将軍、ジャスティスの屋号で東京都を中心に首都圏や中部、東北地方にパチンコホール15店舗を展開するサンキュー。
1978年設立の同社は名古屋市中区に本社があり、ホールの他に不動産や人材派遣業、フィットネス事業なども展開している。
5月25日、新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づく緊急事態宣言が全国的に解除された。以降、多くのホールが営業を再開したものの、1カ月以上に及ぶ協力休業の爪痕は大きく、新たな取り組み課題を業界に突きつけている。
感染症の収束がいまだ見えない中で、どん底から再生へと歩み出したホール。その一方で、6月下旬以降、再び東京都内を中心に感染者数は増加傾向を示し、第2波、第3波への懸念が広がっている。
そんな状況下にある7月上旬、都内の上野公園内の不忍池には夏の風物詩・ハスが所狭しと咲き誇り、マスク姿で散策する人たちの目を楽しませていた。
「こんな時期ですから、密にならないように屋外でのインタビューを」と自ら同公園を指定した今井がこう話す。
「98.7%のホールが協力休業に応じたにも関わらず大きなバッシングを受けました。いま振り返るとそこが一番の底辺で、これからはやり方や心がけ次第で上向きになるのではないかと。個々のホールもそうですが業界団体がより団結力を高めることで大きな飛躍につながるのではと思っています。今回、取材を受けたのも未曾有のコロナ禍で静観し、沈黙していてはいけない。ここで何か少しでも前向きな発言をしておきたいという気持ちがあったからです」
同社の店舗は1都7県に広がっている。地域による温度差があった今回の休業要請だが、14店舗すべてが応じた。その過程で、若干のトラブルもあり、それが逆に気を引き締めるきっかけにもなったという。
「愛知県知事が行った休業要請に応じない店名公表で弊社と同名の店舗がありました。するとウチの店だと勘違いしたマスコミから電話があったり、金融機関からの『どんなつもりで営業しているんですか』という問い合わせもありました」
コンプライアンスを重視する企業に融資をすることを検討する金融機関のこうした姿勢は「大きな教訓になった」と振り返る。
また、「今回は政府と行政に振り回された印象も強い」という。例えば、都知事が「本日の夕方に発表します」と突然新しい方針を決めたり、政府が緊急事態宣言を出したり、その対応を都道府県知事に委ねたりで、営業現場があたふたする事態が続いた。
前例のない初めての体験に直面した行政による〝付け焼き刃的〟対応が、全国各地で頻発し、一般の人たちを右往左往させた。
そうした中、同社の店舗も長くて1カ月半の休業を強いられたが、「15店舗中13店舗が自社物件で、家賃が発生しなかったことが不幸中の幸いでした」と話す。とはいえ、「精神的な不安が大きくのしかかった」のもまた事実だ。
「このままでは日本経済がどうなるのか、社内の統率をどう取っていくか、再開してもお客さんは来てくれるのか、バッシングを受けないためにどんな営業をしていけばいいのか、従業員の安心・安全のためにクラスター対策をどうすればいいのかなど課題は山積みでした」
そして今、最も強く感じているのが「業界団体による結束の必要性です」と話す。
「今回のようなバッシングにあった時、どう対応していくかを考えていかなければいけません。休業要請を守らない1.3%のホールに目を向けられて激しく叩かれる。それに業界は効果的な反論ができない。再びそんな状況に陥らないように、マスコミ対策をしっかりやりつつ、業界団体は組合員に対し除名勧告も辞さない毅然とした姿勢を示し、足並みをそろえるようにしていかなければいけない。また、組合の理事長や団体の理事などの要職にある人は率先して模範を示すべきではないかと思います」
コロナ禍では従業員と顧客の安全という大義名分を掲げた休業と、それに伴う、従業員へ8割の給与補償という今井の決断は社員の心をつかみ、正社員とアルバイトを含め1人の離職者も出さなかった。
「昔からそうなんですが、弊社は店舗が県をまたいでいることもあって結束力が強いんです。僻地に離れて店があるからこそよく連絡を取り合っていますし、仲もいいんです」と社員を評する。近隣にはないため競合することもなく、客層も違えば、風土も違う。
