儲からないから止める

2020.08.11 / コラム

婦人服専門の大手に勤めた後、独立して東京・世田谷の高級住宅街で婦人服の店を開業して25年になる人が、このほど店を畳むことを決めた。理由は緊急事態宣言解除後も太客だった高齢者がほとんど姿を見せなくなったことで売り上げが激減したためだ。

場所柄、既製服よりも10万円ぐらいのセミオーダーを買ってくれる客層が多かっただけに、経営が一気に悪化した。

顧客名簿を繰って近況伺いの電話営業も掛けてみた。

「もう、出歩かないので服も買わなくていい」

「流行に興味がなくなった。家にある服で十分」

と購買意欲がまるでないことが伝わってきた。

太客の一人に不動産会社の社長夫人がいた。その人とは30分以上も話し込んだ。

「今もずっと家にいるわよ。だって東京は感染者が増え続けて怖いもの。余計なところには出て行かないようにしているから、お洋服は不要不急のものだということが分かったわよ。それに誰が着たかも分からないものは試着もしたくないわ」

今回、世間話をする中で初めて分かったのが、不動産会社夫人は、単店だがパチンコ店も経営しているということだった。

規模は400台ほどで、緊急事態宣言中は休業していたが、不動産の賃貸収入があるので、ホールを閉めていても困ることはなかった。

ホールは数年前から息子に任せているが、「今どき大手チェーン以外、われわれのような弱小店はホール経営をやる時代ではない。ホール経営はコストと手間暇ばかりかかり儲かる時代ではない」とすっかりやる気を失っているようだ。

景気がよかった時代は日売り1000万円で、粗利は200万円、月6000万円の粗利が入り儲かったのも今や昔。

「儲かっている時代は客層にも目を瞑っていたけど、コロナの問題で休業要請を受けているにも関わらず営業しているホールに来る客層のレベルを見ていて、息子はつくづく嫌になった、と言っています。それで、ホールは年内で閉めるつもりよ。ホールの跡地にはテナントビルを建てる。今はパチンコよりも小売りの方が儲かる。テナントビルにすれば賃貸収入が入るし、その方が楽」

儲かるからやる。儲からないから止める。これは当たり前のことかも知れないが、そうやって異業種からパチンコ業界へ参入してきた企業の大半は、今や跡形もなく消えている。

最後に残るのは経営者を含めて社員も本当にパチンコのことが好きな人たちによって、ユーザーが喜んでくれる新しいパチンコに生まれ変わる努力をして、パチンコの明かりを灯し続けて欲しいものだ。










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