巣ごもりブームの昨今、「リモート」で利用できるサービスに世間の注目が集まっている。その中で今、良くも悪くも存在感を発揮し始めているオンラインカジノは、遊技業界や遊技客にとっては脅威といえる。
ユーザーの体験や法律上の立ち位置、そしてわれわれ業界が取るべき対応といった点からオンラインカジノ問題を考察していく。
世界中を襲った新型コロナウイルスの影響により、日本へのIRカジノ進出の議論は下火となった。進出するカジノ産業そのものが、他のレジャー産業と同様に、一気に窮地に追い込まれたからである。
しかし、カジノというライバルの日本進出が遅れ、パチンコ業界にとってはいっときの猶予が生まれた、というわけでは必ずしもない。実は、インターネット上という国境のあいまいな空間を通じ、既存の規制をすり抜ける形で、「オンライン」カジノがすでに日本に進出しており、コロナ禍で着々と影響力を強めているのだ。
それを裏付けるデータがある。Amusement & Gaming Researchの10月30日の記事によると、「首都圏在住の20代~70代の(パチンコ)遊技者の27.0%が、緊急事態宣言解除から8月中旬までの約2カ月半の間にオンラインカジノを『遊んだ』と回答した」という。この調査結果に基づき推計すると、少なくとも106万人の日本人がオンラインカジノに参加していると記事は結論づけている。
では、そのオンラインカジノの実態とは?
世界には、インターネット上でカジノを運営することが合法であり、そのような事業者に政府がライセンスを発行している国や地域が存在する。それらの事業者が、日本語のウェブサイトを開設し、日本人向けにオンラインのカジノサービスを提供している。お金のやりとりには、別途電子送金や電子決済のサービスの利用を必要とするが、クレジットカードでも(入金だけだが)行えるものもある。もちろんオンラインなので、どこからでも参加できるし、24時間プレイし続けることができる。
オンラインカジノではポーカーやブラックジャック、ルーレットといったカジノの定番ゲームが遊べるほか、多様なゲーム性を持ったスロットゲームも提供されている。
カジノゲームは、1ゲームの決着までが短いこと、ほぼ半分の確率で賭け額の2倍が戻ってくるというような単純な勝負がメインだということ、1ゲームに好きな額のベットができること、といった特徴がある。これにより、時間あたりのゲーム数は多くなり、また、これまでの負け分を取り返そうと、多額を賭けてしまうことができる。遊技として見たときのパチンコとは比べ物にならない、危険な賭博である。
さらに日本のインターネットには、オンラインカジノへ人々を誘導するさまざまなルートが切り開かれている。
単純なWeb広告の他にも、「稼げる手段」を案内する情報商材業者やYouTuber、そしてオンラインカジノを比較検討したり遊び方を解説する「誘導・紹介サイト」が無数に存在し、「オンラインカジノ」と検索すれば簡単にアクセスすることができる。
これらのサイトは、「オンラインカジノを遊ぶのは違法ではない」という、後述するように専門家にとっては懐疑的な説明がされてあったり、もちろん現実にはその通りにはいかない「カジノの理論的必勝法」なるものが紹介されていたりする。
とてもユーザーにとって中立な広告環境とは思えないが、これらの情報を発信している責任者はどのように考えているのか、取材の問い合わせを行ったが、返答はなかった。
ここまで、日本におけるオンラインカジノの現状を概観したが、次項からは、その法的問題点、そして実際のプレーヤーの視点からさらに見ていこう。
それでは、「海外に拠点を置くオンラインカジノの業者が日本人向けにサービスを提供し、少なくない数の日本人がその顧客となっている」という現在の状況は、法的に見るとどうなっているのか。
まずまとめてみると以下のようになる。
①法律を素直に解釈するのであれば、オンラインで国外からサービスを提供する胴元は賭博罪での処罰の対象にはならないが、日本国内からそこにアクセスして賭博を行うユーザーは処罰の対象になる、というのが公式の見解である。
②しかし、そもそもの法律やそれを執行する制度が「インターネットによる国をまたいだカジノサービス」というものが想定されていない時代に制定されたもののままとなっており、取り締まりはほとんどなされていない。
③オンラインカジノを推奨するサイトは独自の解釈でオンラインカジノを利用するユーザーも罪には問われないと主張しているものの、それは正しい主張ではない可能性が高い。
④そもそも論として(賭博罪にあたるかどうか、ということ以前に)賭博行為を罪とするのが正しいのか、ということに対してもさまざまな意見がある。
⑤また、現状の法の範囲内でも「国外のオンラインカジノに日本からアクセスしてギャンブルをした1ユーザー」に関しては処罰するのは正しくない、という異なる見解もある。
さらに簡潔にすると、オンラインカジノの日本在住ユーザーは、「カジノサイトの主張は誤りで公式には違法であるが、処罰すべきではないという意見もあり、実務上は、取り締まりの体制が整っておらず放置されている」という現状にある。
先述したようなオンラインカジノを推奨するウェブサイトは、「オンラインカジノって違法なの?」などと名づけたコーナーを設け、オンラインカジノの適法性について「必要的共犯」という法律用語を用いた以下のような説明をしている。