例えば東北の田舎町であれば農繁期にどんなに集客を仕掛けても客は増えない。都心のやり方とまったく違う。それぞれ異なるノウハウがあるという。
また、同社の店舗は決して大型店ではないが、その多くは駅の近くで、かつ競合店が少ない立地にあって堅実な営業をしている。
「ちょっと変わった出店方法かもしれません。普通は愛知が地元だったらそこで店を広げるのでしょうが、ウチの企業風土として儲かるところに出店してきました。会社設立から3店舗目には幕張、4店舗目には八王子。あれよ、あれよと関東の店が増えてきたんです。地場は愛知ですが会社のウエイトは関東と東北にあるといえます」
同社にとって〝儲かる〟場所の条件とは、東京であればまず駅前で、店舗が競合しないこと。それはイコール安定した商売ができるということである。
都内で駅前であれば地方と違って土地が限られているので競合する大型店舗を出せない。また、都内の駅前であれば土地の資産価値も高いし、銀行の融資を得られるというメリットもある。
「都内の駅前物件の取得は不動産屋との出会いや人との縁のおかげ」と今井は言うが、他の人が目をつけないような物件を見出した例もある。
「旗艦店でもある田端店の場所は元々、JRの土地で不法投棄が多いゴミ捨て場だったんです。不動産屋の仲介でJRがそこを売りたいと。で、見に行ったんですが電車が停泊している場所というイメージで駅の目の前ではありますが、周りには何もないロケーションでした。でもそこにあえて出店したことで弊社に勢いがついた感じです」
繁華街のパチンコ店が密集する活気ある主要駅と違い、パチンコ店がぽつんと1軒だけある田端駅。オープン当初はパチンコ店のイメージがない駅にどう人を呼び込むか苦労したという。
当時、できる限りの集客戦略を駆使し、地域のパチンコ人口を増やしていった。
同社は現在、チェーン店全体でコロナ前の約7割程度の粗利で推移しているという。東北は8割、関東は約6割、全体平均では約7割という計算だ。
「この先、関東も東北と同じ程度の回復は見込んでいるが、コロナ前と同じ稼働・売上は望めないだろう」と予測する今井は、「機械代を抑える一方で、働き方改革を進めて離職率を下げようと考えている」という。
それはIT企業などに見られる副業制度の導入である。パチンコ業界では2018年、セガサミーホールディングスが副業制度「JOB+(ジョブプラス)」を導入したことで話題となった。
「本業をおろそかにしない範囲で副業もやってくださいねと。コロナの影響で今夏のボーナスは何割かカットです。この先も売上アップが見込めない中で、何かを変えていかないといけません。それには副業制度の導入が一番適切だと思います。新しい別の職場で個々の能力や技術を向上させ、それをウチの店で発揮してもらう。例えば銀座のスナックでバイトしつつ、その笑顔でまたウチでも頑張ってくれる。そんな女性社員が多くいる会社も面白いんじゃないでしょうか」
一方で、今回のコロナ禍で業界にとって大きなプラスとなった旧規則機の撤去に関する経過措置の延期とセーフティネット保証の対象業種となったことについてもこう言及する。
「規則改正に伴う旧規則機の延期は、自主的な撤去を計画的に行うことが前提になっているとはいえ、入れ替えコストが抑えられるという意味で非常に大きいです。同じくセーフティネット保証の対象となったことで、今申請している融資が下りれば資金面でとても助かります」
今回の窮地の中で、金融機関は融資話に前向きに応じてくれたという。しかし、それはパチンコという業種の収益性がまだ安定している(回収の見込みがある)という証でもある。その反面で、インバウンドに頼っている業種への融資枠はかなり厳しい状況にあるようだ。
「パチンコはインバウンドとはほとんど縁がありませんし、好きな人はしばらく離れていても少しずつでも必ず戻って来ます。戻ってきた人が禁煙で空気もきれいになったパチンコ店に、非喫煙者の新規のユーザーを連れてくることだってあるでしょう。あとはこの先、組合や団体がどのように業界を盛り上げていくか次第だと思います」