大学の学費をポケットマネーで貸し付けてくれたオーナー

2019.12.29 / コラム

首都圏のホール勤務に勤務するAさん(49)には1人娘がいる。今年の春めでたく難関大学である早稲田大学の理工学部に入学した。文系と違って理工系は学費がかかる。年間240万円は、年収650万円のAさんの家計には痛い出費である。

さらに理工学部の学生は大学院へ進んでさらに研究を続けるケースが少なくないので、都合6年間の学費がかかることになることもある。

学資保険には入っていなかった。そこでAさんは学費を捻出するために「店長に昇格して給料を上げて欲しい」とオーナーに直談判した。

店は3店舗しかなかった。おまけに上は詰まっているので店長の空きもない。

そこでオーナーが出した答えは「4店舗目を出したら店長にする」という空手形だった。このご時世でとても新規出店するようなムードは会社にはなかった。後は3人の店長の誰かが辞めるのを待つしかない。

Aさんは国立大学を中退して20代後半で現在のホールに入社している。親子で地頭は良かったようだ。働きぶりは真面目だったので、「これで気分的には楽になるだろう」とオーナーのポケットマネーで1000万円をAさんに貸し付けた。

話は少しよそ道にそれる。

医学部に進学して女医になった人が大学の同級生と結婚した。相手は代々医者の家系だ。結婚披露宴で新郎が親に感謝の手紙を読んでいる時に新婦はぶったまげた。

「医学部に通わせてくれてありがとうございました。これまでかかった学費は夫婦共々働いて全額返します」

新婦はその時初めてこれまでかかった学費を返済する話を聞かされた。「金持ちなの全額返すの? そんなの聞いてないよ」という心境だった。

金持ちの医者の家系でも学費は親に返済する。この話をAさんの娘さんは大学のゼミで聞き、将来、働きだしたら全額返す気持ちになった。このことをAさんに話すとAさんは少し安堵した。

この時Aさんは娘さんにパチンコの話を始めてした。

「パチンコのお客さんは1玉1円、4円で玉を借りて遊ぶ。この1玉1玉のおカネの積み重ねで、家族を養っている。ごはんが食べられて、大学へ行かせることができるのもこの1玉のお陰。1円、4円を大切にすることを肝に銘じて勉強してくれ」

Aさんは家で仕事の話をすることはなかった。パチンコ業界といえばとかくダーティーなイメージが強く、娘さんは親の仕事に誇りを持てなかった。娘さんは1玉の積み重ねで自分が育てられたことを知り、自然と涙が頬を伝わった。







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