親の介護のために新幹線通勤からのどんでん返し

2019.08.17 / コラム

ある週刊誌で新幹線通勤しているサラリーマンを取材する企画があった。その中に都内23区のホール企業に勤めるAさん(55)がいた。

Aさんは本社勤務で、親の介護のために軽井沢から新幹線で通勤していた。通勤時間は1時間半。うち新幹線に乗っている時間は1時間ちょっと。東京駅で山手線に乗り換えて会社へ出勤した。

1カ月の定期代は12万5000円あまり。もちろん会社が全額負担だ。この超高額の定期代は、2016年の税制改正によって、それまでは通勤手当の非課税額は10万円までだったものが15万円まで引き上げられたため、Aさんに差額の2万5000円に所得税がかけられることもなかった。

会社が12万5000円の新幹線代を支給するということはそれなりの役職に就いていた、と想像できる。ちなみに年収は1000万円。

2年あまり新幹線通勤が続いたが、今年の春Aさんは新幹線通勤をギブアップ。実家で介護していた親は結局施設に預けた。

Aさんは片道1時間半の通勤が苦痛でたまらなかった。新幹線なので座って通勤できるのだが、往復3時間あまり、毎日座っていることが苦痛に変わった。それまでは本社まで車で15分の場所に住んでいたので、通勤電車に乗ることもなかった。

加えて、奥さんが介護疲れと冬の軽井沢が嫌で、嫌でたまらなくなった。夏は避暑地としてうってつけだが、東京で育った奥さんには冬の軽井沢は堪えた。

軽井沢の標高は1000メートルほど。1、2月の平均気温は-3℃。10月にはストーブを焚きはじめ、3月まで続く。半年間は冬の様なものだ。

慣れない雪かきが日課で、凍結した道路を運転する怖さもあった。都会の便利さのありがたみが日増しに強くなり、ひと冬だけで奥さんは東京の実家へ帰ってしまった。

新幹線通勤を断念すると共に、今年4月に退職する。子供もいなかったので貯えもあったからだ。東京では奥さんの実家で暮らしているが、再び働きたくなり、復職を申し出たが、会社の答えはNOだった。正社員復帰ではなく、業務委託という形で給料も大幅に下がった。

おまけに毎日満員の小田急線で50分かけて通勤している。これならまだ新幹線通勤の方がましだった…とAさん。

親の介護から新幹線通勤となったが、最終的には1000万円の年収も棒に振る結果となった。親の介護問題は誰しもが直面する問題だ。






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