【特別対談】東野昌一 × 加藤英則「令和維新〜共に創ろう。パチンコのMIRAI〜」

2020.09.11 / 組合・行政

1994(平成6)年に設立された日本遊技産業経営者同友会、2003(平成15)年に設立されたパチンコ・チェーンストア協会。
長年にわたり活動を続けてきた2つのホール団体が、それぞれの特性を融合し、新しい目的に向かって合併を予定している。

令和時代の初頭に動き出した大きなうねりが、業界の未来の夜明けを告げる。

令和維新
〜共に創ろう。パチンコのMIRAI〜


【特別対談】
一般社団法人MIRAIぱちんこ産業連盟
東野昌一(同友会) × 加藤英則(PCSA)


新団体設立の経緯と背景

―まず合併の経緯について教えてください。

加藤代表(以下略加藤) くだけた席などではずっと前から合併という話は出ていましたが、具体化してきたのは2年ほど前です。元々、作ったメンバーがほとんど一緒で、同友会のスピンアウトがPCSAです。両団体の目的「より良い業界を目指す」という部分は同じで、そのための手段が若干違う程度です。
ここ数年、ホール数がどんどん減っていく中で、それに伴い会員数も減っています。数の理論ではありませんが、ある程度の数を保った方が力も保てるのではないか。その上で、行政やメーカーや社会に対して情報を発信できるような組織団体を作ろうということで具現化していきました。

東野代表(以下略東野) PCSAはチェーンストア理論から始まって、中には海外上場する企業もあったりして、どちらかと言えば大手企業のイメージです。一方、同友会は中小企業がメインです。この両団体は、自ら志願してお金を出して時間を使って研鑽するという、いわば「志願兵」の集まりです。自らの意思で参加しているわけですからそこで学んだものを自社に持ち帰って生かす。その根本に産業をより良くしたいという思いがあれば、考え方は色々あっていいはずです。政党ではありませんから、同じ考え方の人だけが集まっても意味はないと思います。いろんな考えの人が集まって、その中で議論して、今やれるか時期尚早かを振り分け、物事を前に進めていくためにも数は必要です。

―確かに数は大きな力になります。それ以外で合併の決め手のようなものは何かありますか。

東野 2団体が別々でなければいけない理由を探す方が逆に難しい、ということです。誰が考えても一番距離が近いのはPCSAと同友会です。私自身も立ち上げの時にPCSAに参加した1人です。今回、PCSAと同友会が合併することでホール団体は4団体になりますが、以前に比べ各団体間の距離が非常に近くなっているという実感はあります。この先、ホール、メーカー、販社といった垣根を越えてパチンコ産業として1つにまとまっていかないと僕らは生き残れません。特にコロナ禍でそのことを痛感しました。医師会も建築業界も自動車業界も基本的に団体は1つです。今回の合併は産業として前に進むための第一歩だと思っています。

加藤 合併はこの2団体にとどまるとは思っていません。この先、できればいろんな団体を巻き込んでいきたい。その方が業界としてまとまりやすいですから。

―合併にあたって何か支障はありましたか。

加藤 特に大きな支障もなく物事が進んだという印象です。定款を作る時もさほど問題はなかったですね。それぞれの団体の歴史があって、細かい部分は違いますが大義の部分では同じですから。

東野 定款については僕らが所属するのは最終決定を下す機関であり、組織づくりは実動部隊が担当していますので、特段の支障を感じていないのかもしれません。ただし、これから運用していく過程でどうなるか分からない部分はあります。それを来年の総会までの半年間、実際に活動しながら練り上げていくつもりです。

新団体MIRAIぱちんこ産業連盟の設立総会は10月19日に都内の「ハイアットリージェンシー東京」で行われる。
コロナ禍なので密を避けるため招待制の少人数で実施する。当日の次第は現状では未定。
来年5月の社員総会までの間、代表理事は2人体制となる。設立総会後、約半年間は同友会、PCSAそれぞれがやってきた活動の延長線上で相互に相乗りしながらでやっていく。つまりPCSAがやってきた活動に同友会が参加し、同友会がやってきた活動にはPCSAが参加する流れ。その中から活動の取捨選択をし、かつ新しい活動も加える。
この半年間は、いわば新団体としての活動・取り組みを開始する助走期間となる。


直面する課題に対処するために

―新団体としての新しい活動とはどんなイメージですか。

加藤 行政やメーカー、社会に対する政策提言が中心になっていくでしょう。コロナ禍で業界はセーフティネット保証や規則改正(遊技機規則等の改正に伴う経過措置期間の延長)を勝ち取りましたが、それはあくまでも「改善」にすぎません。新団体が目指しているのは改善でなく「改革」です。例えば現行の遊技機の規則をガラッと変えたり、時代の波に乗ってホール内をキャッシュレス化したりというような大きな改革を目指していきます。

