経営者にこそ読んでほしい企業コンプライアンス

2022.03.17 / ホール

知らないうちにキケンな取引が開始「その業者さん大丈夫ですか?」

パチンコ業界のコンプラ意識
高いとは言えない?

 パチンコ業界にとってコンプライアンスという言葉は非常に重い。何せ監督官庁が警察庁である。風営法は当然ながら、暴力団対策法(以下、暴対法)によって厳しく暴力団と一般市民とのつながりが取り締まられている。イリーガルな事象があれば即座に〝お上〟が動き出すというわけだ。

 しかし、そうした環境でありながら、パチンコ業界のコンプライアンス意識は高いとは言えない。大手企業や法務で厳格に管理しているところもあれば、ほぼノーチェックで新規事業者と取引を開始してしまう企業もあるだろう。営業手法や広告宣伝、働き方など、法律面に関してはややルーズさを感じている業界人も多いのではないだろうか。

 平成3年に施行された暴対法で、暴力団関係者からの寄付金の強要、不当な利息を伴う債権取立て、示談への介入、みかじめ料の請求や総会屋など暴力的な行為による経済介入を規制しており、法施行当初は11項目の行為が規制されていたが、現在に至るまでに暴力団の動向や社会情勢の変化により5回の改正がなされたことで、規制される行為の項目は27にまで拡大した。

 暴力団やフロント企業などその二次団体などとの取引を避けるためには、「どう見分けるか」という課題を克服する必要がある。素性の知れない人気演者や晒し屋を使うことがホールの経営戦略上必要なのであれば、それはそれで良いが、そこには管理が必要である。「店長が呼び(使い)たがっているから……」というだけでハンコをついてしまう管理者はコンプライアンス上問題があると言わざるを得ない。本企画では、パチンコ業界のコンプライアンス意識を高めるために、今見直すべきことを報じていく。


素性の知れない業者や
演者を使うべきではない

 フォロワー数や再生数といったような「数字」を持っていれば個人でも企業からの案件を受けられる時代になってきた中で、攻略誌やイベント会社といった媒体に属している人たち以外のフリー演者などにもスポットライトが向けられるようになってきた。

 個人が影響力を持つこと自体は悪いことではないし、企業がその力にあやかろうとするのもまた悪いことではない。だが、早々に飛びついてしまわずにいったん考える時間が必要だ。先日、あるホール企業の社長と会食の際にこんな会話があった。

 「最近、御社の店舗で新しい演者を結構起用されているみたいですが、大丈夫ですか?」
 「え、何か問題ある?」
 「その人たちにどうやって依頼しているんです?」
 「店舗責任者からTwitterでDMを送ったりしているけども」
 「それでお金はどうやって払っているんですか」
 「その人から指定された口座に普通に当社から振り込んでいるけど」
 「それ契約書とか結んでいるんですか。企業コンプライアンス的にどうなんですかね。相手は正体不明の個人じゃないですか」

 この会話の後、ホール企業の社長は閉口してしまった。このように経営者やそれに付随する決済を下す役員・部長職の人物が、発注する相手のことを知らないということは、コンプライアンスの観点では、あまり好ましい状況とは言えない。

 ここで参考までに、「全国暴力追放センター・日本弁護士連合会民事介入暴力対策委員会・警察庁刑事局組織犯罪対策部暴力団対策課」が主体となってまとめた「企業(特定業種)を対象とした反社会的勢力との関係遮断に関するアンケート」という調査結果を見ていきたい。これは全国5000社に対し調査票を郵送したアンケートで1378通の回収があったものだ。

 

令和3年度 企業(特定業種)を対象とした反社会的勢力との関係遮断に関するアンケート(調査結果)

 

令和3年度 企業(特定業種)を対象とした反社会的勢力との関係遮断に関するアンケート(調査結果)

5000社に対して調査票を送付し1378社からの回答があったアンケート。過去5年間に反社会的勢力からの不当要求を受けた経験がある企業の割合は、全体の1.3%(18社)であった。過去5年間に不当要求を受けたことがある企業18社が、その相手方をどのように認識したかをみると、「相手方が何者かわからなかった」が6社と最も多い。暴力団の構成員か否かを分けるために、「5年ルール」というものがあり、暴力団を離脱してから5年以上たたないと離脱したふりをして組に戻る可能性があるとして反社会的勢力扱いとなる。「暴力団構成員、5年経てば元の人」とはならない可能性もある。疑わしい取引先は逐次チェックを行い、断定できる情報や支払い遅延などのトラブルの際には、契約解除に踏み切る独自の判断が求められることになるだろう。

 

 それによると、過去5年間に反社会的勢力から不当要求を受けたかどうかという設問で、98.4%の企業は「受けなかった」と回答。1.3%(18社)の企業が「受けた」と回答している。不当要求の相手方についてという設問でもっとも回答が多かったのが「相手方が何者かわからなかった」(6社)というものであり、相手の素性が分からないまま取引を開始して、後から反社であることが判明したパターンだ。不当要求の一部に応じてしまった企業の中には、500万円以上~1000万円未満という大きな損失を生み出す結果となった企業もある。

 こうしたリスクを避けるため、大手企業などでは法務部などを設置し、コンプライアンスを徹底している。中には、直接取引できる業者数を絞ったり、東京商工リサーチや帝国データバンクなどのシンクタンク企業で調査をしてから取引を開始する企業もある。

