「凱旋」6万台撤去後の選択

2020.12.10 / コラム

コロナ禍でホールの売上・稼働の大きな支えとなってきた「ミリオンゴッド-神々の凱旋-」がついに撤去の日を迎えた。
設置店舗数6000店、設置台数6万台といわれる5号機最強クラスの主力機を失ったホールは、その穴をどのような代替機、あるいは代替策で埋めたのか。

ついに迎えた〝ポスト凱旋〟でホールが取った選択肢を追い、高射幸性機が消えた後の新時代に向けて、今を乗り越えた先にある可能性を探った。


写真提供:パーラーヤマト広尾店・Twitterアカウント「@yamatohiroo


Part.1
「凱旋」撤去の穴埋め緊急アンケート

「凱旋」撤去はホール関係者にとって大きな痛手であったことは間違いない。
前もって準備していたホールもあれば、日々の業務に追われて暫定的な入替で対処したケースもあるだろう。撤去の穴埋めをどのように対応したかアンケートを実施した。

Q.ミリオンゴッド‐神々の凱旋‐の代替は何を導入しましたか?以下の中からすべてお選びください(予定も含む)
ミリオンゴッド‐神々の凱旋‐を設置していなかった 10
ベニヤ(ポスターやサイネージも含む) 69
アナターのオット!?はーです 114
アナザーゴッドハーデス‐冥王召喚‐ 38
パチスロ モンスターハンター:ワールド™ 169
ジャグラーシリーズ 32
押忍!番長3 175
SLOTバジリスク~甲賀忍法帖~絆2 109
押忍!サラリーマン番長2 19
吉宗3 123
Re:ゼロから始める異世界生活 159
パチスロ北斗の拳 天昇 32
その他Aタイプ 79
その他6号機 244
その他5.5号機 123
その他5.9号機 100
低貸コーナー増設 8
パチンコ増設 20
沖スロコーナー(30⌀)増設 16
回答総数 1639

ホール関係者480人が回答。
複数回答を含んでいるため総回答数は1639となっている。


ある程度の特徴は見えるが「迷い」も見られる結果に

「凱旋」の代替機種の導入やその他の対応策を聞いた結果が上記の表である。

単一の機種でみると回答数が一番多かったのは「押忍!番長3」を導入したという意見。5.5号機では最高峰の出玉率を誇り、設定6は凱旋と同じ119%。ハイスペック機からハイスペック機にスライドという対応が目立った。
しかし、2番目に回答数が多かったのは6号機の「パチスロ モンハンワールド」に入れ替えたという意見。「番長3」と比較しても回答数に大差はない。

「パチスロ モンハンワールド」は6号機であり、「凱旋」と比較すると出玉性能的には劣るものがある。撤去時期と導入タイミングが、たまたまうまく重なったからと見るべきか。
言い方はよくないかもしれないが「急場しのぎ」の感はどうしてもぬぐえない。

3番手以降も「Re:ゼロ」「吉宗3」「はーです」と6号機が続いており、回答数で一番多かったのも「その他6号機」での対応だった。それぞれ「6号機にシフトしてきたい」とか「やむをえず手持ちの在庫で対応した」など、思惑はあるかもしれないが、今回のアンケート結果だけでは狙いまでは見えてこなかった。

そこで複数店舗のホール関係者にさらに追加取材を実施。
「凱旋」撤去の代替機種とそれが粗利や稼働面で機能しているか。また、今後どのように「凱旋」撤去の補填をしていくか話を聞いた。

全国のホール関係者が語る「凱旋撤去の穴埋めと今後の方向性」

代替機は「番長3」をメインに穴埋めしました。埋め切れないところは自社で保有している6号機で対応ですね。

高射幸性遊技機である「凱旋」の代替は5.5号機が中心になると考えていたので「番長3」は多めに認定を受けておきました。

「バジ絆」の撤去の時は積極的に6号機で対応したのですが、ユーザーの移行は思ったように進まず、「番長3」「ジャグラー」に移ったので、今回は「番長3」での対応になりました。稼働は補えていると思うのですが、やはりコイン単価の下落は抑え切れていないので、売上や粗利は厳しいですね。

