ウィズコロナ時代でも「遊び」は不可欠 〜苦悩する現場の声〜

2020.08.14 / コラム

特集
〝不要不急〟にかき消された
レジャー産業の声

「ウィズコロナ」「新しい生活様式」といったスローガンの陰で、「集まった人々に楽しみを売る」レジャー産業は危機的な状況に置かれている。今後はターゲットにされる業種の真価が問われる期間になっていくだろう。現場の視点から、多角的に迫っていく。


ウィズコロナ時代でも「遊び」は不可欠
〜苦悩する現場の声〜

政府は業種を名指しして施設利用の回避を要求。消費者はコロナ禍の不安の中で、自発的に遊びを控えている。

ーいま、レジャー産業は危機的な状況に置かれている。その現場を取材した。
これからのウィズコロナ時代、レジャー産業はどのような心構えでいるべきか。1つの問いかけが浮かび上がってくる。


その日、「繁華街」にいつもの賑わいはなかった

2020年7月15日、東京都の小池知事は緊急記者会見を開き、東京都が「感染拡大警報」を発するべき状況にあると述べた。新宿や池袋といった繁華街を中心に「第2波」との恐れもある感染拡大傾向が見られていたのを受けた措置である。小池知事は会見の中で、「経済活動を全面的に営んでいく」という現状を前提としつつ、「年齢層や地域、業態に応じたピンポイントの対策をとっていく」という方針を打ち出した。

具体的には、特に感染リスクが高いとされている、いわゆる「接待を伴う飲食店」での徹底的な検査の実施。さらにそれ以外の事業者に対しては、感染拡大防止のためのガイドラインを遵守し、さらに遵守していることを示す「感染防止徹底宣言ステッカー」の掲示を求めた。
他方、一般の消費者に向けては、「会食や飲み会の時には大声での会話を避けること」「ステッカーの掲示のない飲食店の利用を避けること」「厚生労働省の出した接触確認アプリ『COCOA』の利用」といった方法で自らを守って欲しいと呼びかけた。

自己申告でもらえるステッカーや聞き入れられる保証のない呼びかけが、新型コロナウイルスの感染力に対してどれだけ有効なのかは心許ない。施策を打ち出している行政サイドも、そんなことは承知しているだろう。
経済活動を行いながら、ウイルスも封じ込める。そんなことはそもそも、右を向きながら、同時に左を向くといような無茶なことなのである。

 

何カ月もの自粛が開けた時、歌舞伎町は残っているのか?

その日、小誌編集部は新宿・歌舞伎町にある中華料理店「湖南菜館」を訪れた。
かねてより交流のあるオーナーの李小牧氏に、新宿が感染の中心としてまるで悪者のように扱われている現状について意見を聞くためである。李氏はこのように語る。

「同じ大災害でも、3.11の時には新宿には人があふれていました。人と会っておしゃべりをする。そういったことで、皆が先行きの見えない不安を癒していたんだと思います」

たしかに、外に出て気晴らしに遊ぶということには、否定できないプラスの効果がある。社会が危機的状況にある時ほど、なおさらだ。しかし、今回の新型コロナの状況では必ずしもそうはいかないと、李氏も認めている。
感染は防がないといけない。社会的に必ずしも恵まれた立場ではない人が多く働く新宿で、実効力のある自粛要請を行うには、補償と罰則が必要であった。そういった施策があらかじめあれば、今感染が拡大することはなかっただろう。

その上で、それでも李氏は、人々が集って遊ぶ場、繁華街を守らなければならないと訴える。

「大人というのは子供なんです。24時間ずっと家に閉じ込められたら我慢なんてできないのが自然なんです。でも、見てください。このまま人がいないまま何カ月も自粛したら、さあ、『ワクチンができた。遊びに行こう』と思った時に、はたして歌舞伎町は残っているでしょうか?」

歌舞伎町のホストクラブ

 


壊滅寸前のレジャー産業 人々は楽しみを「自制」する

映画館、ライブハウス、ホストクラブやキャバクラ、カラオケ店など、利用客にお店に来てもらって、その場でエンターテインメントやアミューズメントを提供する、それをビジネスの核としている業界は軒並み壊滅的な打撃を受けている。
綜合ユニコムによる業種を横断した調査によると、50%近くの企業が5割以上の減収となっており、回復の兆しも見えていない。パチンコホールも大きな減収が続いており、コロナ前の水準には戻らないとも言われているが、この数字を見る限りまだ傷が浅い業界だと言えるだろう。

こうまでレジャー産業の売り上げが下がっている理由はなんなのだろうか。もちろん、政府や自治体の要請に応じて、多くの事業者がお店を閉めたり、席数や営業時間の削減を行ったから、というのも要因の一つだが、ほかにも重要な事実がある。
シカゴ大学のオースタン・グールズビー教授と、同僚のチャド・サイヴァーソン教授が全米経済研究所発行の雑誌に投稿したレポートによると、観測された客足の減少幅のうち、政府による行動規制が原因となったのはわずか10%程度であるという。新型コロナウイルスを恐れ、消費者が自発的に行動を変える、その効果の方が大きなパーセンテージを占めているのだと両教授は推測している。