「賭博罪は必要的共犯である。というのも、1人では賭け事はできず、賭け麻雀といった場合には対戦相手、競馬などであればその主催者といった賭けの相手方が必要だからだ。賭博行為は行為の性質上そもそも共犯相手が必要なのである。しかし、オンラインカジノの場合(賭博罪は国外の当事者を処罰可能だとする規定がないため)カジノ事業者は処罰できない。よって、必要的共犯である賭博罪は成立せず、もう片方の当事者、つまり日本国内から海外の事業者のサイトにアクセスして賭博を行う者も罪には問われない」
この主張は一見もっともらしく聞こえるが、法律の専門家は懐疑的である。
たしかに、賭博行為が成立に相手方を必要とすることは正しい。しかし、あくまで国外のカジノ業者であっても、日本向けに展開し、日本国内のユーザーと賭博を行えば、その時点で必要的共犯の条件は成立してしまっている。
その後、それが罪となって処罰されるかどうかは、両者の居る地域によって分岐してしまう。だが、片方の当事者が賭博罪に問われなかったからといって、もう一方の当事者との共犯関係までキャンセルされるということにはならないのである。
それを裏付けるように、2013年には、「一般論としては」という但し書きがついたものの、「賭博行為の一部が日本国内において行われた場合、刑法第百八十五条の賭博罪が成立することがあるものと考えられ」る、との政府の公式見解も発表されている。
しかし、これまで海外のオンラインカジノを個人的にプレイしたユーザーが裁判で有罪となったケースはない。
2016年にユーザー3名が逮捕された事件では、容疑者のうち2名が裁判とはならない形で罰金刑を受け入れ、裁判で争う姿勢を見せたもう1人は不起訴処分となった。この1人を担当した津田岳宏弁護士(ちなみにプロの雀士でもあるという)は賭博罪の専門家であり、次のような見解を自身のブログや出演したメディアで示している。
「賭博行為は、その性質から考えて、管理者側がより強い責任を持たなければならない。管理者となる事業者のもとで賭博をするユーザーの責任は、付随的なものでしかない。オンラインカジノの例のようにより責任ある方を処罰できない場合、1ユーザーの小さな罪だけを問うのは刑事政策上妥当ではない」
実際にこの主張の是非が裁判で争われたわけではない。仮に裁判で認められたからといって、一般論としてオンラインカジノにアクセスしたユーザーが罪に問われないということになるわけでもない。だが、「立場の弱い方だけを罰するのはフェアではない」という世間の感情にもマッチする、説得力のある見解だとは言えるのではないか。
実務上は、ユーザー側も事業者側も、オンラインでのカジノはほとんど取り締まりなく放置されているというのが現状だ。
前例がなく定型的に取り扱えない、取り締まりの責任を持つ役所がどこなのか決まっていないため動きにくい、悪質でないユーザーを摘発したところでキリがない、といった現実的な事情がその背景にはあるのだろう。
そんな事情だとしても、これからもこの無法状態を放置していい理由にはならない。法律の解釈や運用で決着できず、そして警察庁も消費者庁も動けないのであれば、オンラインカジノを禁止あるいは規制する法律が作られるべきである。だが、そういった立法上の動きも活発化していない。
行政においても、司法においても、立法においてもその場限りの対応しかなされず、現実にある問題が先送りされている現状は、何より一般市民にとって望ましいものではない。
放置状態にあるオンラインカジノは、その状況をいいことに着々と市場の中で勢力を伸ばしている。近年目立ってきたのは、広告宣伝を展開するメディアのさらなる広がりだ。これまでオンラインカジノの広告は、著作権的にグレーな動画投稿サイト、ウェブサイト、そして先述したような独立の送客サイトといった場所にのみ露出していた。
しかし、現在では、某スポーツ配信サービスや有名深夜ラジオ番組といった、比較的世間から信頼されているメディアにも広告を出稿するようになっている(そういったメディアでは「無料体験版」のみを訴求することでツッコミを免れようとしている)。
この背景には、コロナ禍によって既存のメディアの体力が失われていること、それに対して、オンラインカジノ側が資金力、そして発言力をつけてきていることがあるのだろう。
パチンコ業界もオンラインカジノ進出の影響を免れる立場にはない。パチンコユーザーという、有望な顧客層を狙うべく、パチンコ業界で活動するライターや配信者を利用するなどの動きはすでに起きている。
パチンコ業界はこれまでさまざまな問題を抱えつつも、法律・行政のコントロールと自主的な規制のもと、社会的に認められる健全な娯楽として歩んできた。
そんな中、射幸性や広告の点でなんの規制も受けていない外来種が今後世間に浸透していくようであれば苦しい戦いになるだろう。
スマホゲームに親しんでいる若年層に加え、スマホの操作が問題なくでき、社会的に信用のあるメディアで「無料版」広告を見た中年層ユーザーも、送客サイトの「オンラインカジノは合法です」という説明を信頼し、流れていってしまう。そういうシナリオはありえる。
そしてそれはパチンコ業界、ユーザー、そして一般社会のいずれにとっても幸福なシナリオではない。
パチンコ業界であれば、市民社会の構成員の一員として、さらにひとつのステークホルダーとして、この問題に声をあげることができるだろう。
そしてそれが、社会に娯楽を提供するそれぞれの企業の立派な務めでもあると言えるのではないか。