今後登場する低ベースの6.1号機やパチンコにユーザーが移ってくれることに期待しています。

 

メインの入替は「番長3」です。過去に「サラリーマン番長」が撤去された時は、多くのユーザーが「凱旋」に移動しましたので、「番長系」から「凱旋」に移行するならば、また「番長」に戻る可能性も高いだろうと予想したのですが、現状はその通りの結果になっています。

「凱旋」ファンが求めているのは「勝ち額」や「勝率」だと思うのでハイスペック機種で対応するのが良いと思っています。同じ5.5号機の「聖闘士星矢 -海皇覚醒-」や「政宗2」などを持っているのであれば、そういう機種で、顧客を「手放さない」選択をしつつ、6号機やパチンコの新たなファン層を作っていく努力を続けることが重要ではないでしょうか。

 

首都圏でもホールを運営していますが、凱旋撤去後に売上・粗利ともに代替となる機種などありません。

とりあえず現状で使える機種を複数入れて急場をしのいでいるという感じです。具体的には「番長3」「リゼロ」「モンハン」ですね。

パチンコの「源さん」へ移動すると言う動きは当店では見られませんでした。凱旋を打たれていたお客さまは「沖ドキ」への移動が目立ちました。

一方、弊社の関西の店は、年末まで凱旋が設置できますので好調に稼働中です。来年以降には馴染みのある版権の6号機も出てくると思いますので、それまでお客さまを離さないようにしっかり設定を入れて、今まで以上に薄利多売を心がけていくしかありませんね。


結果として店舗担当者からは「番長3」で対応したという意見が多かったが、それだけではカバーしきれずに苦戦中というのが本音。年明けの1月には「沖ドキ!」も撤去になるので、今後も難しい舵取りが続きそうだ。


Part2
危機の先には勝機がある
高射幸性回胴式遊技機撤去の変遷とポスト「凱旋」

高射幸性遊技機の問題が浮上して5年の月日が流れた。そして11月、最後の砦となった「凱旋」がついに撤去された。
コロナ禍の中で売上と稼働を支えた機種を失ったホールには、大きな試練を乗り越えるための革新が求められている。

「ミリオンゴッド-神々の凱旋-」(以下「凱旋」)の撤去問題ほど撤去に至る過程が複雑な遊技機はない。そこでまず「凱旋」に代表される高射幸性回胴式遊技機の撤去にまつわる変遷を見ていきたい。

【第1段階】

そもそも発端は2015年にまでさかのぼる。同年9月30日、業界主要6団体(全日遊連、日遊協、日工組、日電協、全商協、回胴遊商)が、パチンコ・パチスロののめり込み問題への対策として遊技機の射幸性を抑制するため、「高射幸性遊技機の取り扱いについての合意書」(以下、合意書)を締結した。

この時の高射幸性遊技機リストに「凱旋」が含まれた。この合意書では、「ホールは高射幸性遊技機を検定期間内に優先的に撤去しなくてはならない」とされていた。

【第2段階】

2016年には「検定機とは性能が異なる可能性のある遊技機」問題によって、すべてのパチンコMAX機が撤去され、高射幸性遊技機の問題はイコール回胴式遊技機の問題となった。

当初の目標は2016年12月1日までに総設置比率の50%、2017年12月1日までに30%まで引き下げることであったが、しかしその後の全日遊連全国理事会において、2018年1月末までに30%、2019年1月末までに15%、2020年1月末までに5%、2021年1月末までにホールから完全に撤去するという、より細かな段階的撤去案が承認される。

【第3段階】

しかしこの流れも、市場に新規則機(6号機)が十分に出回らないことを理由に、2018年11月、「設置比率15%」の達成期限が無期延期となってしまう。
撤去を推進する業界団体側には、あえて撤去期限を明確に定めず「自然減」にまかせたとしても、2020年1月末にはおおむね設置比率8%程度に落ち着くという目算があった。