東野 これまでやってきた委員会活動でも、そうした改革に興味を持っている会員が多いのは事実です。団体名にMIRAI(未来)を冠している以上、次の世代にどうつなげるかという取り組みが必要になってきます。セーフティネットの件も、遊技機の延長の件も確かに画期的なことであり、全日遊連を中心とした組合団体の努力の賜物です。それは高く評価していますが、客観的に現状を見れば、店舗数はピーク時の半分になりジリ貧状態であるのも事実です。次の代にバトンを渡す時に「わくわくする業種」という状態でなければ引き継ぐ価値はありません。最悪のシナリオは業種を変更しなければ社員を食べさせられない、となることです。行政を含めて多方面にアプローチし、それだけは阻止しなければいけないと思っています。

ジリ貧から脱するにはその場しのぎ改善ではなく、大きな改革が必要であると強調する両代表。
その手段として行政や社会に対するアプローチ、政策提言の必要性を強調する。それは新団体のミッション(使命)でもある。
そこには「業界団体」として、「ぱちんこ産業が発展していくために、適正な法体系および自主的なルールを作成」し、「認知を拡大する活動を行う」とともに、「公正かつ公平な競争ができる環境の実現を目指した業界ガバナンスを構築していく」ということが掲げられている。


―直近の具体例を挙げると、コロナ禍における休業要請に応じないホールの店名公表やそれに伴うマスコミによる激しい業界バッシングがありました。先の東日本大震災の時も同様、国難があるたびにパチンコ業界は標的にされ、スケープゴートにされてきました。そうした現状を打破し、改革していくこともパチンコ産業を未来につなぐために必要だと思います。

東野 コロナ禍でのバッシングを受けて先般、21世紀会の中に広報部隊ができました。その中心には新団体に絡んでいる人もいます。ただ、パチンコ・バッシング対策は新団体だけではできません。今回、一部のホールが休業要請に応じなかったことで大きなバッシングを受けましたが、全国的にホールの休業率は他産業に比べてはるかに高いものでした。それにも関わらず、パチンコホールばかりがターゲットにされる。その根本的な原因となるパチンコ業界の負の側面やグレーな部分を払拭していかなければ、国民から理解されないということをまず僕たちが認識しなければいけません。

加藤 それは機械の件でも言えます。高射幸性回胴式遊技機を含む旧規則機の撤去問題で当該機種を設置し続けるのは法律上、違法ではありませんが、モラルとしては間違っていると思います。それを設置し続けるのは恥だという認識を持てる業界でないと国民には認めてもらえないでしょう。その意識を経営者がしっかり持っていないと、そこで働く社員やアルバイト、出入りの業者を含めて変わるということはないでしょうし、ひいては世間やマスコミが業界を見る目も変わらないでしょうね。

―旧規則機の計画的撤去に関する21世紀会の決議に対して、ホール組合による違反した組合員の資格停止処分など、厳しいペナルティーを課す方向で規定が変更されています。

加藤 本来であれば、ペナルティーを課さなければいけないこと自体が恥ずかしいことです。でも守らない人たちがいることも事実です。であれば仕組みや技術で対処できるのではないかと思っています。遊技機の仕様の件など、現行法では難しい話もあるでしょうが、そうしたこともどんどん提言していければいいと思います。

東野 管理遊技機が出てくれば、もっといろんなことができるようになるでしょう。でも国が罰則規定を作って法律で処分されるよりは、まず業界内で襟元を正すということが大事で、それを業界内外に理解してもらう仕組み作りが必要だと思います。ルールを守らない人が得をするということは、断固として阻止していかなければなりません。

加藤 今回の旧規則機の計画的撤去に関して思うのは、業界の第三者機関として射幸性の審査委員会を作ればいいのではないかということです。そもそも射幸性の基準は年月を追って変わるわけですから、その時々の社会情勢や景気などを判断して、厳しくしたり、緩めたりを提言する。現状のままだと行き過ぎると警察庁に指摘され、すべてを外すということになり、一気にしわ寄せがホールに来てしまいます。第三者による審査委員会が常にチェックしていればそんな大きな事態にはならないでしょうし、社会に対しても透明性をアピールできます。

東野 現状、業界はどちらかというと守りの広報活動ですが、将来的には業界をどう理解していただくかという攻めの広報ができる組織を作っていきたいと考えて動いています。ただ業界の課題は長い歴史によってミルフィーユ状になっています。急に変わるわけではないので、1つひとつを片付けていくしかありません。綺麗事で簡単に済ませてしまおうとすれば、国民にも行政にも政治にも理解されません。それを僕らの世代が変えて、イノベーションを起こしていきたいのです。


新団体に求められる使命と役割

―MIRAIぱちんこ産業連盟は7つのバリュー(価値観)を土台にして2つのミッション(使命)に取り組み、5つのビジョン(目指すイメージ)を実現していく(図表参照)ことを掲げています。そこに込められた両代表の思いと、伝えたいメッセージを教えてください。

東野 目標はパチンコの未来をイノベートすることですが、それは短期でできることではありません。将来に向かって業界が変わらなければ生き残れないことを前提に、長期プラン、中期プラン、短期プランを分ける必要があります。その中で、僕らができるのは基礎の部分、設計図作りです。建物が出来上がるのはまだ先の話ですが、その基礎の部分が大事だと思っています。今日明日答えを出すのではなく、ここ数年をかけて多くの人たちの賛同を得ながらいくつかの答えを出して、21世紀会に提言していきたいと思っています。