政府による規制よりさらに強力なのは、人々の自制だ。その影響を最も受けているのがレジャー産業だと言えるだろう。必要な通勤や生活必需品の買い出しを「自制」することにはなんの意味もない(むしろそれによって生活が送れなくなるのであれば本末転倒である)が、自分の楽しみを「自制」することはできてしまう。
そんな「自制」の積み重ねが、人々に「楽しみ」を提供するレジャー産業を窒息させつつあるのである。

全国のレジャー・集客施設の運営企業を対象として、7月に行われたアンケートによると、ほとんどの企業で大幅な売上高減少が記録されている。先行きも暗いままだ。

 


「新しい生活様式」適応は決して特効薬ではない

「感染が怖いから」「自分が人に感染を広げてしまう可能性があるから」リスクのある場所には行かない。これは反論の余地のない正論である。しかし、今苦しんでいるレジャー産業の関係者にとっては、もどかしい気持ちを惹起するような正論なのではないだろうか。実際に現場で働いている方はどう思っているのか。

ライブハウスで働き、今は個人でイベントのプランニング業を手がけているK氏は「早い段階でライブハウスでクラスターが出ましたね。僕も個人でやっている以上、責任というものがどうしても負いきれないということがあって、2月後半ごろから今(取材時期は7月中旬)にいたるまで自分主催のイベントはひとつもやっていないです」と語る。

客席とステージの間に透明なビニールを設置したり、フェイスシールドの着用を義務づけるなどといった対策をとって行われているイベントもあるものの、興奮した観覧客に押し切られてしまい、対策の実施が徹底できないケースもある。有名俳優を起用したイベントでクラスターが発生した事例は記憶に新しい。

「パフォーマンスを行う場をオンライン配信にシフトしていく、というのがこれからの流れになっていくと思います。しかし、もともと知名度のあるアーティストはそれでいいのですが、ライブハウスくらいの小さな規模で草の根で頑張っていたバンドが配信をしても、結局見る人がそんなにいない、となったりします」

厳しい自助努力が強いられている中で、オンライン配信などといった新たな取り組みも始まっている。しかし、メディアでは光の部分だけが喧伝されるが、もちろん万能の解決策ではないのだ。


「働く子の矜持にも関わってくる」と、とあるメイドカフェ経営者はこぼした。

「自分たちの仕事が、最悪なくてもいいもの、世の中が大変な時には切られてもしょうがないものだという意識がついてしまうと、どうしても士気が上がらないですよね。私たちのところでも、シフトを減らして、そのままフェードアウトしてしまう子もちらほら出てきています。経営者としてなるべくポジティブな発信をするようにしているが、実際の所スタッフがどう思っているのかは分からないままです」


繁華街の雑居ビルで10席ほどの小さなバーを営む店主にも話を伺った。

「店に来る人のほとんどが常連であるようなこういうお店では、お酒やつまみというよりは、『人々が密に交わって、交流を楽しむ場』そのものが売り物になっていると言えます。休業要請には応じて、そのぶん給付金をもらいました。そんなに利益が出ているわけじゃない小さなお店なのでむしろそれまでより儲かったくらいでしたが、自分が営んで来たものがこの感染症ですべて否定されたような気持ちがしないといったら嘘になってしまいますね」


コロナ禍は人命や経済だけではなく、さまざまな業種で実際に働く人々の「誇り」まで奪おうとしているのかもしれない。

 


コロナ禍で問いかけられるレジャー産業の真価

「パチンコもそうですし、僕らのホスト業もそうですけど、日常生活の中で絶対に必要なものかといわれると、そうではない。けど、『職業に貴賎なし』というのも一方で事実だと思います」

新宿・歌舞伎町でホストクラブ6店舗を展開するSmappa!Groupの会長、手塚マキ氏はこのように語る。集団感染者の発生以降、ホストクラブはワイドショーの格好の標的となり、「歌舞伎町を封鎖しろ」と放言する者まで出た。

「これは個人的な考え方ですけれど、人間は知性と理性を持っている生き物です。文化に触れずに、人に触れ合わずに生きていくことには意味がないと思っています」

手塚氏はホストクラブも文化の1つであると考えている。確かにたまたまいまの社会では、文化として手厚く扱われるべきだという合意が取れている業種ではないかもしれない。しかしその上で、「誰かに必要とされているのであれば、当然存在する意味があります。いまこの社会にホストクラブがあるのは、そもそもそれまでの間ずっと必要だったからなんです」と力強く断言する。

「今まであった社会の中で仕事をしていることに対して堂々としているのは間違いじゃないと思います。感染リスクが高いということを受け止めて、どういう風にやっていくかだけを考えています」

Smappa!Groupのホストクラブ店内

新型コロナウイルスという未曾有の脅威にさらされた社会で、感染するリスクができるだけ少なくなるような行動を取るのは非常に大切な、推奨されるべき行為である。しかし同時に、レジャーを提供している業界は、過度に萎縮したり、自己を卑下してしまうようなことがあってはならない。

「ウィズコロナ」の社会で、ともすれば「自制」をすることが可能な、「楽しみ」を提供する営業。それを維持していくためには、自らが社会に対して何を提供しているのか、それにはどういった価値があるのかといった問いに答えられるようになっていなければならないのではないか。
新型コロナウイルスはレジャーやアミューズメントを扱う業界に1つの難問を投げかけている。もちろんパチンコ業界も、それに答えていくことが求められているのである。


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