉村知事のTwitter。「すべてをかけて、大阪を前に。」というヒーローのようなキャッチが光る。
でも言っていることややっていることは、パチンコ叩き、IR推進でしかない。

 

吉村知事のコロナ禍における対策と成果についてまで批判するつもりはない。しかし、ことパチンコ業界に対する氏のやり口には到底賛同できない。
パチンコ店が他の施設に比べ危険な施設ではないと知りながら、しかし、首都・東京に対抗する慣習的な大阪の府民感情までも上手く利用し、パチンコを「悪の枢軸」かのように吊し上げ、結局のところ彼が満たそうとしたものは、政治家としての野心である。

悔やむべくはパチンコ業界の側に、彼のその野心を打ち砕くコンセンサスと宣伝戦略がなかったことである。

 

 

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