熊本、復興と改革の最前線(第1部) 令和8年熊本地震地域を支えたパチンコホール②
2026.09.21 / ホールCASE3・《ベルエアMAX北部店》
〝営業再開〟を急いだ反省、有事の決断を問い直す
逃げる客、交換に並ぶ客、遊技を続ける客
地震直後の店内では、屋外へ逃げる客、精算や景品交換へ向かう客、そのまま遊技を続ける客が混在した。精算機と景品カウンターに列ができたため、店舗側は混雑が落ち着くまで遊技を直ちに止めず、退店が進んだ段階で閉店した。最後まで残った約2割の客には、スタッフが一人ずつ声をかけ、数分以内に遊技を終えるよう求めた。
大きな人的被害はなかったが、日高店長は「本来は強制的に避難させるべきだったのではないか」と振り返る。見た目の損傷が小さくても、天井裏や設備の状態は分からない。余震で被害が拡大する可能性を考えれば、次は営業上の都合より安全を優先し、より早く避難を決断する考えだ。
翌日営業に残った悔い
同店では天井材の一部が落下したものの、けが人は出なかった。被害を受けた約20台のコーナーを封鎖し、当日夜遅くまで補修。翌日が集客を見込む日だったことから、残るエリアで営業を再開した。だが、住民が生活の立て直しに追われるなか、来店客はほとんどいなかった。
「無理に再開せず、休業して点検と補修を進めればよかった」。北部店は1週間足らずで全面復旧したが、系列の南高江店は天井落下で軽傷者が出て、約1カ月休業した。営業損失は莫大な金額に及ぶ。だからこそ、安全を確認する時間を惜しまないことが重要になる。
スマート遊技機時代に残された耐震課題
地震では、遊技島と上部の補給レーンが落下物を受け止め、客を守る補強材として働いた。一方、スマスロやスマパチでは玉・メダルの補給設備が不要になる。日高店長も当初は撤去を考えていたが、震災後は「単純に外してよいのか」と考えを改めた。装飾を兼ねた上部の「渡り」を新たな補強材にするなど、デザインと安全を両立する発想が必要だという。
駐車場は住民へ開放した一方、南部への物資輸送は、道路渋滞で緊急車両を妨げる恐れから見送った。避難、営業再開、物資支援。災害現場で求められるのは、善意だけではない。「何をするか」と同時に「何をしないか」を即座に選ぶ判断力である。
《熊本県遊協》遊技業は補助金の対象になるか
県内115店舗のうち84店舗が被災
前出の3店舗の証言は、それぞれ異なる現場の体験である。だが県全体を見渡すと、被害の広がりはさらに深刻だ。熊本県遊協の藤井理事長によれば、県内115店舗のうち84店舗が被災した。全体の7割を超え、14店舗は1週間以上の休業を余儀なくされた。内訳は八代地区5店舗、宇城地区7店舗、熊本南地区と御船地区が各1店舗だった。
8月28日の取材時点でも、八代地区3店舗、宇城地区5店舗、熊本南地区1店舗が休業中だった。イオンモール宇城の敷地内にあるブロス宇城小川店は立ち入りが禁止され、被害状況の確認さえできなかった。見積もりを終えた49店舗の建物被害だけで計9億2000万円。未見積もりの35店舗に加え、休業損失や遊技機・設備の損害を含めれば、被害総額は大幅に増える。
競合の垣根を越えた支援網
地震直後、各ホールは冷房の効いた休憩スペース、駐車場、トイレなどを地域へ開放した。県遊協も自治体、養護施設、乳児園などへ水、食料、生活必需品を届けた。他県の応援部隊の拠点となった八代警察署、宇城警察署にも、佐賀県遊協や九州地区の青年部と連携して飲料水を運んだ。
全国の遊協、ホール法人、遊技機メーカーから義援金や物資も寄せられた。義援金は企業規模や地元・県外資本を問わず、被害状況に応じて組合員店舗へ分配する方針だ。熊本県遊協と地区組合は、熊本県、熊本市、八代市、宇城市にも支援金を贈呈。被災者へ直接配る義援金とは別に、自治体がボランティア活動や復旧作業の諸経費へ柔軟に使える資金を届けた。競合する企業同士をつなぎ、外部支援を必要な場所へ振り分ける組合の相互扶助機能が発揮された。
公的支援から外されてきた業界
復旧を阻む最大の壁は、公的支援である。パチンコホールは風俗営業に分類され、東日本大震災や能登半島地震でも補助対象から外されてきた。高額な修繕費に休業損失が重なりながら支援を受けられなければ、再開を断念する店舗が出る可能性もある。
政府は8月7日、「令和8年熊本地震による災害」を激甚災害に指定した。中小企業・小規模事業者には自治体連携型補助金による支援が検討され、八代市や御船町などでは局地激甚災害の基準を超える見込みとされた。県遊協は遊技業も対象とするよう県知事へ要望書を提出し、顧問県議を通じて働きかけた。藤井理事長は熊本市長、八代市長とも直接面会。国にも全日遊連や遊技産業議員連盟を通じて支援を求めている。
補助率は決まっておらず、支援が確約されたわけではない。しかし、これまで対象外だった遊技業が補助対象になれば前例を変える一歩となる。水やトイレ、駐車場、休憩場所を地域へ差し出し、警察や福祉施設にも物資を届けたホールが、自ら被災した際には制度の外へ置かれる。この矛盾を越えられるか。熊本の復興は、ホールが担った地域インフラとしての役割を、制度上も認めてもらうための闘いでもある。
熊本県遊協は、地域の公民館や児童養護施設などに支援物資を届けたほか、仮設トイレを設置。また、熊本市や八代市に支援金を寄付するなど、幅広い支援活動を展開している。
※ヘッダー画像は今回の熊本地震で被災したホールの一例です。
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