 それ以外は広告代理店などを経由するなどしてできる限りのリスクを回避するが、そうした場合でも、初めての演者などがそこに含まれる場合にはしっかりとした取引先チェックを求めるべきだろう。そうしたガバナンスが機能しているあるホール関係者は、「フリーの演者って最近増えていますけど、危なくないですかね。演者の方にホールが業務を発注することは、競争激化の時代で自然な流れと捉えていますが、絶対にしっかりした信頼できる企業と組むべきです」と、取引先の安心感を優先して発注するという。

 反対に、初めての業者を使う場合によくある事例が、「店長が好きだから」とか「店長が呼びたがっているから」という理由で決済されてしまうことだ。今、パチンコ業界に求められているコンプライアンスというのは、企業対企業のしっかりしたものだ。会社に法務部などの機能があるにも関わらず、管理されないまま取引が進んでしまうこともあるのは残念な結果である。

 今、フリー演者が乱列している中で、彼らを呼ぶ際には一体、個人を従業員登録しただけなのか企業契約なのかあいまいなケースが多い。キケンではないことを保証する条項が含まれた契約書を、企業同士で交わした後の取引なら良いが、ホールによっては1日限りの従業員契約で手っ取り早く済ましてしまうところもある。


本人の関係者がアウトという
グレーな案件もある

 グレーな業者との取引があった場合、世間の目は思っているより厳しい。タレントのゆきぽよなんかもそうだ。たまたま付き合っていた元彼氏の1人が薬物を使用していたことが週刊誌に報じられてからというもの、テレビで見かけることはほとんどなくなってしまった。ゆきぽよ本人に問題があったわけではなかったが、その関係者まで含めて調査をする必要があるということだ。

 実際問題、こうしたグレーなケースは往往にしてある。少し話はそれるが、あるコスプレイヤーが独立して会社を起こした際に、それまでは個人の趣味として著作権法上許容されてきたコスプレであったが、営利目的によるコスプレは、著作権侵害となる。告訴されるかされないかは別問題ではあるが、グレーな部分だ。

 また最近猛威を振るっている晒し屋界隈では、こんな事例がある。「ジャグラーがオススメ」とTwitterでホールの宣伝をしておきながら、自分は身内の人間を引き連れてちゃっかり全台系の機種を占拠して大炎上した。これには「晒し屋どころじゃなくもはやサクラだろ」と一連の騒動を冷ややかな目で見る人も多い。こうした事例も、法的にはセーフかもしれないが、モラルではアウトだ。

 反社会的勢力というのはその正体を隠して企業に近づいてくるものだ。企業はその実態を知らないまま取引関係になっていく。人気演者本人がキケンではなかったとしても、その彼氏が暴力団員という可能性もあるかもしれない。その事実が明らかになれば企業は即座に契約を打ち切る必要がある。やはりそのためにも取引先チェックが必要不可欠で、安心できる事業者と組むのが一番手堅い。個人だからといって「安かろう良かろう」という話はないのである。


知らなかったではダメ
きちんと取引先チェックを

 今、企業同士がとりかわす契約書の中には、相手の企業が反社との取引がないかを確認する項目が含まれているのが当たり前になった。取引先チェックをするには、商業登記簿を確認したり、役員、顧問、コンサルタント、アドバイザーなどの人事チェック、信用調査機関のデータベースを参照したり、新聞の過去記事なども参考になることはあるかもしれない。

 キケンであることを告知せずに取引が開始し、後から発覚した場合などは、相手の同意なく即刻の契約解除をすることで、経済的損失を防ぐことができる。反社会的勢力とはそうなのである。一度でも付き合ってしまったら、その事実をネタにタカリやゆすりを仕掛けてくるのだ。「知らなかった」で取引が始まってしまうことすら、世間は「緩い会社だな」と見てくる。そうした憂き目に合わないためには、取引先チェックを確実に行うこと。

 いかがだっただろうか。コンプライアンスを見直すきっかけにするための企画として、まずは表面的な触りの部分だけをまとめてきたが、連載第2回目ではもっと奥に深く入り込んだディープな内容を掲載していきたいと考えている。


暴対法では第9条で27の行為が禁止されている。
1.口止め料を要求する行為
2.寄付金や賛助金等を要求する行為
3.下請参入等を要求する行為
4.みかじめ料を要求する行為
5.用心棒料等を要求する行為
6.利息制限法に違反する高金利の債権を取り立てる行為
7.不当な方法で債権を取り立てる行為
8.借金の免除や借金返済の猶予を要求する行為
9.不当な貸付け及び手形の割引を要求する行為
10.不当な金融商品取引を要求する行為
11.不当な株式の買取り等を要求する行為
12.不当に預金・貯金の受入れを要求する行為
13.不当な地上げをする行為
14.土地・家屋の明渡し料等を不当に要求する行為
15.宅建業者に対し、不当に宅地等の売買・交換等を要求する行為
16.宅建業者以外の者に対し、宅地等の売買。交換等を要求する行為
17.建設業者に対して、不当に建設工事を行うことを要求する行為
18.不当に集会施設等を利用させることを要求する行為
19.交通事故等の示談に介入し、金品等を要求する行為
20.因縁をつけて金品等を要求する行為
21.許認可等をすることを要求する行為
22.許認可等をしないことを要求する行為
23.公共事業の入札に参加させることを要求する行為
24.公共事務事業の入札に参加させないことを要求する行為
25.人に対し、公共事業の入札に参加しないことを要求する行為
26.公共事務事業の契約の相手方とすること等を要求する行為
27.公共事務事業の契約の相手に対する指導等を要求する行為

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