パチンコホール店舗数が非常に流動的になってきている。この状態を紐解くと、単純に閉店する店が増えているだけではなく、営業権の譲渡や企業統合なども非常に盛んになってきており、業界全体に再編の風が吹いているのだ。企業が組織を再編すれば、転職市場も自ずと活発化してくる。今、転職市場ではどのような人材が求められているのか。変化する採用側のマインドを知る、パック・エックスを取材した。
今回、パチンコ業界の転職市場について語ってくれたのは、業界の採用支援に特化したパック・エックスのリクルーティングアドバイザー元木紗香さんだ。今、採用シーンではどのようなことが起きているのか。
「緊急事態宣言の有無や延長によって、求人の内容もコロコロ変わっています。それもすごいスピードです。特に春先3月頃から企業の動きは活発化しており、求める人材属性や枠数などもかなり変化しています。直近でいえば3回目の緊急事態宣言が発令され、採用活動への影響を危惧しましたが、5月時点では大きな影響は見受けられません」
また、求める人材属性について、これまでは20代~30代前半の即戦力が期待できる人材、要は現職の若手店長クラスの人気が高かったが、この属性は業界マイナス成長過での保守的な経験則しかない人材も多い。業界でのチャレンジングな発想やイメージが描きずらく、転職市場に出てこない、あるいは、他業種を視野に入れるなどマッチング率が低下しているというのが現状だ。
このため、最近では採用企業側に変化が起きていて、年齢層でいえば40代まで引き上げるケースが増えてきている。この背景は先にも述べた、若い幹部候補の業界内での流動性が低下しているという事もあるが、過去の業界変革期(5号機問題、リーマンショック、東日本大震災、広告規制)を乗り越えてきた柔軟性やアイディア、人間力やリーダーシップに期待するという側面もあるようだ。
特に採用が活発な企業はM&Aされた情報などにも敏感で、「(M&Aされた側の)中にいた人たちってどうなってますか」や「いい人いたら紹介して」という問い合わせが元木さんの元に数多く来ている。
今までは求人情報をベースにした採用であったが、「いい人がいたら年齢に関係なく紹介してほしい」という紹介ベースで転職に結びつくことも増えてきている。これはコロナ禍不況で企業が採用を控えているのではなく、レア人材が来るんじゃないかという希望を抱いているからだ。
ではどれくらいの規模の法人が採用に活発なのか?
「10店舗から20店舗くらいの規模の求人が増えています。逆に全国展開するような大規模企業のキャリア採用はそこまで活発ではない印象です。多くの企業がこのコロナ禍で組織編成されているので、そこでドロップアウトして転職に目を向ける人もいます。その穴埋めをするという企業側のニーズもありますし、専門性の高いキャリアを積まれた方々が相談にくるケースも増えているのです」
現在、精力的に動いている採用企業の特徴は以下の通り。
・M&Aなど事業拡大
・新分野への挑戦
・組織編成など戦力補強
・業務改善など増員計画
・欠員に伴う人員補充
採用タイプとしては大きくは2パターンで、早期の戦力化が期待できる「即戦力採用」と、今のうちから採用し教育することで戦力の充実化を図る「ポテンシャル採用」となっている。また、コロナ禍の状況で1年以上が経過し、多様な採用手法を取り入れる傾向にあるという。
一方で、求職者の目線に立ってみると、今の転職シーンは決して売り手市場になっているわけではない。しかし元木さんは、「コロナ禍を生き残るため変革していく必要があり、そこに着手する企業の採用幅は確実に広くなっています」と語る。
つまり、経済や社会情勢が変わり、人々の生活様式や行動も変化したことで、パチンコ店も変革していかなければ生き残れない。そのために求める経験やスキルの幅が広がってきているということだ。例えば、「趣味で高PVのブログを作っていました」や、「SNSで何万人もフォロワー持っている」といったスキルは営業戦略でTwitterを活用する企業が増えてきており、そうした際に手綱を引ける人材、企業が動き出す際にアイディアを出せる人材がいると、企業側も心強いのである。
「あとは普遍的なものですが、マネジメント能力ですね。情報量が多い世の中で、それを精査して、正しく発信できる人。市場感もそうだし、行政の規制がどうこうとか、組合の規制がどうこうとか。それらをしっかり収集して加工して、何を伝える何を伝えないということができる人。さらに組織をモチベートできる。これはコロナ以前よりも注目されている要素かもしれません」
