年末家族4人が勝ったことから見えた人生模様

2019.12.31 / コラム

年の瀬も押し詰まった28日(土)、世間は正月休みに入っているそんな日に常連客の家族4人がホールにやってきた。

家族は両親が80代、長男は50代、長女は40代で、普段はバラバラに来るが家族が揃ってくることはほとんどない。

「今年の打ち納めに、皆で来たけど最後にいいことがあった。4人とも勝ったよ。で、いくら勝ったと思う?」とおじいちゃんが主任に笑顔で聞いた。おじいちゃんは当該ホール一筋に30年以上通い続けている。

主任は皆、出していることは見ていたが「いくらmですかね?」と見当もつかなかった。

「4人で22万円勝ったよ。で、元手はいくらだと思う? これが4人で1万円も使っていないよ。いいことのない年だったが、最後の最後にいいことがあったよ」と口調は滑らかだった。

いいことのない1年の意味は、長男の会社が倒産、長女は離婚して実家に帰ってきた。孫はいなかった。

「俺が生きているうちにこんないいことはないので、これから宝くじを買う。いい肉を買って今晩はすき焼きでもするよ」とおじいちゃんは上機嫌だった。

帰りは息子さんが車を運転して帰った。

ところが駐車場から出ようと、一時停止して車が通りすぎるのを待っているところに、接触事故があり、パトカーが出動した。

「完全に止まっていた。ドライブレコーダーもあるので、こっちは悪くない」と息子さん。

そんな接触事故も「車に当てられたんだから、宝くじも当たるぞ」とおじいちゃんは前向きに捉えた。

「気を付けてお帰りください」と店長が見送った。

その夜、息子さんからホールに電話が入った。

「オヤジがスマホを忘れたみたいだけど、届けられていますか?ラクラクスマホなんですが」

「あ、それなら届いています」

「じゃ、明日取りに行きます」

翌日、息子さんがおじいちゃんのスマホを取りに来た。

「4人で来るのはもう、最後になるかも知れないが、本当にいい思い出ができて感謝しています。実はオヤジはすい臓ガンで半年持たない。オヤジは歳なので本人にはガンのことは知らせていない。高齢なんで手術もしないことにしている」と身の上話になった。

普段はバラバラで来るのに4人揃ってきた理由がそこで分かった。

おじいちゃんのスマホカバーには会員カードが挟まれていた。それを見てどれぐらい貯玉しているかが気になった。

事情を聴いて店長は「本人以外はだめですが、内緒にしてくださいよ」と前置きしておじいちゃんの貯玉を調べた。

すると4円で16万個も貯玉していることが分かった。

「バクチ好きなオヤジはたぶん、おカネを使って貯玉していたんだと思います」

再プレイすることなく、勝った玉は貯玉していくタイプのようだ。

「オヤジはこれからもホールへは来ると思いますが、万一ホールで倒れた時はそういうことですから、よろしくお願いします」

人生の終わりの大半をパチンコで過ごすお年寄りも少なくない。

老後の暇つぶしにパチンコができるのは1円があるからだ、と店長は実感した。

おじいちゃんは4円派だが、店長は本来のパチンコの姿は1円にあると思った。





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