―21世紀会内で新団体はどのような位置付けになるのでしょう。

加藤 臆せず意見を言って、どこよりも行動して他団体に大きな影響を与えられるような存在になりたいですね。PCSAには勉強会などで蓄積してきた頭脳がありますし、同友会には多くの行動部隊がいます。提言したり行動したりするには、十分なメンバーがそろっています。21世紀会は5年、10年前に比べるとはるかに物が言えるような環境になっていると感じています。

―パチンコ業界の未来図について具体的にどのようなイメージを描かれていますか。

加藤 もっとIT技術を取り入れて、コストも下がっている状態です。コストを下げ、その分をお客様に還元していかないと存続や発展はできないという危機感があります。今は無人のコンビニもあるくらいですから、キャッシュレスのホールがあってもいい。遊技機も今のようにリアルでなくても、パソコン画面の前で好きなゲームをダウンロードして遊べばいい。それはもうパチンコとは呼べないものなのかもしれませんが、それくらいじゃないと新しいユーザーは獲得できないと思います。その時にはインもアウトも電子化されているイメージです。

東野 私自身が業界に携われるのがあと10年くらいではないかと思っています。10年後はまだそれほど変わっていないでしょうが、その先を今業界に携わっている20代、30代の人たちがどう考えるかです。趣味嗜好が大きく変化している社会で変わっていかなければ未来はありませんが、あまり大きく変えすぎてしまうと今のユーザーを失うことになります。その意味では大きく変える部分と変えてはいけない部分があると思います。ネット社会の中では、すべて家にいてバーチャルの世界で完結してしまいます。一方、パチンコは現実のお店に来てもらうことに意義があると思っていますので、そこは何とか残していきたい。そのためにもコストの低減は重要です。近い将来、キャッシュレスになるでしょうし、玉もメダルもなくなるでしょう。人件費や遊技機の製造コストなども下がってくるでしょう。それを考えると、コスト低減の問題は、許認可に係る行政や政治との関連性に集約されてくるのではないでしょうか。

―ネット社会やウィズコロナの時代にあっては、ホールに出向く動機作りが今まで以上に必要になってきそうです。

東野 わざわざそこに行く、そこに行かなければできない体験作りが重要です。そのためには場の雰囲気やコミュニケーションが大切です。年配層などからはホールを病院の待合室と同じように使ってもらっていますが、それは地域に貢献している部分だと思っています。その延長上で地域に関わる福祉活動や町のお祭りなどもパチンコホールに頼めば協力してくれると思ってもらえれば、ホール存在価値も高まり業界にとって大きなプラスです。

加藤 IT技術や機械の進化を図る一方で人とのコミュニケーションをより深め、双方の融合を図っていくことはとても重要だと思います。機械もホールも血が通ってないと死んでしまいます。とにかく若年層を開拓していかないと、平均年齢が毎年1歳ずつ上がっていくのは新しいユーザーが増えていないという証拠です。今は年配層に支えていただいているのは事実ですが、その方々が息を引き取る時に「あー楽しかったなぁ、パチンコは」と思っていただけるくらいにしたいですし、その方々から若い世代にパチンコの楽しさを伝えてもらえるような業界にしなければいけません。

―最後に読者へのメッセージとして新団体MIRAI設立の意気込みをお願いします。

加藤 一言でいうと「業界の革命児になる」です。現状での目先の改善も重要ですが、何年かかってでも根本のところに手をつけていく必要があります。新団体に入ることのメリットは、「共に学び、活動することでこの業を残すために何をすべきかが分かってくる」ということ。1人の考えでは限界があります。みんなで意見を戦わせることで多くのことが学べるはずです。合併したことで現在の会員数は約80社、さらに新規会員になりたいと手を挙げておられる企業もあります。店舗数で言えば全日遊連に次ぐ大きな組織になります。

東野 「競争から共創へ。共に創ろう、ぱちんこの未来を」という新団体のメッセージにあるように他団体や加盟企業と協調・協働しながら活動することになります。どの組合・団体とも友好的な関係にある同友会は、他団体の情報を含めて情報が収集しやすいということと、現場向けの優れたカリキュラムがあり、入ってないと損をするという認識で会員数は年々増えています。加えてMIRAIに入ることでPCSAのいいところも余分に吸収できます。保守的な部分や革新的な部分、中庸的な部分などいろんな方向性を持った方が一緒に学んで、自社に持ち帰ってそれを活かせる場になると思っています。

8月に日遊協の新会長に就任した西村氏と、理事長として4期目に突入した全日遊連の阿部氏。
そこに、未来を志向する新団体MIRAIぱちんこ産業連盟が加わることで、ホール組合団体間の風通しと改革スピードはかつてないほど増してくる。さらにメーカーや販社、周辺機器の団体との横のつながり、結束も深まっている。

右肩下がりの売上と遊技客数に追い打ちをかけるコロナ禍というかつてない危機の中で、パチンコ業界は今、持続可能な産業として再編、改革を図る動きが急速に進行している。

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