【特別寄稿】パチンコ店は時短〝呼びかけ〟に応じる必要があるのか?

2021.01.15 / 新型コロナ

1回目の緊急事態宣言時とは違う世論の反応

私がネット上でパチンコ関連記事を目にすることが多くなったのはコロナ禍の初期、4月の緊急事態宣言時に、パチンコ店がメディアに盛大に袋叩きにあったのがきっかけだった。良くも悪くも、いや99.9%が悪かったけれど、パチンコ店に関する世論の関心が一気に高まった。当時のネットニュースのコメント欄を見ると、まるで呪詛のような言葉がスマホ画面を埋め尽くしていたものだ。

そして、2回目の緊急事態宣言が発令された。

業界関係者が真っ先に気にしたのは、パチンコ店に対する政府・行政と世論の反応であったはずだ。しかし身構えていた度合いに対し、政府・行政の要望も、世論の反応も風当たりが強いものではなかった。少なくとも現時点においては。これには5月の解除以降、業界関係者が積み上げてきた努力もある。対策の徹底。事実の証明。その結果なのか、今回の緊急事態宣言に際する、パチンコ関連ネット記事のコメントを見ると、相変わらずのアンチコメントの中でも、業界に同情的であったり理解を示したりするコメントが各段に増えたように思う。

一方で筆者は、パチンコ関連ニュースに接しながら、心のどこかで違和感も覚えている。この違和感の正体は一体何なのか……。

 

朝日新聞の記事から感じた違和感

初めに違和感を覚えたのは、朝日新聞のネット記事であった。まずは以下の記事を読んでみてほしい。

パチンコやゲーセンには協力金ゼロ 「今回は応じない」/(朝日新聞2021年1月7日 21時52分)

ゲームセンターやパチンコ店、劇場などは、営業時間を午後8時までとするように、知事たちから突如、呼びかけられる形になった。呼びかけに応じても協力金は出ない。(中略)午後11時近くまで営業している東京都豊島区のあるパチンコ店も、昨春は要請に応じて休業したが、今回は応じない予定という。従業員の男性は「午後8時以降は仕事終わりの客がくる稼ぎ時で、売り上げがかつての半分程度まで落ち込むなか、休むことはできない」と明かす。詳しい説明がないことが不満だ。「店内で会話はしないし、台と台の間はシートで隔て、消毒や検温もして対策はできている。我々が時短営業したところで、感染拡大防止に効果はあるのか」といぶかる。(後略)

この記事は、SNSを介して業界関係者の中でも広く拡散された。おおむね「良」記事として。大手新聞社が業界の声に寄り添う形で記事を書いたという反応が一番多かったように思う。またこの記事に対する一般のコメントもパチンコ業界に同情的であったことを付記しておく。

さて、読者の皆さんはどう思っただろうか。何か違和感を覚えなかっただろうか。私はまず記事のタイトルに感じた。「今回は応じない」。そしてその「今回は応じない」というタイトルに対応している記事内の従業員の男性のコメントに。語弊がないように言えば、従業員の男性を非難しているのではない。正確には従業員の男性からこのようなコメントを引き出した、またそのコメントから記事の部分を切り抜いた書き手の意識の中に、である。

 

前回の緊急事態宣言と今回は明らかに違う

記事にある「今回は応じない」という言葉。この言葉には文脈上見えない「ある前提」が隠されている。それは、「今回」と「前回」は「同じである」ということ。「今回」とは1月7日に発令された2回目の緊急事態宣言のこと。「前回」とは4月に発令された緊急事態宣言時のこと。その状況が同じだという前提でこのタイトルは書かれている。

では果たして「今回」と「前回」は同じなのか。違う。明らかに違う。

「前回」は都道府県知事から休業要請が出された。「今回」は政府や知事からの要請内容は時間も対象も限定的だ。正確に言えば「時短営業要請」を出されたのは飲食店やカラオケ店であって、パチンコ店を始めその他多くの施設には「時短営業協力の呼びかけ」が行われただけだ。

パチンコ店の社会的責務の件や実際の対応については横において、その内容だけを見れば、「前回」が休業のほかの選択肢がなかったが、「今回」は休業や時短営業に応じる必要はない。この理屈で言えば、「今回は応じない」というタイトルの言葉の中に、「(コロナ禍が深刻な状況において)パチンコ店は休業すべき」という前提が内在していることを感じられる。

 

今、業界がなすべきこととは何か

朝日新聞の記事の中には「世の中は、パチンコ店はこのような状況においては休業(時短営業)して然るべき」という言外の、無意識のうちの、評価があると思っている。そしてこのような無意識下の評価を、多くの人は容易に見抜くことが困難になっている。もちろん業界関係者であってもだ。

世の中のニュースは手の平で読めるようになり、簡単に拡散されていく。ニュースは日々あふれんばかりにスマホ画面を埋め尽くすから、その1つひとつをじっくり読むことはない。筆者も含む多くの人たちは、ニュースの全体的に眺め、そして鷹揚に評価してしまう。

時にそれは危険だと思う。無意識のうちに蓄積されてしまう「パチンコ」に対する世論の評価が、ある日掌を返したように自分たちに襲い掛かってこないと誰が言えるだろうか。

今、パチンコ業界がなすべきは、メディアの無責任な声に賛意を示すことではなく、自らが進んで世論に向けた正しい声を発し、態度を示し続けることではないか。もっと言えばパチンコ店は時短の呼びかけに応じる必要性などあるのだろうか。

 

フリーライター・根須猛(ねず・たけし)

年齢非公表。パチンコ店の2階で生まれ育ち、大学時代は千葉のパチンコ店でアルバイトをしていたものの、絶対にパチンコ店には勤めないと固く決意。一時は他業界で一般の会社員として勤めていたが、10数年前に縁あってパチンコ業界に関わり始める。現在はフリーライターとしてパチンコ関連のほか、エンターテインメントの幅広い分野において執筆している。

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