企業の採用マインドにエリア特性
転職市場トレンド | |||
求人意欲 | ポテンシャル採用 | 即戦力採用 | |
北海道 | 下降 | 保守的 | 積極的 |
コメント | 即戦力の採用が主軸で、特に札幌でのオーダーが集まりやすい。コロナ禍をどう戦っていくかのアイディアを持っていることが肝となる | ||
東北 | 上昇 | 積極的 | 積極的 |
コメント | 若手や即戦力を混合して必要としており企業拡大の人員補強をメインとして活動している企業が目立つ | ||
関東 | やや下降 | 積極的 | 積極的 |
コメント | 人口に比例して求職者が多く、採用基準は高めだが間口は広い。直近では1都3県の即戦力ニーズが高まっている | ||
東海 | やや上昇 | 積極的 | 積極的 |
コメント | 勢いのある企業の求人が多く若年も即戦力もニーズが高い。関東、関西に人材が流れがちで、ある意味、穴場的なエリアといえる | ||
関西 | やや上昇 | 積極的 | 積極的 |
コメント | 関東と並んで間口の広いエリア。企業のM&Aも活発なため求人枠も日々変わっていくような流動的なエリアでもある | ||
甲信越・北陸 | 上昇 | 保守的 | 保守的 |
コメント | 外に出ていない見えない求人があるエリア。求人票を出すまでもないが、人材は気になるので提案してほしいというオーダーが多い | ||
中国・四国 | やや上昇 | 積極的 | 保守的 |
コメント | 若手の採用に苦戦しているエリア。県外・県内を問わず人材を欲しており、遠隔地でもリモートで対応する企業が目立つ | ||
九州 | 上昇 | 積極的 | 保守的 |
コメント | 即戦力の採用手法において昔ながらの画一的な企業が目立つが、コロナ以降は柔軟性に富む企業も徐々に増えてきている | ||
沖縄 | やや下降 | 保守的 | 保守的 |
コメント | 本土とは全く異なる商圏ということもあり、どちらかというとポテンシャル採用に重きを置く。受容性が強く求められる |
マッチングに関しては人材のパーソナリティと企業のニーズによって変わってくるので、一概にこうするべきというアドバイスは難しい。しかし、元木さんはこんな気になる情報を教えてくれた。
「パック・エックスの保有するデータでは、地域ごとに採用の特性が異なっていることが見て取れます。例えば、北海道の直近での中途採用は基本的に20代の若手層よりも、専門性に長けた経験豊富な人材を求める企業が増えている」という。
その他にも、関東は基本的には若手中心ではあるが、一方で求人数は多い。都内で転職活動をしていてなかなか決まらないという人は若い人材と競合している可能性がある。つまり倍率が高いということだ。そうした際に、他エリアまで選択肢を広げてみるなどしてアクションをしていった方がいい。
「東海でいえば、若手もハイキャリアもニーズが高いが、紹介ベースで決まる表に出てこない案件も多い。関東や関西に人気が集まりやすく、転職市場でいえば東海の現状はライバルの少ないホットな市場といえると思います」
元木さん曰く「求人は生ものなので、状況は短い期間でも様変わりします。今日のニーズが明日もあるとは限らない。逆をいえば、今日はなかったニーズが明日には生まれることもある。しかし、それは求職者の方には見えない、分からないことなので、やはり我々のようなエージェントに一度ご相談いただくのがいいと思います」
どこの地域も若手のニーズはある一方で、業界歴の長いベテランにもチャンスが増えているというのは、今までにない転職市場の動きといえる。閉店した店舗を任されていた店長でも、今までは「その人が店長だったから閉店したんでしょ」と蹴られていたケースもあったが、今、業界を取り巻く環境がそう単純な話ではないことを採用する側も認識している。
人材再編、あらゆる企業でそうした動きが活発になっている。誤解を恐れずにいえば、万人にマッチングのチャンスがあるということだ。
(取材協力)
株式会社パック・エックス
元木 紗香
営業本部第一営業部統括マネージャー
2009年に㈱パック・エックスへ新卒入社。ホール現場向け商材や求人サービスなど300社以上の法人取引を実現。以降、法人営業とリクルーティングアドバイザーを兼任。数々の営業現場で培った課題解決ノウハウとネットワークを駆使し、全国ホール企業の採用を支援している。