自分で飲食店を経営していたAさんが、店を畳んで再就職したのが都内の単店だった。初めて働くパチンコ店は居心地が良くて、気が付けば6年半も務めていた。
調理師免許を持っているAさんは、再びホームグランドの飲食業界へ再就職して数年が経った。
ところが、コロナ禍は外出自粛や飲食店がクラスターの発生源になっているなどとして、飲食業界へ大ダメージを与えた。
帝国データバンクの調査によると、2020年1~11月の飲食店の倒産が736件に達した。これまで通年(1~12月)で最多だった昨年の732件を上回り、11月時点で過去最多となることが確定。このペースが続けば、初の800件台に到達する可能性もあるという。
東京商工リサーチのアンケート調査では、コロナの収束が長引いた場合、「廃業の可能性がある」と考えている飲食店は32.8%で業種別ではトップだ。
Aさんが勤務していた飲食店も年末にコロナ閉店することになった。
すぐにでも働きたいAさんは、古巣のホールへ再就職できないか、と思い電話を入れた。
「アルバイトもフルで働けないぐらい暇で、ましてや正社員で雇うことはできない」と断られたが、社長からは「正月になったら遊びに来い」と声を掛けられていた。
2日に新年のあいさつを兼ねて社長の自宅に出向いた。
社長とゆっくり話をすることができた。
「息子(店長)と話していることは、店をどうやって閉めるか。従業員を放り出すこともできないので、毎日そのことばかりを考えている。第3波でお客さんも減っている。この先設備投資もかかるので、スパッと止めたいけど止められないよ。1カ月平均の稼働は半分しか戻って来ていない。元旦の売り上げも去年の半分だよ」(社長)と珍しく弱音を吐いた。
ホールは単店だが、ホールで儲かったカネで、都内で7軒の飲食店経営していた。ところがコロナ禍で全滅状態だ。
このうち2店舗は区切りの良いところで大晦日で閉店した。
残りの店舗の内、1店舗は営業歴が30年になるクラブがある。そのクラブがある雑居ビルは35店舗が入居していたが、今は半分まで減っている。
「毎日、毎日お客さんが来ない日が続いている。接待に使ってくれていた太客も来なくなった。契約は4月まであるが家賃も人件費も払えない状態だよ」(社長)
飲食店の中には社長の趣味で始めた蕎麦屋もあった。利益度外視で、蕎麦と日本酒が人気で雑誌にも取り上げられるほどの名店だったが、客が来ない。蕎麦はすするのでつゆが飛ぶと警戒されているのかも知れない。
で、社長は飲食店も全部閉める覚悟を決めた。飲食店が生き残るにはテイクアウトもあるが、常連客皆がテイクアウトしてくれるわけでもない。
ここでホールまで閉めると何も残らなくなる。
単店オーナーの悩みを聞いて今年は自主廃業が増えると思いながら、社長の家を後にした。
駅に向かっている時、飲食店時代の元部下から1本の電話が入った。
「今就職している給食会社で調理師を探しています。年明けに求職票を出すところですが、ウチに来ませんか?」
渡りに船で即答したことは言うまでもなかった。
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