【第4段階】

そしてコロナである。

コロナ禍によるホールへの経営的ダメージは深刻で、パチンコ業界としては高射幸性遊技機を積極的に撤去し新規則機に入れ替えることが難しくなった。客数・売上が激減する中、利益確保の柱ともいえる高射幸性遊技機の撤去は経営破綻を招きかねない事態にまで陥ったのだ。

そのような状況で、パチンコ・パチスロ産業21世紀会(以下、21世紀会)は、警察行政との話し合いを行い、21世紀会誓約書の提出を条件に一部遊技機の撤去期限の延長を通知した。しかしその撤去期限の延長対象機種に「凱旋」の他、高射幸性回胴式遊技機は含まれていない。

一方で、コロナ禍による特別措置として、国家公安委員会規則が改正され、市場に設置されている遊技機の検定・認定期間がさらに1年間伸びることになった。こちらのルールに沿うのであれば「凱旋」の撤去期限は、来年2021年11月まで延長される。
業界が決議した高射幸性回胴式遊技機の撤去期限と法律が定めたそれとのタイムラグについては、すでに本誌で何度か発信しているのでここでは敢えて言及はしない。

「凱旋」の売上・粗利をカバーする代替機は何もない

21世紀会の誓約確認機関からホール4団体誓約書確認機関に管理運営主体が移行した「通報・確認システム」によって、本来21世紀会が定める撤去期限はおおむね遵守されているといっていい。特に高射幸性回胴式遊技機に関しては、一部のホールを除き予想以上の撤去水準と評する業界関係者も多い。

全国6000店舗に6万台設置されていたとも言われる「凱旋」のうち、いまだ設置が許されている大阪府を除いては、9割以上の「凱旋」が撤去されたのではないかという目算もある。
では撤去された「凱旋」に変わる「ポスト凱旋」はあるのか。

データ上では、「番長3」や「吉宗3」の稼働が凱旋ユーザー層の受け皿になったという見方もできるし、それ以外にも「はーです」や「バジリスク絆2」などの6号機がコアなパチスロファンの稼働をなんとかつなぎ止めているという見方もできる。
また爆発的な出玉スピードを誇る「P大工の源さん超韋駄天」を中心に、ここ数カ月上向き傾向のパチンコへとユーザーが移動したという人もいる。

しかし結論を言えば、ユーザーの支持率のみならず、その売上や粗利を考慮すれば、「凱旋」に代わるものは何もない。客も売上も粗利もただただ目減りしたというのが、「凱旋」撤去に対するホール関係者の本音なのだ。

撤去の先にある遊技機の緩和、問題は「そこまで店が持つか」

それでも希望がないわけではない。日工組や日電協が推進する管理遊技機・メダルレス遊技機の開発は、コロナ禍によって遅滞するどころか一気に加速している。遊技機の技術規格において大きなイノベーションが起きようとしているのだ。

回胴式遊技機に関していうのであれば、メダルレス遊技機の普及にあたっては、スペックや出玉において、大幅な緩和が付随するであろうというのが業界関係者の意見の大勢を占めるし、開発メーカーからも同様の声が聞こえてくる。メダルレス遊技機の市場導入まで、早ければ1年とも言われ、2~3年後には管理遊技機・メダルレス遊技機への移行が本格化するだろう。

ただし問題は、「そこまでお店が持つか」ということだ。
都内某ホールの店長はこんな不安を漏らす。「産業は成熟し、ただでさえ縮小傾向にあったパチンコ業界はコロナによってより苦境に追い込まれています。確かにこの苦境を乗り越えれば、『残り福』といわれているような状況に巡り合えるかもしれませんが、今は目の前のことで一杯ですよ。それはウチだけではなく、周りのホールもほとんどがギリギリの状況でやっていると思います」

「凱旋」なきホールのニューノーマル、と一言で片付けるには、業況があまりに芳しくない。そのような中でも、業界団体の呼びかけに、積極的であれ消極的であれ、「凱旋」の撤去という結果で応じた全国のホールに小誌は、何よりも激励の拍手を送りたい。

今は業界が一丸となって歯を食いしばる時。希望という安易な言葉は、今を乗り越えた先にしかない。

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